FINAL FANTASYW−恋い焦がれる異国の王【後編】−:アナザー+ED後

−恋い焦がれる異国の王【後編】−

その日の朝は清々しかった。こんなに気が晴れた朝を迎えるのは何年ぶりだろう 
か。
テシンは逸る気を押さえることが出来ないまま、朝食を素早く済まし、今日ここ 
エブラーナを訪ねてくる客人を心待ちにしていた。
その客人とはリディアであり、テシンのリディアを待つ気持ちはエッジ以上かも 
知れない。
予定ではリディアの他にもう一人の人物も連れてくるはずである。エッジに対し 
ては詳しい事情を伺っていない事となっているがため、その人物を紹介されたと 
きは自分も知らぬ振りをしなければならない。当然、驚く芝居もしなければなら 
ないだろう。
そして、リディア達は昼を一刻過ぎた頃にエブラーナに到着した。テシンは諸手 
をあげてリディア達の到着を歓迎し、すぐさまエッジの私室へと通された。
「おう、よく来たな・・・て、誰だそいつ?」
リディアを迎えたエッジは、彼女と共にいる連れの男性にやや不機嫌さを顔に出 
しながら問いた。
「この人?私の恋人よ。」
「えっと、初めましてアルセド・メーディスです。」
リディアは悪びれることなく、すんなりと自分の恋人を紹介する。あくまで仮の 
だが。
また、紹介された男は歳はリディアと同年ぐらいで、長い銀髪を後ろにまとめて 
おり、顔立ちも整った聡明そうな人物だった。
「何と、リディア殿の恋人でありましたか。なんとも利発そうな方で、やはり魔 
術師ですかな?」
テシンは当初の予定通り驚く振りをしつつ、リディアに言われた通りの発言をす 
る。
「ええ、黒魔道士です。」
テシンの問いに、アルセドは笑顔をこぼしながら答える。
「へっ、黒魔道士だかなんだか知らねーが、俺以上に魅力あるのかそいつ?」
完全に殺気を放ちだしたエッジが、挑戦的な発言をし始める。
(リ、リディア先生。この人、怖いんですけど・・。)
エッジの気迫に押されながら、アルセドは心の中でリディアに訴えた。
今、魔法の力により、心を繋いでいるためアルセドの心の声はリディアにも伝わ 
るようにしているのだ。俗に言う『テレパシー』というある程度の魔道士なら操 
ることの出来る基本魔術である。また、これを昇華させた魔法が『ライブラ』を 
呼ばれている。
(我慢しなさい。私が退出した後、私があなたを操るからそれまでは持ちこたえ 
て!)
(魔道書一冊じゃ、割に合いませんよこの役・・・。)
リディアの激励の言葉を聞いた後、アルセドが予想外の大役にそう心の中で呟き 
、溜息をついた。話ではどうしてもしつこい男がいるから、諦めさせるのに恋人 
の振りをしてくれとしか聞いておらず、また前々からほしかった魔道書を貰える 
ために喜んで承諾したのだが、相手が世を救った英雄の一人であり、しかもエブ 
ラーナの王とは生命も縮まるような役目だと思う。
しかし、途中からリディアが『傀儡化の魔法』をかけ、自分を操作してくれるら 
しい。そこまで持ちこたえれば良いのだが、自分にしてみればそこまでの時間が 
非常に長く感じた。
「そう、私賢い人が好きなの。」
いつの間にか話が進んでいるようだ、リディアが自分の腕に腕を絡ましてきた。 
この様な美しい女性にこうされると、少々損だと思った役も嬉しく思い始める。
これも役得だと、アルセドは思った。
「ハハハ・・仲睦まじいですな。」
テシンもリディアに続き、エッジの怒りを仰ぐような発言をする。
「そうそう、我が国の書物庫になにやら古代の魔術書が発見されましてな、この 
機会にご覧になってはいかがですか?」
テシンが話を一転させ、リディアとアルセドに誘いの言葉を持ちかける。
「そうね、見てみようかな?まだ、発見されていない魔法が見つかるかも知れな 
いし・・。アルセドは行く?」
リディアが隣にいる、仮の恋人に意見を伺った。
「いや、僕はここで待っているよ。リディアだけで行ってくるといい。」
優しい笑みをこぼしながら、アルセドはリディアの誘いを断り、待っている旨を 
伝えた。
心中では、目の前で睨んでいるエッジに恐慌しつつも。
「じゃ、行って来るから。」
リディアはアルセドにそう言い残し、テシンと共にエッジの私室から退室した。 
部屋にいるのはエッジとアルセドだけだ。
アルセドとしては、エッジから放たれる圧迫感で、息が詰まりそうである。しか 
し、ここが正念場である、退出した自分の師はすぐさま『傀儡化の魔法』を唱え 
ているはずだ。
魔法を受け入れるために、なんとか心を落ち着かせるように努力する。
どんなに長い魔法でも、息を三十回繰り返すことが出来るほど長い詠唱を要する 
魔法存在しない。また、傀儡化の魔法はファイアなどの完成された魔法ではない 
ために魔法詠唱も一瞬に近い。だが、その一瞬がこれ程までに長く感じさせられ 
るのは初めてであった。
しかし、そうこう考えている内に眠気に近い感覚がアルセドを襲った。どうやら 
魔法が完成したようである。
(やっと、役目が終わったか・・・。)
消え失せ始める意識のなか、アルセドは安堵しながら暗闇に意識を奪われるので 
あった。
「ところで、お前本当にリディアが好きなのか?好かれているのか?」
沈黙を守り続ける、目の前の黒魔道士にエッジは不意に質問を投げかけた。自分 
としてはやはり納得はいかない。先程までの話にはどうもぎこちなさを感じられ 
ずにはいられなかったのだ。
また、自分としてもあきらめのつくような言葉がほしいと思っている。
「私・・・いや、ぼ、僕はリディアの事が好きさ・・。誰よりもね・・。」
「リディアだって僕のことは好きなはずさ、さっきも言ってたでしょう?『頭の 
いいヤツが好き』だって。」
口元に微笑を浮かべながら、アルセドは言う。
「だから、あなたのような学のない方にリディアは、絶対振り向きはしませんよ 
。」
「手紙の方も、そういうわけで止めていただきたい。」
淡々とアルセドはエッジに侮辱の言葉を投げかける。口元には依然として微笑を 
浮かべつつ。
「・・・・そんなはずはねえ、俺の知っているリディアはそんなヤツじゃねえ。 」
その言葉に、エッジは怒りを抑えるような静かな声でうつむきつつ言う。
「人間は『心』が大事なんだ。人を思う『心』、優しくいたわる『心』。」
「そして、今のテメエの言葉で大体、テメエがどんなヤツか分かったぜ。テメエ 
はリディアを全然分かっていない、『心』の強さも全然分かっていない・・・っ 
てな。」
エッジはそう言い、ゆっくりと顔を上げアルセドを睨む。
(・・・・上手くいきそうね・・・。)
アルセドを操りながら、リディアは心の中で呟く。だが、自分のしていることが 
エッジの心を踏みにじっているような気がしてならなかった。また、この後の計 
画を考えるとまさしく絶望を与えるような気がしてならない。
しかし、今は後に引くことは許されない。エブラーナ国の安泰のため、戦を起こ 
さないため、平和な世で命を失うような惨劇を再び起こさないためにエッジの力 
は必須なのである。
心痛いが、これを目処に恋沙汰とは縁を当分切ってほしい。
「へえ、『心』の強さってそんなに魅力あるものなのですか?素晴らしいものな 
んですか?」
リディア操る、アルセドがエッジの言葉を軽くあしらうかのような発言した。
「テメエの使える最高魔法はなんだ?」
唐突にエッジは、アルセドの行使できる黒魔法の中での最高魔法を聞く。
「僕の最高魔法ですか?変なことを聞く方ですね・・・。」
「まあ、自慢ではないですが炎の最高魔法『ファイガ』を行使できますよ。」
「『ブリザガ』『サンダガ』はまだなんですが、この世でファイガを使う魔道士 
なぞ十人にも満たないでしょうね。」
つらつらとアルセドは自慢話を続ける。話しているのはリディアの意志だが、実 
際にアルセドは黒魔法の炎の魔法『ファイガ』を修得している優秀な魔道士なの 
である。
リディアの言っている言葉全てが嘘偽りではないのだ。
違うとすれば、本人の性格と今のリディアの作り上げた偽の性格であろう。実際 
の本人の性格は人を思いやることの出来る優しい心の持ち主であり、今の作り上 
げた性格の全く正反対と言っても良い。
「じゃあ、その内の一人になってやるぜ。お前が既に修得している『ファイガ』 
と、まだ修得していない冷気の最高魔法『ブリザガ』、稲妻の最高魔法『サンダ 
ガ』を一週間で身に付けてやる。」
(・・・・来た!・・・・)
予想通りの行動に出たエッジに、リディアは心の中で一言そう呟く。
「フッ、いいでしょう。魔法とは縁のない者が何処までやれるのか、じっくりと 
拝見するとしましょう。『心』の強さとはいかほどのものか楽しみです。」
まるで初めからこの勝負に揺るぎない自信があるかのように不敵な笑いを浮かべ 
、アルセドは立ち上がる。
「もしも、この一週間で魔法を修得できなかった場合、どうするんですか?」
「その時は、リディアを諦める!」
アルセドの問いに、エッジは胸を張りそう宣言する。その瞳には不安というもの 
は存在しておらず、逆に自信溢れた瞳をしていた。
「で、テメエはどうするんだ?」
「フフ、万が一もないと思いますが、修得した場合リディアから手を引くことを 
約束しましょう。」
肩を揺らしながら、嘲笑しつつアルセドはエッジと約束を交わす。
「では、そろそろお暇しましょうか。一週間後を楽しみにしていますよ。」
アルセドは別れの言葉を言い、扉に手をかけた途端。
「首を洗って待っていやがれ。」とエッジがアルセドの背に向けて言い放った。
アルセドは何も言わず、ただ忍び笑いをしつつエッジの部屋を後にした。

「ご苦労さん!」
エッジの部屋から出た後、城下町の茶店で待っていたリディアが役目を終えたア 
ルセドを笑顔で迎えた。テーブルには先程注文した紅茶が置いてあり、アルセド 
はリディアにすすめられるがまま向かいの椅子に腰掛ける。
傀儡化の魔法は、アルセドが城を出た瞬間解いた。一瞬、アルセドは意識が戻っ 
た時の廻りの状況の違いにしばし、狼狽してしまったが、すぐさま城外と理解す 
ると指定された茶店へ一直線に向かったのだった。
「リディア先生。変なこと言わなかったでしょうね、二度とエブラーナの地を踏 
むことのないような事態にまで持ち込まれたら困りますよ、本当に。」
呪縛の解かれたアルセドは不安いっぱいな表情を浮かばせながら聞く。何故なら 
、アルセドの出身地はここエブラーナ近くの集落であり、恋人も彼の帰りを心待 
ちにしていると聞いていた。
「ええっと、大丈夫よ。・・・多分。」
真剣な眼差しで問うアルセドから、少し目線を外しつつリディアが自信なさそう 
に答える。
この地域を支配するエブラーナ王国の王にあれほどの啖呵を切ったのだ、大丈夫 
とははっきりと言えない。しかし、ファイガを使える魔道士など自分の教え子の 
中では彼しかいないため、彼を選出するしかなかったし、あれぐらいの啖呵を切 
らなければエッジも乗ってこないのだ。
まさに苦肉の策と言える。
最悪の場合、二、三年は家族、恋人共にバロンの元保護してもらわければならな 
いかもしれない。あくまで、最悪の場合だが。
「リディア先生〜。」
リディアのその反応にアルセドは泣きすがるかのように言い、なんとかしてくれ 
と何度も懇願する。
「まあまあ、もう一仕事あるし、あとバロンの後ろ盾もあるし・・・。」
「ええ!!バロンってどういうことですか?これって国絡みのことだったんです 
か?しかも、もう一仕事って・・!」
目眩しそうな話にアルセドは半泣き状態でリディアに迫る。平民からしてみれば 
途方のないことだし、ましてやここエブラーナの国王に楯突いたことは、ある意 
味反逆罪で追われるかも知れないのだ。
リディアにしてみれば、エッジの性格上そのようなことをしないと分かっている 
ために考えもしなかったが、普通の平民の考えとしてはアルセドの判断は正しい。
理由はともあれ、普通ならば国王に楯突くことは王に対して反感を持っているこ 
ととなり、危険分子とされる。故に反逆罪とされ処刑されることは少なくない。
「ああ・・、父上、母上。親不孝な息子を許して下さい。そしてエル・・ごめん 
。もう君とは会えないようだ・・。」
自分の人生に絶望したアルセドは遂に涙ながら、諦めの言葉を口にした。
「ちょ、ちょっと待ってよ。そんなに深刻にならなくてもいいわ。大丈夫よ、私 
が責任持つから!」
慌ててリディアがアルセドを説得する。
「本当ですね!絶対ですよ!!!」
涙をこぼしながら、アルセドは身を乗り出し言葉荒げに言った。まさに鬼気迫る 
表情を浮かべつつ。
「大丈夫ですって、大丈夫。」
不安定な精神状態のアルセドをなだめるかのように、リディアはそう諭すのだあ 
った。
決着は一週間後、エッジはその日からエブラーナ国王として国政に全力を尽くす 
こととなろう。魔法は一朝一夕で修得できるほど簡単なものではない。例え一週 
間の間、寝る間も惜しんで没頭しても良い結果は現れないのだ。
魔法には研ぎ澄ました精神力、特に黒魔法は魔法元素マナを上手く操作する膨大 
な魔力を必要とする。そのため、修得には安定した魔力と精神力が必須条件とさ 
れるのだ。
焦っては逆に効果は現れず、ゆっくりと修得しようとしても体内でマナを練るこ 
とも知らない者が一週間で高等魔法を身に付けるなど、絶対にあり得ないのだ。
いままで様々な優秀な魔道士、賢者が居たがそのような短期間で極めたものなぞ 
存在しない。
結果は見えているのだ。絶対に高等魔法修得なぞあり得ないのである。いくら『 
人の心』に無限の可能性があったとしてもだ。

約束の日が来た。
まさに、この日はエブラーナの命運がかかっているといっても過言ではない。
リディアとアルセド、そしてエッジにテシンがここエブラーナの訓練場にいた。 
いつもはエブラーナの戦士達が己を高めるために剣を交じ合わせている所である 
が、このような事情のため、いつもいる戦士達の姿は一人として見かけない。
「では、嘘偽りがないことを証明するため私から炎の最上級魔法『ファイガ』を 
お見せしましょう!」
アルセドはいきなり、エッジに向かってそう言い放ち魔法を詠唱し始める。今日 
のアルセドはリディアからは操られてはいないために、勇気を奮い立たせながら 
エッジと対峙している。彼としては早くここから脱したい心境だった。
「炎の魔神イフリートの怒り、ここに示すなり!煉獄の炎で焼き尽くすのだ!! 」
魔法は完成した。完成と共に現れた巨大な火球が何もない大地目掛けて放たれ、 
大地との接触と同時に灼熱の炎が燃え立った。
間違いなく、火炎魔法の最上級を示す魔法『ファイガ』だ。
それを見たエッジは臆する表情を見せず、ただ納得するかのように一回縦に首を 
振り頷いた。
そして、エッジは自分の出番であるかのように前に進み出し、信じられないこと 
を口にした。
「俺の負けだ。残念だが修得できなかったぜ。」
憮然とした表情で、エッジはアルセドに言い放った。負けを認めたのだ。
リディアとしても堂々とした態度でそう言われると流石に拍子抜けになり、一瞬 
耳を疑ったりしてしまった。だが、確かにエッジは『修得できなかった』と認め 
た。それは同時にリディアを諦めたと宣言したと言い換えても良い。
しかし、エッジの言葉にはまだ続きがあった。
「だが、リディア最後に見てくれ。俺がお前のことをどれだけ思っているか今証 
明してみせるぜ。」
エッジがそう言うと、高らかに魔法を詠唱し始める。ルーンはファイガではない 
もののリディアは驚きを隠せなかった。何故なら魔法詠唱と共にエッジからマナ 
の波動を感じたのだ。
「炎に住まう、火蜥蜴の息吹をここに示すなり!灼熱の炎よ渦となりて現れよ! 
!」
エッジの魔法は完成した。
エッジの両手をかざした先からたちまち、炎の渦が出現し大地を焦がした。炎の 
中級魔法『ファイラ』である。
「ウソ・・でしょ。」
リディアは目の前で起きている現実に、動揺を隠せないでいた。上級魔法ではな 
いが、中級魔法でも一週間で身に付けるのは不可能なのだ。リディアとしても遂 
この間までマナの練り方さえ知らない者が、魔法さえ使えるとも思ってはいなか 
った。奇跡が起きたとしても初級魔法ファイアぐらだと考えていた。
中級魔法の修得なぞ、一般の黒魔道士でも一年以上の修得期間が必要であり、中 
級魔法の修得は魔道士として一人前になったといっても良いのだ。
それを、目の前の忍者はやってのけたのだ。計り知れない心の力が彼をここまで 
成長させたのである。
「へっ、どうだ。これが俺のリディアへの思いの証明だ。」
「まあ、こんな事を言っても俺の負けは違いない、リディアのこと潔く諦めるぜ 
・・・。」
エッジは慣れない魔法に、多少声荒げにしながら言う。だが、諦めきらない顔は 
しておらず、自分で精一杯の力を出したことに満足げに笑顔をもらしてさえいた。
「だが、最後に聞きたいな。リディアの感想をよ・・・。」
背後で魔法を見ていたリディアに背中越しにエッジは問いかけた。
突然の問いかけにも、リディアは特に驚きはしなかった。なぜなら先程の魔法で 
自分の心は決まってしまったのだ。エッジへの特別な感情への答え。一緒に旅を 
してからずっと抱えていたエッジに対する悩み。
全てがリディアの心の中で一つにまとまり、はっきりと輪郭をあらわしたのだ。
リディアはテシンに無言で申し訳なさそうな視線を送る。そして、アルセドにも。
肩の力を抜き、大きな溜息をついた後リディアはゆっくりと口開いた。
「・・・ゴメンね、テシンさん。それとアルセドももう演技する必要ないわ・・ 
・。」
テシンもしょうがなさそうな諦めの表情を浮かべながら溜息をつき、アルセドも 
虚勢を解き、力尽きたかのように地べたに座り込んだ。
「致し方がありませんな。若がここまでやるとは思いませんでした。」
嬉しいのか、残念がっているのか複雑な表情をしつつテシンは言う。恐らく心境 
も表情と一緒であろう。
「!!?どういうことだ?」
予想ざる廻りの状況にエッジは困惑しながらリディアに質問を促す。
「エッジもゴメン。実は・・・・。」
廻りの状況を理解していないエッジにリディアは順を追って説明した。エブラー 
ナの状況やそれの重大さ、複雑な文書の意味、この計画の全てまで。
「要するに、ずっと俺はお前にはめられ続けていたと・・・。」
凄む声でエッジは納得するような言葉を出し、リディアに怒りの炎を宿した視線 
で睨む。
「私だって、こういう人を罠にかけるような事好きじゃないけど、エッジのひね 
くれた性格にはこれが一番だと思って・・・・!!」
エッジの視線に気圧されたかのように、リディアは早口で弁解をし始める。しか 
し、エッジはそんな言葉に耳を貸さないかようにリディアに近づき、ついには手 
首を強引に掴みだした。
殴られるか、罵声を浴びせられるか分からないが、リディアは自然に身を縮め丸 
めた。
「そんなことはどうでもいい、それよりも成功していた計画を何故止めたんだ? 
俺はそこを聞きたいぜ。」
意外な言葉にリディアは片方で頭を覆っていた手を外しながら、惚けた表情を浮 
かべる。だが、エッジの問いの答えを頭に浮かべると自然に頬が朱に染まり、エ 
ッジから視線を外すが、次の瞬間、意を決した表情をするとゆっくりと答えを言 
い始めた。
「私・・・炎キライだった。小さな頃に故郷を焼かれ、その炎の中お母さんが死 
んでいったことを思い出すの。その後、ローザさんから勇気づけられて炎の魔法 
を使えるようになったけど、やっぱりキライだった。」
「みんなの手助けになるために必要なときは魔法使っていたけど、使う度に、炎 
を見る度に胸が痛んだ・・・。今まで・・・、今日までそうだった・・・。」
エッジがその場にはいなかったが、その話は聞いていた。前バロン王に化けたカ 
イナッツオの命令で、リディアの故郷『ミスト』に向かったセシル達のせいで起 
こった惨劇のことだった。魔性の腕輪『ボムの腕輪』で村の殆どが焼かれ、有能 
な召喚士もその時ほぼ焼け死んだと聞いている。
ローザから諭され立ち直ったと聞いていたが、やはりそう簡単に拭い去れるよう 
な過去ではない、エッジは静かにリディアの話に耳を傾けた。
「だけど、エッジの炎を見て、初めて炎の暖かさを感じたの・・・。」
「キライだった炎、見る度に心が痛んだ炎に、初めて心の暖かさや、勇気を感じ 
た・・。」
「そして、同時にエッジの私に対する気持ちもこの上なく感じた・・・。」
「おかげで、私の気持ちもはっきりしたの・・・・エッジのことが・・・好きだ 
って。」
最後の言葉を出すのに一瞬リディアは躊躇したが、勇気を振り絞り消え去るかの 
ような声で言った。
「・・・リディア。今なんて?」
突然の告白に今度はエッジが惚けた顔をして、言葉の真意を確かめるかのように 
問う。
「もう二度といわない!!」
今まで握っていたエッジの手を振り払い、リディアは背を向けながら言った。も 
う、顔から火が出そうなぐらいリディアは顔を赤らめていた。
「じゃあ・・さ。俺と一緒にこのエブラーナを引っ張っていかねえか?」
エッジも意を決してリディアに言った。当然言葉の意味としては、求婚を申し込 
んでいるのに違いはない。エッジも今は心臓が今にでも口から出そうな心境だった。
「・・・・・。」
しばらく、辺りに沈黙が続いた。テシンとアルセドも二人の事の進みに呆然とし 
つつも、ただ沈黙を守り続けるしかなかった。
「・・・いいよ。」
しばしの沈黙の後、依然エッジに背を向けたままリディアは、口元に笑みをこぼ 
しながら、そうポツリと呟いた。
どうやら、自分のいるべき場所はここのようだ。きっと彼は自分のことを幸せに 
してくれる、あの炎のように勇気づけ、暖かく包んでくれると思う。
空の彼方にいる母もきっと祝福してくれるだろう、リディアはそう思わずにはい 
られなかった。
今、目の前の若き国王は私の言葉を聞いて、歓喜の言葉を口にして自分を強く抱 
きしめている。
(調子いいんだから・・・。)心の中で、リディアはそう微笑みながら思った。

この後、エブラーナ国王は美しき妃を娶る。この世を救った英雄の一人であり、 
優秀な魔道士である。そして、エブラーナは荒れ果てた国内を復興させ、更に空 
前な発展を遂げた。

後に当時家臣テシンは語る。
『妃を娶ったのと同時に悩む日々が無くなったが、無くなるのと同時に家老とし 
ての役目も減ってしまったような気がし、物足りなさを感じるのは不思議なもの 
だ。』
『あの妃を選んだ国王も、それに諸手で賛同した自分も人を見る目は確かであっ 
た。』−と。



作者コメント:
再び、どうも!後編いかがだったでしょうか?とりあえずエブラーナ王、なんと 
かリディアゲット!という微笑ましい最後になりました。私としては、セッツア 
ー小説に次ぎ、死人が出ない小説第二弾となりますね〜(苦笑)
次は、再びFF9に戻って、あの英雄王の外伝を書きます。本編ではサラマンダ 
ーがあまりでなかったんで外伝ではサラマンダーを重点においた話にしたいと思 
います。完成日は・・・相変わらず気長に待って下さい(笑)