FINAL FATASYX−十二の光− 第六章−闇−

ハリカルナッソスは静かにその時を待っていた。
光の戦士と呼ばれる目障りな人間共を、だ。
先日から、無の魔物の命がこの地上から消え去っているのを感じていた。しかも、クリスタルの破壊は全て失敗しつつだ。
残りのエヌオーの手先といえるのは、多分自分を含めて三人だけであろうと考える。
何故なら他の場所から、無の波動は一切感じられないがためにだ。
またそれは同時に、エヌオー完全復活が成されてないことも示していた。
復活すれば、この上ない無の波動をその身に感じるであろう。
「光の戦士め・・・。」
憎しみの念を込め、ナッソスは一言言う。
「しかし、なぜ待っておられるのですか?クリスタル破壊を優先すべきだと私は思うのですが・・・・。」
ナッソスの近くに控えていた、巨大な鼠のような風貌をした魔物が不審そうに聞く。
「それが、今までの無の魔物の敗因。」
ナッソスは見向きもせず、静かに答えた。
「は?」
意図が分からず、鼠の魔物は間抜けな返答をする。
「常に結界破壊をしている最中光の戦士に遭遇し、結果敗退している。そして、結界破壊には相当な魔力を必須とされる。」
ナッソスは謎かけをするように言い、更に言葉を続けた。
「要は激しく消耗している時に戦闘しがために、易々と人間共に破れているというのだ。」
そこで今までの魔物の不甲斐なさを再び思い出したナッソスは、怒りを露わにしながら言った。
「ですが、炎のクリスタルの破壊に行ったアポカリョープス様については、結界破壊に力を浪費することなく万全の状態で戦ったはずですが・・・。」
魔物は怒りを示すナッソスに、控えめな口調で聞く。
「あやつの敗因はいまいち分からぬ。人間共が強すぎたのか、ただ、あやつの力が弱すぎただけなのか。」
一番不甲斐ない死を迎えたアポカリョープスの失態を思い出すと、ナッソスは吐き捨てるかのように言った。
「妾としてみれば、後者が敗因として睨んでおるがな!!」
遂に怒り頂点に達したナッソスは、拳を横に振るい手近にある巨大な城壁に力強く当てた。
力を集中させたその拳が当てられた瞬間、城壁は粉々に吹っ飛び激しい音を立て崩れ去った。
魔物はその恐ろしい力に尻込みするが、すぐさま平静を保ち畏まった。
「妾は無の魔物を総括する者、妾に敗退の二文字はない!」
「消耗するどころか力を蓄えている上、最強の火力を持つ『ツインタニア』も居る!」
「皆殺しにしてくれようぞ、光の戦士よ!!」
今までの雪辱をはらすかのように、夕暮れで紅く染まったグランゼルの空に強くナッソスは言う。
そして、その雪辱をはらす機会が翌日手に入れることとなるのだった。
ナッソス達はクリスタルの力を感じる人間共の接近を悟ると、静かにその時を待った。
その者共が姿を現すのを。
そして現れたのは三人、女二人に男一人だ。それぞれクリスタルから授かったという武器を携えており、光の戦士だと間違いなく確信できた。
勿論、一行はグロア達。
「あんたらが、無の魔物か?」
シェイカーが戦闘状態を整えながらナッソス向けて聞く。
「その通りだ。早速で悪いが・・・・消えてもらうぞ!!」
ナッソスはシェイカーの問いに答え終わった途端、キッとシェイカー達を睨み、魔力を集中し始める。
「行け!!『アパンダ』!そして力を溜めろ『ツインタニア』!!」
魔力を集中しつつも、それぞれの魔物に号令をかける。
アパンダと言われた鼠の風貌をした魔物は、ナッソスの言葉に物陰から大きな跳躍をして現れ、
ツインタニアと呼ばれた魔物が轟音と激しい地鳴りをあげ、地中からその巨体を現した。
見上げるその巨体はグロア達を圧倒させるのには充分であった。
貴族の屋敷一軒分はあるのでは無かろうか。
その魔物もまた、ナッソスの命を忠実に実行し始める。
「昔、勇敢な戦士が居た、その勇者の力が我らの中で今蘇る。」
すぐさま魔物に臆することなく、ハープを奏でながらグロアは魔力を込めた歌を歌い出す。
歌はすぐ終わったが、効力はすぐさま発揮しシェイカー達は奥底から力が湧くのを実感した。
「よし!いくぜレダ!!」
「分かっているわよ!!」
白兵戦が苦手なグロアを後方にレダとシェイカーは動き出した。
レダは、鼠の魔物にシェイカーは大将格だと思われる女の魔物に狙いを定めた。
「大地に立つ邪悪の足を封じろ!!」
シェイカーはベルを大きく一回振り、叫んだ。
音は聞こえない。
しかし、自然に呼びかけるために効力を発揮するこのベルはシェイカーの言葉を的確に自然相手に送り込み、言葉通りに効果をもたらすことが出来るのだ。
無論、自然を操る風水士でないとベルの効果を発揮できない。
「何!」
いきなり、地面が隆起し足を大地に絡め取られたアパンダが驚きの声を上げる。
大地の縛めは、足どころか下半身全てを覆うほどであり、また縛めを受けたものにしてみればまるで石化の魔法を受けたかのような感覚を覚えさせた。
だが、ナッソス自体はその力にさほど気にせず魔法を詠唱し続け、完成させた。
「結界を司る魔獣カーバンクルよ、魔力を遮る障壁をここに!」
魔法の完成と共に、ナッソスの廻りに淡い光沢を放つ、薄い膜のようなものが張り巡らされる。シェルと呼ばれる魔法防御魔法である。
「喰らえ!風の刃!!」
またもや、ベルを鳴らしながらシェイカーは言う。
ナッソスは向かってくる風の刃を無視しつつ、またもや魔法を詠唱し始めた。
その行動からして、シェイカーの攻撃は無効化されることを既に分かっているような素振りだった。
当然ながら、シェイカーの攻撃は無効。
ナッソスに創り出された魔法障壁により攻撃力はほぼ損なわれ、到達するにも、ナッソスの鉄壁の魔法防御力により風の刃も微風と化した。
「自然などしか頼れない輩の風水士など端から妾の敵ではない、死ね!」
そう言うとナッソスは魔法を完成させ、両の手を目の前の男にかざす。放った魔法は神聖魔法ホーリー。
自分の魔力を持ってすればこの人間を一瞬に塵と化すのも造作もないことなのだ。
この魔法で、目の前の人間は消え去るはずだ−しかし。
男に放った魔法は見事に弾き返り、ナッソス向けてその浄化の光が煌めいた。
突然のことのためナッソスは魔法防御の姿勢を取り忘れたが、魔法障壁により事無く済んだ。
しかし、元々の破壊力が高いため、深手とは言わずとも、かなりの負傷を負ったのは違いない。
「助かったぜ、グロア!」
額に汗を流しながら、後方に控えるグロアに感謝の意を述べた。
「いいえ、間に合って良かったです。」
グロアも安堵の表情を浮かべ微笑む。
「おのれ、あの吟遊詩人か!!」
後方で再び歌い出すグロアを睨みつつ、ナッソスは歯噛みする。
だが、ナッソスは普通の吟遊詩人とは違うようだと判断した。
普通ならば、能力の引き延ばしを効果とするのが吟遊詩人の歌う『歌』なのだ。
勿論『鎮魂歌』という特殊なものもあるが、これ程魔法に似た効果を生み出すことはない。
この三人の中では一番力のあるものとナッソスは睨む、どうやら先に消すべきなのはあの者のようだと理解する。
ナッソスはそう心に決めると、素早く魔法を詠唱し縛めを解くことにした。
「消えよ!自然ならざる力よ!」
魔法の完成と共に、大地の縛めは瞬く間に消え失せ一気にグロアに詰め寄ろうと走り出す。
目の前の無力な人間など、既に眼中にない。
シェイカーは突進してくるナッソスに立ち向かおうと、行く手を塞ぎ、身構える。
「天空より雷よ下れ!大地より燃え盛る溶岩を呼びださん!!」
自然はシェイカーの言葉をすぐさま実現させる。
突然、暗雲が立ちこめ、大地が揺らぎ地割れが生じ噴煙と共に溶岩が吹き出す。
ナッソス目掛けて雷がほとばしり、灼熱の溶岩がその身を溶かさんばかりに覆い被さる。
ナッソスの姿は眩い閃光と、噴煙により忽ち見えなくなった。
シェイカーとしては強力な風水術を放ったつもりだ。死にはしないと思うが、致命的な傷を負ったことを確信する。
「これでどうだ・・・。」
なぜか荒い息をしながらシェイカーは言う。
風水士は自然と一体化し、魔力を使わず様々な自然現象を引き起こすため、術者は一切疲労を感じることはないのだ。
ただし、風水術で起こす自然現象は不安定で何が起こるかは術者には分からないのである。
だが、ベルによって、自由に自然を操ることになったため、その代償として魔力を浪費するようになっていおり、
そのためベルを振る度にシェイカーは著しく消耗してゆくのだ。
「いい加減黙っておれ。」
突如、まだ消え失せない噴煙から声が聞こえた。
あの女の魔物の声である、声からしても重傷を負った感じは一切しなかった。
次の瞬間、ナッソスは現れその予感を的中させることになる。
ナッソスの身に付けている衣服は多少焼け焦げているものの、本体は火傷の一つも負わず、無傷と言っても過言ではなかった。
何事もなかったように、再びグロア向けて走り出す。
「何だっていうんだ!何故、傷を負わないんだ!!」
自暴自棄になりながら、シェイカーは叫んだ。
「妾はエヌオー様の片腕と称され、また無の魔物を総括する者!貴様らから傷を負わされるなど天地が逆転しようともあり得ないことだ!!!」
そう言い、ナッソスは力を集中し始める。今度こそ、この男の息の根を止めるつもりである。
シェイカーは突撃してくるナッソスに成す術なく、手に持ったベルで殴りかかろうとする。
「終わりだ、人間よ。」
ナッソスはそのベルの一撃を軽く片方の腕で捕らえ、すぐさまもう片方の腕で胴を狙う。
狙いは違わずシェイカーの胴を貫かんばかりに力を集中した拳がめり込んでいった。
先程、ナッソスが城壁を砕いた拳はシェイカーの身体を粉々に砕くのには申し分なかった。
シェイカーは激しい吐血をして、そのまま大地に叩きつけられたのだった。
「グハッ!」
ナッソスの一撃により、即死は免れたものの死は間違いなく迫っていた。既に、指一本も動かせない状態である。
だが、シェイカーが戦闘不能状態に陥ったと同時に、断末魔の叫びがナッソスの耳に入った。
すぐさま、その断末魔の聞こえた場所を見やると、アパンダの首に深々とナイフを突き立てている少女の姿を見つけた。
断末魔を上げたのはアパンダ、止めを刺したのは盗賊風のあの少女のようだ。
「あの鼠が・・・!」
あのような、脆弱そうな幼い子供などに敗退するなど、失態にも程があるとナッソスは怒りをたぎらせながら思った。
死んで当然だ。最後にそう締めくくり、また再びグロア向けて走りだした。
(・・・・カンリョウ・・・シタ。)
その時、ナッソスの頭に片言ながら何かの完成の旨を伝える言葉が響く。あの、魔獣ツインタニアからのものだ。
当然、ナッソス自体はその意味をすぐさま理解する。
自分の手で皆殺しにしたかったが、わざわざ無理をすることはないと自分を戒める。
むきになって手傷を負っても、何も得することはない。
力の浪費、時間の無駄遣い。まったく無意味に近い。
ただ、得られるのは自己満足というくだらない感情だけだ。
ナッソスは心改めると、すぐさまそれを放つようにツインタニアに命令する。
その後、ツインタニアから了解の言葉が返り、自分は被害を受けぬようにその場を離れる。
グロアが迫りつつあるナッソスがいきなり退避したのを見て、不信感を募らせながら廻りの状況を把握しようとする。
また何故か、とてつもない不安と共に息詰まるような圧迫感を覚えた。
しばらく辺りを見回すと、あの巨獣に強力なマナが集中しているのが分かる。
同時にその姿を見たグロアの心に警告の鐘が鳴り響いた。
「この力は・・!レダ魔法防御を取りながら地に伏せて下さい!!」
シェイカーの安否を確かめに言ったレダに警告の言葉を発し、自らは対魔法のための歌を歌い始める。
今更退避しても間に合わないとグロアは踏んでいる。
その瞬間、ツインタニアの口から激しいブレスが吐き出された。
強力な魔力の奔流が辺りを支配し、全てを消滅せんとする破壊の閃光が辺りを包む、
そして膨れ上がった魔力は大爆発を起こしこの星に痛々しい傷を残すことになった。
グランゼルの城下町など、もうこの世には存在しなかった。
あるのは深く抉れた、大地の様だけ。
「流石ツインタニア、この火力に耐えられる者なぞ存在せぬわ。」
光の戦士と称する者共、グランゼルの大地を消し飛ばした破壊力に快感を覚えつつ、ナッソスは言った。
「残念だけど、居るんだよね。」
やや、くぐもった声だが確かにナッソスの耳にあの者の声が聞こえた。あの、風水士の男の。
「考えられん、何処にいるのだ!」
ナッソスは抉れた大地に目を見はる。
すると、ツインタニアのブレスが吐かれる前とほぼ同じ場所の地の下から三人が姿を現した。
何故か死を間近にしていた男に意識が戻っており、盗賊風の娘が腹部から血を流してぐったりとしていた。
そしてその傷をあの吟遊詩人の女が歌を歌い癒している。
大地の下から現れたことによって、どう回避したかナッソスは理解した。
恐らく、あの風水士が己の風水術で大地を陥没させたのだ、破壊の及ばぬ大地の底へ。
また、陥没させると言っても自分たちだけが居る、大地をそのままの状態で引っ込ませるようにすれば、落下の衝撃もない。
あの者がどうやって回復したかまでは知らないが、回避手段はそれしかないであろう。
「レダ悪いな、お前の命確かに受け取ったぜ!」
シェイカーは涙を堪えながら、レダに感謝の言葉を贈った。
当初のレダも、グロアに抱かれながらその言葉に応えるかのように口元を何度か動かすが、殆ど声にならずシェイカーの耳には届かなかった。
だが、シェイカーはその言葉に応えるかのように優しくレダに向けて微笑んだ。
レダはシェイカーに駆けつけたのと同時に、アサシンダガーの特性を生かして、レダはシェイカーを回復させていたのだ。
すなわちシェイカーに自分の武器を持たせ、自分を傷つけさせることによって、自分の生命力と精神力を分け与えたのである。
回復魔法とは違い、生命力と精神力を癒すこの武器は死の底から呼び戻すのには十分の威力を持っていたが、
その反面レダの身体から膨大な生命力を奪われ、今では逆にレダが死を間近に迫られている。
グロアも必死に歌うが、傷は癒されていても生命力は戻る兆しが見えなかった。しかし絶望感に浸りつつも、懸命に僅かな奇跡の光を目指して歌っている。
グロアは必死に歌っていると、ふとシェイカーがぽつりとグロアに聞く。
「グロア、俺があいつらの動きを止めることが出来れば、あいつらを倒せるか?」
歌を一瞬止め、しばし考え込む。
その時、レダが消え去りそうな声で言った。
「もういいから。」「あいつらを必ず倒して。」と。
勿論、グロアはそのことに否定しようとしたが、レダは涙こぼしながら懇願した。
流石にグロアも返す言葉もなくなり、レダの言葉に従うことにした。
「・・・では、シェイカー動きを止めて下さい。」
グロアは表情を引き締め、シェイカーに静かに言う。シェイカーもその言葉に満足し、精神を集中し始める。
ナッソスは生存を確認すると、既に魔法詠唱をしていた。
だが、ナッソス達は文字通り動きを止められることになる。
口も詠唱している途中で開いたまま、身体が凍り付けられたかのように微動たりもせず、ただ意識のみがナッソスにあるだけだ。
ツインタニアもブレスを吐くその瞬間で止められていた。魔力を溜めていないため、恐らく先程のブレスとは違うと考えられる。
「やったぜ、ざまぁ・・みろ・・。」
シェイカーはその言葉をやっと言うと、力尽きたかのように仰向けに倒れる。
「何をやったんですか!」
グロアは冷たくなりつつある手に驚きを覚えながら、聞いた。
「自然全体に訴えたんだよ、そして代償は俺の命。俺自身もこんな事を出来るか分からなかったけど・・・自然といままで接してきた俺は何故か確信できた。」
「レダには悪いとは思ったけどよ・・・俺の命を賭すならばこれが一番いい使い道だと思ったんだ・・・。」
「・・・・わりぃ・・・先に行ってるぜ・・・。」
シェイカーは淡々と全てを語り、誇らしげな表情を浮かべ息絶えた。
ただ、相手の動きを止めるだけとはいえエヌオーの右腕と称される魔物と、
かの竜王バハムートのようなブレスを吐くことが出来る巨獣を完璧に動きを止めるのはまさに不可能といえる。
彼の功績がなかったら、先程のブレスで死んでいるし、魔物の動きを止めることが出来なければ今こうして、魔物を倒すこともできなかったであろう。
グロアは既に最終手段である、歌を歌っていた。
「送葬歌」と呼ばれる、死の歌だった。
聞く者全てをこの世界から消え去ることが出来る、完全消去魔法歌。
しかも、歌う者の命も奪うとされる、忌まわしき呪いの歌でもあった。
歌っているグロアも、その命が削がれつつあるのを実感していた。
歌う唇にも、徐々に力が入らなくなり、腹部にも力を入れることも困難になってきた。
最後まで歌えるかが、心配になってくる。
「・・・・全ては存在せず・・・、再び・・・神の元に・・。」
意識が朦朧とし、命の鼓動もだんだんと遠ざかったゆくような感じをグロアは覚えた。声も殆ど出なくなったきたような気がする。
(このままでは、歌えきれない・・。)
朦朧とする意識の中で、グロアは確信した。
だがその時、自分の服の裾を引っ張る感触を感じた。
そして、下を見るとレダが地に伏せながら何かを訴えていた。味方であるレダ自身は歌の効力に支配されることはないのだ。
「このダガーで私の命を貰って・・・。」
荒い息をしてレダが、グロアに血塗られたダガーを持たせようとする。
当然、グロアはそれに否定し、ダガーを返そうとするが、レダは強く反発し、遂には起きあがって、無理矢理その先端を自らの胸に埋めた。
真っ赤な鮮血がほとばしる。
「これで・・・いいのよ、その歌を完成できぬままグロアが死んでも、私は・・殺される。
どうせ・・・死ぬんなら、アイツら・・・も道連れにした方がみんな・・・の助けになるでしょ・・・。」
「シェイカーが・・・寂しがっていると思うから・・・先に行くね・・・。」
そうグロアを言い聞かせ、そして微笑みを浮かべながらレダはその短い人生に終止符を打った。
レダの命がダガーを通して、グロアに伝わる。
同時にグロアは厚い友情と、命を捧げたその志も伝わったような気がしてならなかった。
決してその気持ちに背いてはならない、必ず無の魔物を倒さなければならないと強く胸に刻み込む。
そして、遂に歌は完成したのだった。
完成と共に魔物の姿が陽炎のように揺らめき始め、最終的には何もなかったかのようにその存在は塵もなく消去された。
ハリカルナッソス、ツインタニアは何も痛みも感じせず、何も分からぬまま消え去ったのだ。
ある意味、最も幸福な死に方といえるかも知れない。
「・・・・歌い終えたわ・・・有り難う・・・レダ、シェイカー・・・あっちの世界でも・・・仲良くしましょうね。」
グロアもまた、無の魔物が完全に消去されるのを見て静かに息を引き取った。
 
かくして、壮絶なる大地のクリスタルに守護されし英雄達と無の魔物共との戦いは両者の命を持って決着が付けられた。
だが、決して無の力に屈しなかったその希望の心はグランゼルの民に生きる希望を与え、誇りとなった。
万物を創造せし神の分身たるクリスタルは、非業の死を迎えた戦士達を優しく迎え入れたのだった。
残りの闇は、ただ一つ。
最後の希望の光は、更に自らを強く輝かせるのであった。
 
 
作者コメント:
本作最大の悲劇です。
命を捨てて立ち向かう、光の戦士・・・
ラストバトルも間近です