FINAL FANTASYX−十二の光− 終章−分かつ世界−

その日の早朝は、非常に寒かった。氷の女王の季節が近づいてきているのだと、まざまざと実感させられる。
だが、それとは別にウォータスに集まる戦士達はその身を震わせることとなる。
今日が闇との最終決戦であるがためにだ。
果たしてその震えが、武者震いなのか恐怖のために震えているのかは当人に聞かなければならないが、それぞれの表情は険しく、勇気をその瞳に宿していた。
昨晩で、恐慌にかられ逃げ出した者はほぼいなかった。
闇の浸透はこの世全てを暗闇に閉ざすこととなり、何処へ逃げても同じく命を落とすことを皆知っているがために。
また、同時に光の戦士の活躍が皆に勇気を湧かせ、希望を与えたために脱落者が出なかったのかもしれない。
逆に増えているのが実状である。それも、ほぼグランゼルの民である。
グロア達の儚い犠牲は決して無駄ではなかったのだ、これ程の民が立ち上がってくれているのだから。
世界各国から募った軍勢は、光の戦士であるレイン達より早く出撃した。
各王が取った作戦では魔物共全てを全軍でもって引きつけ、その間に光の戦士を乗せたシドの飛空艇を無の世界に突っ込ませるという単純なものだった。
「では、そろそろ出発するか。」
シドがエンジンを作動させながら言った。
レイン達はその言葉に力強く頷き、出発することに同意する。
レイン達が頷くのを確認したシドは出発する合図を技師達に送り、技師達もまたその合図を待っていたかのように素早く出発の手筈を整えた。
そして、飛空艇が唸りを上げながら上昇し始める。
その時レインは必ず皆と共にこの地を再び踏むのだと強く祈った。
決して死なせない、死なないことを。
飛空艇は真っ青な空へ飛翔した。空は雲一つない快晴である。
まるでクリスタルのように澄みきった青空は、自分たちの勝利を確信させてくれるような暗示を与えているように見えた。
一時、空を飛んでいると早くも戦いの喧騒と剣撃がレイン達の耳に届いた。
レイン達はすぐさま身を乗り出し眼下を見ると、壮絶なる戦いが地上で繰り広げられていた。
様々な魔法が飛び交い、咆哮と断末魔が戦場に響き渡る。
また、多くの戦死者も伺えた。
ベヒーモスのチャージを喰らったのだろうか、その角に貫かれたまま絶命している者や、ドラゴンの灼熱のブレスを受け炭と化しているの者もいた。
空を舞う敵も発見していたが、あのシルフィードの誇る竜騎士団が飛竜に跨り、
ランスで容易く敵をなぎ払っているのを見ており、空を飛ぶ魔物に関しては安心して任せて良いと思っている。
先程も、竜騎士団副団長が飛空艇に近づき、ディールに激励の言葉を贈っている。
血路は開かれた。
後は、自分たち光の戦士の役目を全うするのみである。
シドはそのまま、全速力で飛空艇を飛ばし無に突入した。だが、飛空艇は一瞬無に入ったものの、すぐにシドもろとも弾き飛ばされたのだった。
何故弾き飛ばされたか分からないが、後ろを見やるとそこに控えていた光の戦士達の姿はないことから自分の役割を果たしたのだと、シドは自分を納得させた。
「任せたぞ、光の戦士達よ・・・。」
目の前に広がる無に、シドは祈るように呟くのだった。
「ここが、無の世界か・・。」
レインは飛空艇から放り出された衝撃から、立ち直りつつ眼前一体に広がる景色を見やり言った。
また、仲間達の安否も確かめる。
五人はそれほど離れた場所にはいなく、目に見える場所にそれぞれ無事でいた。レインはとりあえず安堵の息をこぼす。
「それにしても不思議な場所ね。」
サフは衝撃で放り出した杖を取りながら言う。。
「確かに、黒一色の世界だが暗闇というわけではない。」
「しかも、重力を言うものも感じさせないな。」
フェイザスは未知なる無の世界に感想を述べた。
確かに、フェイザスの言うとおり、暗闇というわけではない。日の下で見るのと同じく、しっかりと仲間の顔を確認できる。
また、重力も感じさせないのも間違いない事実だ。まるで、自分の存在がないと思うくらい、重さを感じさせなかった。
後、黒一色の世界のため自分たちが浮いているのか、地に足を付けているかも分からないのも事実だった。
レイン達が慣れない廻りの状況に狼狽をしていた時、唐突に男の声がレイン達にかかる。
そして、突然目の前にローブ姿の黒髪の男が現れた。言葉の主であることは容易に見当付く。
「貴方がエヌオーね。」
ファルは相手を睨み、戦闘態勢に入りながら言う。
皆も、聞かずとしても相手の正体をほぼ理解しているため、戦闘態勢を整え始める。
「いかにも、我こそがエヌオー。」
不敵な笑みをこぼしながら、エヌオーは言い放つ。
「我、司るは闇と無。無こそが永遠の安らぎと知り、全てを暗黒に回帰させる者。」
「させてなるものか!暗黒神よ!!」
剣を抜き放ち、レインは凄む。
「だが、事無く進んだことに、ある意味人間共には感謝せねばなるまいな。」
笑みをこぼしつつ、エヌオーは話続ける。
「どういうこと?」
サフはそのエヌオーの言葉に、不審な表情を浮かべ問いだす。
「我がこの世に関与できたのは、人間共が創り出した『時空魔法』と、この愚かな人間のおかげ。」
「我が力得たのも、人間による負の力のおかげ。」
そこまでエヌオーは言うと、遂に笑い声を上げ笑い出した。
「だが、お前にはもう配下なる十二の魔物もいない。そして、お前が召喚した無の魔物も今、俺達人間によって消し去られようとしている。」
レインは怒りの震える声で、エヌオーに言い放った。
「十二の魔物は見事、与えられたことをこなしたぞ・・・。」
「あの者達の目的は『無の力をこの世に出現させる』こと。
すなわち、クリスタル共に結界を張らせた時点で達成されたのだ。もっとも、出来れば破壊してもらえば越したことはないのだがな。」
「なんだと!」
ディールが十二の魔物の真の目的を聞き、動揺の声を上げた。
「無の出現に我の力を注ぎ込んでしまえば、完全復活などあり得ないのでな。」
「それと、貴様達の言う人間共は我が召喚した『破壊神』によって、この世から消え去ることとなろう。」
エヌオーはそう言い再び、残忍な笑みを口元に浮かべた。
「破壊神って何よ!!」
ファルもまた、衝撃的な事実に動揺しつつも凄む声で言う。
「五千年前栄えたロンカ文明の遺産。クリスタルが封印せし究極破壊兵器『オメガ』・・・。」
「かつて敵対していた魔法文明セルリナの時空魔法に対抗するべく作られた兵器と聞く・・。」
エヌオーの言葉にサフは絶望を感じた。
古い書物で読んだことがあったのだ、五千年前のロンカとセルリナが滅びた理由として
『全てを焦がすロンカの破壊兵器が暴走し、二つの文明を消し去ったのだ』と。
それ以上詳しく掲載されてないため深くは知らないが、歴史上最大といわれる、
ロンカとセルリナを滅亡に追い込んだ破壊兵器が動き出したことは間違いなく、勇敢なる戦士達の死をはっきりとさせるのには申し分なかった。
「クックック・・。その魔道士はこの言葉の意味を理解できたようだ。
全ての人間はその兵器によって無に帰す事となろう・・・。ある意味『破壊神』ではなく、『救世主』かもしれぬな。」
「絶望しろ、嘆け!もう終わりなのだ何もかも!!」
エヌオーは高らかに光と闇との戦いに勝利したかのように笑った。
「フッ、貴様の息の根を早く止めれば事なく済むのではないか?」
ディールはホーリーランスを構え言う。
「ああ、早く倒してみんなを助けようぜ!」
レインはディールの言葉に賛同して、不敵な笑みをこぼす。
「貴方を倒すことこそが、私たちに課せられた使命。闇との決着は貴方の死で賄われるのよ。」
杖を構え、毅然とした表情でサフは言う。
「お爺ちゃんの死は無駄にはしない!」
ファルは炎に包まれた鞭を片手に、今は亡き師を胸にエヌオーと立ち向かう。
「我に臆することなく立ち向かって来るというのか。よかろう、ならば我が真の姿をその瞳に焼き尽くして死ぬがいい!!」
エヌオーはそう言うと、いきなり咆哮をあげた。
そして、見守るなか身体が巨大化してゆき、両肩から腕が生え、下半身も四肢の魔物と合わさったかのような姿をかたどる。
最後には背に漆黒の翼が生えた。
まさしくその姿は禍々しく、邪悪そのものと言えた。
「我が完全復活は成った。もはやこの世を無に還すこと容易きことなり、全ての存在、全ての記憶、全ての次元を消し去り、無という安息を皆に与えよう・・・。」
「無なぞ、俺達が消し去ってやる!!」
レインのその言葉が戦闘開始の合図となった。
レインはそのままエヌオー向かって切り込みにかかり、ディールは高く跳躍し、舞い上がった。
フェイザスもレインに並んで切り込みにかかり、サフとファルはすぐさま魔法詠唱を始めた。
エヌオーもまた、魔法詠唱を始めた。
「我、時を司る神に願う。我らに宿れ!!神速の力!!」
「天空を支配する神々よ、不浄なる地上に浄化の光をもたらせ。聖なる光で埋め尽くすのだ。」
ファル、サフがそれぞれ魔法を完成させる。
ファルの放った魔法により、レイン達の敏捷性が一気に拡大され、サフの聖魔法でエヌオーの身を、神々の光で浄化せんとした。
そして、息づくことなくレインは得意の魔法剣をエヌオーに見舞った。
破壊魔法を宿した聖剣がエヌオーの身体を容易く切り裂き、破壊の閃光でその傷ごと焼き尽くした。
フェイザスもまた素早き剣閃でエヌオーを切り刻む。その剣は鋭く、エヌオーの巨大な腕が二本削ぎ落とされることとなった。
同時に天高く舞い上がった竜騎士の槍が暗黒神の頭部に深く突き刺さり、槍に宿る聖魔法が頭を破壊する。
だが、頭を破壊されてもエヌオーは残っている口から魔法詠唱を途絶えさせることはなかった。
また、残っている腕でレイン達をなぎ払おうとする。
レイン達は丸太のような太き腕の直撃を、間一髪の所でかわす。ファルのかけた魔法によって敏捷性が高められたおかげといってもよい。
その時、再びサフの魔法が完成した。
サフは破壊魔法を連続で放つ、膨張した魔力がエヌオー一帯を包み込み、
次の瞬間眩い光と耐え難い熱、そして爆発の衝撃が暗黒神の身体を吹き飛ばす。
続けてファルも魔法を完成させる。自分としてはこれで止めであって欲しいと願っていた。
「偉大なる竜族の王、バハムートよその荘厳たる姿を現せ!邪悪なる者に怒りのブレスを浴びせるのだ!」
ファルの呼びかけに、偉大なるバハムートが漆黒の翼をはためかせながら現れる。
(暗黒神エヌオーよ、我がブレスを受けるがよい。)
次の瞬間、竜王は口を大きく開き、燃え盛る灼熱のブレスがエヌオー目掛けて吐き出された。
先程のサフの魔法以上にその威力は有ると伺えた。
竜王のブレスはエヌオーの身体全てを包み込み、文字通り吹き飛ばしたのだ。
魔法が来るのを分かっていて退避していたレイン達だが、予想ざる威力のためにブレスの衝撃を受けることとなった。
「終わったか・・?」
バハムートの衝撃を受けたがためによろめき、立ち上がりながらレインは言う。
「!!まだ終わってはいないぞ、奴の魔法詠唱が途絶えていない!」
詠唱を耳にしたディールが警告の言葉を発する。
だが、警告の言葉からすぐに魔法は完成し、エヌオー健在を示した。
「天空に散らばる数多の星々よ、我が声に耳を傾けるのだ。幾閃光年の時空を越え、今ここに召喚されよ!!」
魔法の完成と共に時空間が一瞬揺らぎ、そしてレイン達目掛けて止め処なく燃え盛るメテオが落ちてきた。
当然ながら、時空魔法『メテオ』を初めて見たレイン達にとっては狼狽する材料として十分なものとなり、その破壊の威力を身を持って味わうこととなった。
「名の知れぬ癒しの精霊よ、我に癒しの光を!」
メテオが落ちて怯んでいるうちに、エヌオーは自身に治癒の魔法をかけ、破壊された頭部や、切り落とされた腕を癒した。
「我掴まんとする!出よ最強の剣『ラグナロク』!!」
回復魔法で傷を癒したエヌオーは、ルーンを短く唱え、剣をその手に召喚する。
その頃には光の戦士達もメテオの威力から立ち直っていた。
あの魔術師が味方を癒しているのが見える。
「何なんだ、あの魔法は!」
肩に出来た裂傷を手で押さえながらレインは悪態付く。
「多分、時空魔法最強といわれる『メテオ』と呼ばれる魔法だと思う。
時空魔法の書半分はエヌオーが取り憑いていた人間が所持していたかもしれない・・。」
ファルは推測のみの言葉で、レインの疑問について返答した。
「それにしても、あの剣は何だ?」
ディールがエヌオーの召喚した、ラグナロクを見やりつつ言った。
「我を傷つけた代償は、そなたらの命で贖ってもらおうか!この最強剣で真っ二つに両断してくれるわ!!」
エヌオーが激昂しながら、一気に間を縮め迫ってきた。
レインは正面から相手することを決め、ディールはまた再び跳躍し、フェイザスは側を離れ、居合い抜きをすることを決めた。
エヌオーは躊躇無く剣を振りかぶり、そのまま勢いよくレインを引きさかんとばかりに振り落とした。
レインはその斬撃をミスリルで出来た聖騎士の盾で受け流そうとするが、
エヌオーの剣はミスリルの盾をまるで紙を引き裂くかのように両断し、そして同時に盾で防いでいたレインの腕も切断した。
真っ赤な血吹雪をあげ、レインは呻きながら崩れ落ちる。
それを見たエヌオーは止めとばかりに、レインの頭目掛けて剣を振り落とそうとする。
「させるか!!」
その時、フェイザスとディールが声を合わせて、エヌオーの凶行を止めに入った。
フェイザスは鞘から抜き去った真空波で、ラグナロクの持つ腕を削ぎ落とし、ディールの槍がまたエヌオーの頭蓋を砕いたのだった。
「ガァァァァーー!おのれ人間共め!!ならば、痛みを感じぬままこの世と別れを告げさせてくれよう!!」
完全に怒り狂い、エヌオーは死の宣告をレイン達に放った。
神である自分が人間共に、これ以上貶されてはなるものかと言わんばかりに。
「燃え立て、灼熱の火炎!!」
魔法を詠唱せずに、エヌオーはそう叫ぶ。
すると、いきなりサフを中心に紅蓮の炎が出現し、中心部にいたサフや隣いたファル、サフの癒しを受けていたレインが業火に焼かれることとなった。
「何だと!!ルーンを詠唱せずに何故魔法が発動するのだ!」
ディールが燃え盛る炎を目の前に言う。
「我は神ゆえに、『奇跡』と呼べるものを引き起こすことが出来るのだ、そのため魔法詠唱を必要としない。」
「お前達にもその奇跡の力をを味合わせてやろう・・・ほとばしれ、破壊の稲妻!!」
エヌオーが再び、そう言い放つと辺り一面に雷が落ちた。ディールとフェイザスもだが、炎に焼かれていたレイン達も稲妻の犠牲となった。
よもや、エヌオーの前に立っている者なぞ居なかった。
微かに皆息をしているが、先程言ったとおり痛みを感じることなく死を与えることにしようとエヌオーは決め、高らかに魔法を詠唱し始めた。
痛みを感じせず死なせるのは神として、せめてもの慈悲だと思えとエヌオーは心の中でほくそ笑みながら言った。
「我、時を司る神に願う。時という流れを塞き止め、全てを時の呪縛から解放せんことを!!」
エヌオーの魔法は完成した。
魔力の消費は激しいものの、間違いなく光の戦士にはもう成す統べないと言えた。
何故なら、この魔法はその時空間の時を完全に止めることの出来る魔法なのだから。
まるで、石の彫像のように動かなくなった戦士達がエヌオーの前にいた。息も、心臓の鼓動さえもこの魔法によって停止されたのだ。
いや、それどころか空気の流れさえも感じないと言えた。
「・・・それも当然、我が時を止めたのだ。さあ、死ねぃ!」
魔法の効果に満足したエヌオーは再び魔法詠唱を始めた、メテオと呼ばれる最強の時空魔法で屠ってやるつもりだ。
人間が創り出した魔法で死ねるのだ、これ以上あつらえた死に方はないだろう。エヌオーとしてはこれから死に逝く者への手向けの華のつもりである。
魔法は完成し、光の戦士目掛けてメテオが落ちた。レイン達は身体が硬直したままの状態で隕石の直撃を連続して受ける。
恐らくこれで死んだと思うが、まだ時空間が停止しているがためもう一回、念を入れてメテオを落とした。
もはや、死んでなければ不思議だとエヌオーは、間違いない勝利を確信したのだった。
「時間が動き出したな・・・。」
エヌオーは時空の揺らぎを感じ、再び時間が動き出すのを悟る。
そして、次の瞬間息のしない死体がそこに転がっているはずだった−しかし。
「レイン、大丈夫?」
サフはそう言い、レインの身体をすぐ自分から離し、上体を仰向けにして回復魔法を詠唱し始めた。
レインはあの炎と稲妻、そして時間停止の間のメテオをサフに覆い被さることによって、サフの身を守っていたのだ。
炎と稲妻はサフの魔法によりなんとか防いでいたが、時間停止には流石に対処できず、魔法の直撃を受けることとなった。
だが、強靱な精神力により辛うじて死の世界に旅立つことはなかった。
他の仲間も、同じく重傷ながら生きていた。
「な、何なのだ、この者共は!!」
「クリスタルから受けしものは武器のみ!肉体を強化されたわけではなく、特殊な能力を与えられたわけでもない!!何故、何故生きているのだ!!」
理解不能な人間の力にエヌオーは恐慌し、後ずさる。
人間の創造は自分も関わっている。
人間は光の神シャティオ司る『正の力』自分が司る『負の力』を併せ持つ、特殊な生き物なのだ。
故に、創造主の一人である自分に理解できない要素なぞ有るはずがなかった。
人間があの魔法を連続に受けて生きているはずがない、それどころか肉体さえも原形をとどめているのが不思議なぐらいだ。エヌオーは混乱を極めた。
その時、不意にあの竜王が出現した。
完全に動揺をしていたエヌオーがそのブレスを回避する手段はなく、対魔法の姿勢を取れぬまま灼熱のブレスに身を晒すこととなった。
「な、あの召喚士・・・。無傷?あ、有りえん・・・!」
バハムートのブレスで身を焦がしたエヌオーはくぐもった声で、更に現れた不確定要素に頭を悩ました。
ファルはサフの持つ杖の効力で、一切の魔法効果を無効としていたのだ。
あの燃え盛る炎が現れた時点で、サフはファル目掛けて魔力を発動させたのだ。
いわば、それが故にレインがサフを庇うこととなったと言っても良い。
「クッ、ならばもう一度時間停止するまで!!」
エヌオーは再び、クイックと呼ばれる時空魔法の詠唱を始めた途端、いきなり喉に槍が生えた。
「ガ・・ハッ!」
魔法は当然ながら途絶え、エヌオーは槍が飛んできたところを凝視した。
「少しは・・・黙っていろ・・・。」
瀕死になりながらも、槍を投げた体勢で不敵に笑うディールがそこにいた。
ことごとく邪魔に入る、憎き竜騎士にエヌオーに猛然と怒り、落ちていたラグナロクをもう片方の腕で取り、息の根を止めようと間合いを詰めようと走り出した。
しかし、その剣が再び地面に舞い戻ってゆくとはエヌオーは予想出来なかった。
ディールに向かって走り出した途端、もう片方にある二つの腕が最強剣と共に地に落ちたのだ。
その忌まわしき行動をとった者は分かっている。すぐさまその侍に憎しみの視線を送る。
「黙っておれ・・・と言っているのが分からんか・・・馬鹿者・・。」
ふらつく足で、居合い抜きを放ったフェイザスがそこに居た。
そして、エヌオーが睨んだと同時に意識を無くし、仰向けに倒れ込んだ。
まるで、『死の視線』と呼ばれる邪眼に睨まれたようだったが、エヌオーの目にその魔力はなく、ただ意識が昏倒し倒れただけだった。
(おのれ・・、神である我が負けるわけにはいかないのだ・・・。)
「エヌオー終わりだ・・・。」
いきなり声をかけられたエヌオーは、恐怖に似た感情を覚えながら声のした所を振り返る。
そこには血塗れになりながら、聖剣を構えた聖騎士の姿があった。
その美しき白銀色の鎧は自らの血で赤黒く、マントは跡形もなく、目の覚めるような青髪も、紅く染まっていた。
だが、その瞳は強い光を放っていた。
怒りでも、憎しみでもない強い感情。しかし決して『負の感情』では無いのは確かに言えることだった、どちらかといえば正の感情に近い。
既に自分には魔法を唱える声もなく、最強剣を振り回す腕さえなかった。また、何故か自分を自動的に癒す負の感情も外から流れてこなかった。
オメガを放ったために『破壊』や『恐怖』『絶望』などの負の感情が絶え間なく外の戦いから生まれ、自分を癒すはずである、
オメガを倒すことは絶対あり得ないと踏んでいたが、何か得体の知れない力がまた地上でもあったのであろうか。
とにかく、もう自分には打つ手がもう無い。
有るとすれば、この場で一度破れ、この様な事態に再び巡り会うのを封印された無の世界で期待するくらいであろう。
永遠の魂をもつ神であるが故に死ぬことはないのだから。
しかし、いかに癒されて自分に立ち向かうとしても、あの者の奥義である『魔法剣』に対して自分の肉体を滅ぼすことが出来るのであろうか?
普通に考えても十回あの斬撃を受けても死なない自信はある。
もしかすれば、無に封印されることなく光の戦士を葬れるかも知れないと密かにエヌオーは期待を抱き始めた。
「頼むぞ!ファル、サフ!!」
そんな期待を胸にしていたエヌオーを余所に、レインは気合いの声と共に二人に何かを頼みエヌオー向かって走り出した。
エヌオーの予想通り、レインの剣は破壊魔法を宿した魔法剣だった。
(愚かな・・・。)
エヌオーは進歩無い攻撃に心の中で一笑し、この斬撃を態と喰らうことにした。二、三度攻撃している間には腕も何とか再生するであろう。
再生した後にラグナロクを取って一撃の名の下葬り去るつもりだ、召喚魔法がやや気になるところだがメガフレアも一撃喰らったぐらいでは倒れない自信はある。
そして、剣がエヌオー目掛けて振り落とされようとした瞬間、サフとファルの魔法が完成する。
「我示さん、次元の狭間をうごめく破壊神よその力をあの剣に宿し給え!!」
「竜王バハムートよ、私の声を聞き届けて!どうか、あの剣に貴方の力を注ぎ込んでほしいの!!」
サフの魔法はレインの魔法剣とほぼ同じルーンだが、サフが通常のフレア放つのと同じ魔力を注ぎ込んだものだった。
また、ファルの言葉にバハムートは「承知。」と返答し、レインのエクスカリバーにメガフレアの魔力が注ぎ込まれた。
(ありえん、魔法剣にフレアを相乗して、更に竜王のメガフレアを剣に・・・・。)
だが、そのあり得ないことはエヌオーの敗退という形で成されることとなった。
まさに爆発的な威力を兼ね備えたレインの魔法剣は、容易くエヌオーの肉体を両断し、それと同時に巻き起こった剣からの魔力がエヌオーを跡形無く消し去ったのだ。
「終わった・・・。」
全精神力を振り絞ったレインは一言そう言うと、力尽き膝から崩れ落ちた。
サフ達は慌てて、レインに近づいたが心配ないようだ。意識を無くしただけで、生命には別状無いと判断する。
それから、サフは全魔力を振り絞って全員を癒し、意識昏倒した者も蘇生魔法レイズで癒した。
「悪いな、サフ。」
レインが魔力を使い果たし、しゃがみ込んでいるサフに気を使いながら言う。
「しかし、私達があの闇の神を倒すとは・・・実感が湧きませんね。」
ディールは長き戦いに終止符を打てたことに、満面の笑みをこぼしながら言った。
「だが、無が消えぬ。エヌオー無き今何故ここに存在するか?」
フェイザスがもっともな疑問を口にした。
(それについては、私が語ろう。)
物静かな口調で、ここには居ないはずの者の声がレイン達の頭に響く。それは倒したはずのエヌオーの声だった。
「貴様、まだ生きていたか!!」
レインが怒りを込めた口調で言う。
(生きているとは心外だ。私の肉体は滅び、神の魂は永遠に不滅と言うことは知らんのか?)
(・・・だが、その魂も消え去ることとなるとは・・・。クリスタルめ、小賢しいことをしてくれたものだ・・・。)
エヌオーはそう言うものの、穏やかな口調で憎しみを込めている様子ではないと伺えた。
「それは・・・。」
エヌオーの言葉にサフは何か質問を投げかけようとしたが、更に頭の中で放たれた言葉で紡ぐこととなった。
(・・・それに関しては、我々クリスタルがお答えしましょう。)
「クリスタル!!」
いきなりの訪問者に一同が声を合わせて驚く。
(まず、光の戦士の方々には本当に感謝いたします。有り難うございました、あなた方の功績でこの世界に再び平和を取り戻すことが出来たのです。)
クリスタルは静かな口調で礼を述べ、世界が救われたことに感謝した。
(では、全てをお話ししましょう・・・。)
(あなた方に授けた武器には『神殺しの魔力』を注ぎ込んでいたのです。)
(そう、それは二度とこの様な事態を起こさぬように考え出した策。)
クリスタルの言葉にエヌオーは消えゆく意識の中で、一つ問う。
(しかし、光だけでこの世を統べる事が出来ると思っているのか、クリスタルよ・・。よもや、五千年前に起きた悲劇を忘れてはいまいな。)
(確かに、暗黒の力のない世界ではひたすら人間達は進化し続け、
自分たちに正義があると思いこんだ二つの文明が共に戦い始めたことは我々にとって悲しい出来事でした。)
(故に、時空魔法を封印したのですが、ロンカにもあのような恐るべき力があるとは思いませんでした・・・。
そのため押さえる力が無く、最終的にはオメガが二つの文明を一瞬に消え去るという最悪の事態を招き起こしました。)
「そう言えば、オメガ!!」
その話にハッとしたファルは皆に、オメガを倒さなければならないことを皆に気付かさせる。
「いかん!早くしなければ!!」
フェイザスもファルの言葉に、戦慄を覚えすぐさま無からの脱出を試みようと走り出そうとした。
(地上で戦っていた皆さんは大丈夫です。)
「何故?今の話によれば皆が力を合わせても勝てる相手ではないはずよ。」
サフは怪訝な表情を浮かべ言う。
(我々が『神竜』を召喚し、オメガと対峙させたのですが・・力の差を知ったオメガは他次元に逃走し始め、
また神竜も危険分子を逃すわけにはいかないとオメガを追って消え去ってしまいました。)
(オメガがいなくなってからは、一気に人間達が片を付けてくれました・・・、本当に人間達には感謝の言葉も思いつきません・・・。)
(神竜はあなた方の手助けにと思っていたのですが、
オメガの出現によりあなた方の手助けになることが出来ませんでした、そのことに関しては申し訳無いと思っています。)
「いや、いいんだ。逆に感謝しているよ。」
レインはクリスタルの謝罪の言葉に首を横に振り、逆に感謝の意を述べた。
(成る程な・・・、そのため我に『負の力』が注ぎ込まれなかったのか・・・。しかし、クリスタルよそれは我の問いの答えとはなっていないぞ。)
(ええ、そうですね。)
(要するに、この世界は神の手から離れる時が来たと言うことです。)
(私達は神殺しの武器を創造し、無から守る結界を張り、これから世界を二つに分けます。)
「なんですって?」
耳を疑うように、サフは驚きの声を上げた。
(・・・そう言うことか。自身を二つに分ければこの世界も必然的に二つに裂ける。
そして、同時に出現した『次元の狭間』に無を封印するつもりだな?そして、それほどの力を使えば・・・。)
エヌオーはクリスタルのしようとすることに理解し、納得した。
(そうです。我々の管理力は完全に消え失せ、ただのこの世を存続させるだけの石と化すことになります。)
(同時に十二の武器もその力を失い、ただの魔法武器を化すこととなりましょう。しかし、巨大な力を持つのは確か故に、封印城に封印する事となりましょう。)
(後は、人間達で歩むことが出来ます。これ程の力を見れば理解できるでしょう闇の神よ・・・。)
クリスタルはエヌオーを諭すかのように言う。
(フッ、敗れた我にそれは愚問・・・。だが、我が魂消え去ろうとも我の意識は無に永遠と溶け込むのだ。)
(また再び、無を求めようとする者を・・・無に引きずり込み・・・その者の意志を支配し・・・・
その者を含めて全てを消し去るように仕向けるのだ・・・・我の居ない・・・世界なぞ・・・もういらぬ・・・。)
エヌオーはそれを最後に、永遠という命を閉ざすこととなった。
「無に意識を・・・本当でしょうか?」
ディールはクリスタルに、エヌオーの言葉の真偽を確かめようとする。
(分かりません・・・。ですが、魂は完全に消え去りました。もう、闇の神は存在しません・・・。)
(そして、世界を分かつ時が来ました・・・。皆さんは我々に残された最後の力で送り届けて上げましょう。)
世界を二つにする時が来たことをクリスタルは言い、皆を故郷に瞬間移動させることを伝えた。
「すまんが、私をそのもう一つの世界に移動させてくれんか?」
フェイザスはしばし、試行錯誤した後に判断した結論であった。
(いいですが・・・。本当に宜しいのですか?)
「ああ、かまわんよ。私には妻も子も居ない、何も問題はないよ。」
「ただ、必ずあっちの世界にも光の戦士が居た方がよいと思いましてな。」
フェイザスはあちらの世界に移動すると言った理由を話す。
(確かに・・・。分かりました、ではフェイザスさん以外はこの世界にとどまることとさせましょう。)
そして、その言葉を合図に無が揺らぎ始め、収縮し始めた。
「さようなら、フェイザスさん!」
「お元気で!」
「フェイザス殿、貴方のことは忘れません。」
「バイバイ、おじちゃん。」
レイン、サフ、ディール、ファルがそれぞれ、短くとも壮絶なる戦いを共にした戦友に惜しげなく、別れの言葉を贈った。
フェイザスもその戦友の言葉に返す言葉を浮かばず、ただ涙を浮かべながら顔一杯に笑みをこぼし、手を振った。
徐々にフェイザスの姿も見えなくなってゆき、自分たちの身体も半透明になり始めた。
世界が二つに別れようとしているのだ、この場は次元の狭間という異次元に永遠に封印され無の力が外へ出てくることは二度と無いであろう。
(さようなら・・・フェイザスさん・・・。)
最後の瞬間、レインはもう一度フェイザスに心の中でそう呟いた。
 
かくして、二万という歳月から世界は神という管理者の元から離れることとなった。
だが、光と闇を宿した人間は神の力無くとも、自分たちの世界を護りいたわり続けるであろう。
例え、再び無が支配されようとも人々に四つの心が有れば世界を取り戻ることが出来るのだ。
すなわち、
いたわりは水の命の源とし
勇気は炎をともらせ
希望は大地に恵みを与え
探求は風に叡知を乗せる
四つの心が在る限り世界は再び蘇らん     

 
作者コメント:
ええっと、まだ終わりじゃないですけどレインを中心としたお話はこれで終わりです
いかがだったでしょう?一切こういう資料がないゆえにほぼオリジナル小説となりましたけど・・・
私としてはレイン・サフ・テオが大のお気に入りキャラになっちゃいました
最終的にレインも主人公としての役割を果たせて良かったと思いますね。
では、最後はエピローグ。あの方々の登場です