エナビア記 - Book of Enavia

  • クス城の三姉妹の末っ子ルーシアの初恋を綴った恋愛小説。
    甘酸っぱいラブコメかと思いきや結構シリアス。
    断言は出来ないが、その結末は[ウイユヴェール]へと続いている様なフシがあり、
    続けて読めば彼女の凄絶な人生を垣間見る事ができる。

プロローグ この見出しを編集

ここは、クス城の庭園。

城主アルベルトの三人娘が、家庭教師の午前の授業を終えて、庭へ現れました。

長女、マリアは17歳。

「私、ハープの演奏会に出ることになったの。初めてだもの、なんだか緊張するわ」

次女、アリシアは16歳、乱暴で少し言葉遣いに問題があります。

「あら、姉さんなら平気よ。いつも偉そうに教えてくれてるじゃない」

そして、末っ子のルーシアはまだ13歳。

「でも、たくさんの人が聞いてるのよね?うわぁ、考えただけで緊張しちゃう」

そして、そのルーシアが一番気になっているのが・・・・・・

「待てよバロン!芝生に入っちゃダメだ!お館様に叱られるのは僕なんだぞ!」

「ここを追い出されたら、のたれ死ぬしかないんだぞ!!」

庭師エディの息子で使用人の、カート・グロール14歳。

ルーシアとの間には、越えがたい身分の違いがあります。

だけど、彼のことを思うと、胸のときめきが止まりません。

『ああ、このときめき!誰にもいえないこの胸のときめき!

 どう説明すればいいのかしら!?そう、初めてリフとパーティーで踊った時、

 初めてお父様から紹介されたあの時、あの時のときめきを100くらいとすると・・・

 そうね、このときめきは、・・・・・・』
 そうね、このときめき

『200くらいかしら?ああ、私のカート、どうして私の胸をこんなに騒がせるの!?

 このときめきが、300になって、500になって、1000になったら、

 その時、私はどうすればいいの!?ああ、カート、どうしてあなたは庭師なんか生まれたの?

 どうして私は貴族になんか生まれたの?』

「ひどいわ!あんな汚い犬を庭に入れるなんて!」

と、アリシアは何かにつけ怒ってばかりで、いつもマリアになだめられています。

「アリシア、言葉が過ぎませんか?庭には鳥も犬もいていいじゃないですか」

そんな優しいマリアが、ルーシアは大好き。

『んもぅ、アリシアってイジワル。バロンのこと汚いなんて、ひどすぎ!

 ・・・・・・もう、こんなのうんざり。カートと一緒にお花を育てて過ごせたりしたら、

 どんなに素敵かしら』

『でも、とても口に出して言えないわ・・・・・・

 お父様が決めてくださったフィアンセには何て言えばいいの?』