テオ達は全速力で空を駆けていた。 無の魔物がこの世に放たれ、クリスタルが破壊されようとしているが故にだ。 一刻も争う事態がために、レイン達一行もこの船に乗り合わせている。 一週間船に揺られて、自国に向かってもクリスタルが破壊されるのは目に見えているがために。 また、王の許可がなければ、他国の者を乗船できない規制があるのだが、今はそう言っている場合ではない。 厳罰に処すことがあれば、テオが皆の代わりに罪を負うとさえ言っていた。 とりあえず、シルフィードに向かいテオ達を降ろし、その後にウォータスに行くつもりである。 行きより早く進ませているがためにシルフィードには一日で着き、それから半日もすればウォータスに着くと考えていた。 「急がねばならん!頼みますぞシド船長!」 テオは舵を取っている初老の男に急ぐように催促した。 男、シド=アルセオレスはシルフィード王国飛空艇団の総責任者であり、飛空艇の生みの親でもある。 元、彼はロンカ文明についての考古学者でもあり、グランゼルの機械技師でもあったが、飛空艇に関する書物を発見してその後から飛空艇開発に没頭する。 その後、グランゼル技師を辞め飛空艇の浮遊技術などを独自に研究し、飛空艇開発が実現可能と知ると開発の経費を国から補助してくれるよう懇願した。 だが、国からの返答は冷たいものであり、空を飛ぶなどの絵空事など端から否定され、当然の如く開発補助など国からは出ることはなかった。 そしてグランゼルに絶望を覚えたシドは知識人として有名な知るフィード王に謁見を求め、飛空艇や浮遊論について王に語った。 シルフィード王は好奇心旺盛な人物でもあるがため、シドの開発に非常に興味を覚え、飛空艇について何度もシドに謁見させた。 ついには開発費用を全て請け負うことを認め、シドに飛空艇開発を命じたのだ。 開発に失敗などは一度もなく、完成しシドは空を飛んだ人物として世界にその名を轟かせることになった。 人が空を飛ぶ。 ロンカ文明がいかにも高度な文明とはいえ、五千年前という果てしない、神話にも近いともいえる過去の話である。 実際にそれを目にしない限り、誰も空を飛べることが可能だと信じないだろう。 例え、過去の書物があったとしてもだ。 そのため、それを信じ、実現させたシドはやはり偉大な人物としか言い様はない。 その偉大なるシドが口を開く。 「急いでおる。これ以上は無理だ、エンジンの限界などとうに過ぎているからな。」 舵を握りながら、パイプの煙草を吹かしながら言う。 「あれは何だ?」 レインがある方向を見つめ、指差しながら言う。 彼が指差した方向を皆見つめると、一つの黒い空間があった。 海しかないところだが、円形に海が抉り取られているような感じである。 だが、海以外にその上空や、海と空の空間ですらも暗黒に染まっていた。 まるでそこから異次元に繋がっている印象さえ受ける。 「無・・・。」 サフがぽつりと言う。 「エヌオーめ、いよいよ・・。」 テオも静かにそう言った。 「どういうことだよ、しっかり説明してくれよ!」 サースアイが不安一杯な表情を浮かべるながら説明を促した。 「エヌオーが遂に世界を無に還そうとしているのだ。」 「クリスタル破壊のための刺客も送ったし、破壊されるのは時間の問題・・・・。その間に少しずつ世界を無に還そうとしているのね。」 テオが語り、続いてサフが語った。 「だけど、まだクリスタルがある時点で何故無が発生するんだ?」 レインが疑問をサフにぶつける。 「今のクリスタルの力は元来のものではないわ、私たちに強力な武器を渡し、今は破壊されぬよう結界を施している。」 「だからクリスタルの力は、もう世界を管理出来なくなっていている・・・。」 サフは寂しげに言った。 「ということは、大地が腐ったりするんですか?」 サースアイがサフに聞く。 「いいえ、象徴たるクリスタル自身が在る限りそれは絶対にあり得ないこと。 世界の管理とは自然の力を上手く操作したり、魔物を制御したり、無の力を押さえることをいうのよ。」 「そう、そしてその象徴たる自身を破壊されないようクリスタルは力の大半を注ぎ込み、強力な結界を施しているのじゃ。」 魔道士二人が再び語った。 「でもこのままだと、結界が施されている部分以外は全部無にされるということだよね?」 ファルが師に聞く。 「恐らくそうなるじゃろ、だが無の進行はなるべく押さえなければなるまい。」 「ええ、無は無の魔物にとって力そのもの。魚が水を得たのに相応しいといえるでしょうね。」 ファルの問いに師が答え、そしてテオの言葉にサフは賛同した。 「とにかく急ごう!無に還されてたまるか!」 レインの言葉に皆は力強く頷いた。 そしてほぼ予定通り、シルフィードとウォータスに一行は到着したのだった。 テオ達一行は国の惨状に目を覆った。 恐らく逃げ遅れたのであろう、人々の死体が辺りに転げていたのだ。 また、高位の魔法を操るものがいるのだろうか、炭のようにされた者や、氷の彫像と化した者さえいた。 砕かれた石像もあちらこちらにある。 多分、石像は人間のなれの果てであろうと伺えた。 「なんということを・・・。」 母国の惨状に流石のディールも重い口を開いた。 「とにかく、城へ急ごうではないか!」 テオはそう言い、駆け出した。 だが、すぐさまテオは足を止め杖を構えた。 「テオ殿、まさか!」 「そのまさかじゃ、来るぞ!」 ディールの言葉にテオは肯定し、じっと精神を集中させる。 そして、物陰から一人の老人が姿を見せた。 勿論、皆はその者が人間ではないことを承知していた。 「アンタ、誰!」 ファルもまた鞭を構えながらいう。 「お主らが、光の戦士とやらか?」 老人は微笑しながら言う。だが、その目の奥底は邪悪な光を放っていることを誰もが見逃さない。 「そうだとしたら、どうするのだ!」 ディールも遂に槍を構え、凄んだ。 「ならば、エヌオー様に刃向かう者とお見受けしたぞ・・・・。」 「我が名はアルテ・ロイテ。エヌオー様に仕える魔術師・・・。」 老人は素性を明らかにし、笑みをこぼす。 「炎の魔神の怒り、ここに示すなり!煉獄の炎で焼き尽くすのだ!」 その時だった、テオは有無を言わず最上級の炎の魔法を完成させ、魔物にぶつけた。 灼熱の炎が魔物を包み、焼き尽くそうと燃え上がった。 だが、魔物は炎に包まれても尚、うごめき喋り始める。 「盛大なる歓迎の魔術。有り難く受け取るとしましょう・・・。」 「やはり、たいして効かぬか。」 テオはロッドを掲げたまま言う。 「それでは、我が真の姿を晒すことでお礼の形と致しましょうか。」 魔物はそう言うと、いきなり呻き声を上げ、姿を変貌していった。 頭、腹を裂くように異形の魔物が姿を見せ、そして見る見るうちに巨大になり、背に生えた羽で空を舞った。 「なんだと!」 魔物の変貌ぶりにディールは一瞬驚きの声を上げたが、すぐに表情を引き締め、魔物を見やった。 「醜悪なる魔物よ!このシルフィード竜騎士団部隊長ディールが相手する!」 ディールはホーリーランスを構え、力強く地を踏み、空高く舞った。 竜騎士しか出来ないとされる技である。 竜騎士は常人では考えられない跳躍の持ち主であり、その姿は竜が空を舞うかの如く飛翔し、竜の爪の如く鋭い一撃で敵を屠ると言われているのだ。 ディールが飛翔している間、テオとファルが魔法で魔物をくい止める。 テオは稲妻と冷気の最上級魔法を唱え、ファルは炎の魔神や氷の女王も召喚した。 魔物も黙ってやられるわけはなく、炎のブレスを吐きかけたり、翼から生じる衝撃波で傷を負わせた。 しかし、魔物の反撃もそこまでだった。 翼の攻撃の後に、天から降りてきた竜騎士の槍の一撃で魔物は息の根を止められたからだ。 「無の魔物とはいえ、所詮この程度。我が槍に貫けぬものなぞ無い。」 ディールは魔物の死体を見下ろしながらそう吐き捨てた。 「だが、この魔物は一番下級のものかもしれんな・・・。城の方角から強力なマナを感じるわい。」 テオが静かにそう言う。 「大丈夫よお爺ちゃん。この調子でいけば何とかなるよ!」 ファルがテオを元気付けるかのように言った。 だが、その後テオは信じられない行動に出た。 「我、この者の影を縛るなり。休息を与えよ、安らぎを与えよ・・・。」 テオはディールとファルに向かって魔法を放ったのだ。 身体が凍り付いたかのように、微動たりとも動かない。 ファルはこの魔法を知っていた。体の自由を奪う太古の黒魔法『シェイド』だということを。 強力な魔法で、効いてしまった場合、術者の意志がなければ解くことが出来ないとされる。 ・・・もしくは術者の死をもって解かれる。 「なにを・・。お爺・・ちゃん。」 ファルがテオの意図が分からず、師に聞く。 しかし、師の寂しげな表情からこれから死にに行くのをすぐさま感じ取った。 そう考えた途端、ファルの瞼から涙が溢れ、こぼれ落ちた。 「テオ殿・・。行ってはいけません・・・私たちが力を合わせれば・・・。」 ディールもテオのすることを感じ取り、止めようとするが、テオはその言葉にただ首を横に振るだけだった。 「分かっておる。だが、お主達だけは絶対死なせるわけにはいかんのだ。例え、この老いぼれが生き残ってもエヌオーには立ち向かえんよ・・。」 テオは微笑みながら言った。 「だめだよ・・ぉ。死んじゃ・・・嫌だ・・・・。」 完全にファルは大粒の涙をこぼし、泣いていた。 「これこれ、可愛い顔が台無しじゃぞ。」 テオはファルの涙を指で拭き取り、頭を何度か撫でた。 「テオ殿は・・・この世最大の黒魔法の使い手・・・。貴方を失うわけには・・・。」 ディールは必死にテオを止めようと説得する。 「いいや、この中で死んで良いのは儂に間違いない。ディール殿ほどの槍の名手はおらず、ファルは儂より強力な魔術師じゃ・・。」 「そんなことない・・・、お爺ちゃんの方が・・・・。」 ファルは涙声で言う。 「いや、今からファルが最高の魔術師となるのだ。」 「ファルにずっと隠しておったが、お前は既に竜王バハムート、海王リヴァイアサンなどと契約しておるのじゃ。」 テオはファルに永遠に隠し続けた事実を語った。 幼少の時に召喚魔法を全て極めたことや、高位の召喚獣はテオ自ら封印したことも。 「だから、何度修行しても修得できなかったのじゃ。」 テオが締めくくりにそう言い、封印解除のルーンを詠唱し始める。 「我、自ら施した封印を今解かんとす。力よ蘇れ!知識よ復活せよ!」 テオがそう唱えた後、人差し指を軽くファルの額にあてた。 その瞬間、ファルは強力なマナを身体の内から感じ、竜王や海王の存在が確信できるようになった。 「これでバハムート達を召喚できるようになったはずじゃ、そしてこの本も渡しておこう。」 テオはそう言うと、一冊の古びた書物をファルの側に置いた。 また、その書物の半分はちぎれてない。 「これ・・は?」 「『時空魔法の書』じゃろ、表紙が無いからはっきりとは言えんがな。」 「実はこの本、昔読んだことがあっての。 だが、その明記されているルーン通りに唱えても何も起こらず、古代人の悪ふざけで作成された書物だと思って当時は放って置いたんだが・・・、 クリスタルの言葉を聞いてもしやと思って本を出し、唱えてみたら・・・案の定というわけじゃ。」 「だが、高等魔法が書き示されていると思われる後半部分が無くての。」 テオは時空魔法の書について全てを語った。 「さて、儂はそろそろ行くとするかの・・。」 終始、師は微笑み続けていた。 まるでファルには自分の孫のような接し方だった。 「お願いだから・・・行かないで・・・。」 ファルは体を動かせないまま、懇願する。 「すまんの、やはりそれだけは叶わん。だが出来ればファルの花嫁姿と・・ファルの子を見たかったわい・・・。」 テオはそこまで言うと、瞼に光るものを見せた。 「では、さらばじゃ!」 そして、テオは振り返らずにその場から去ったのだった。 (ファル・・・後は頼んだぞ・・・。) 背からファルの悲願の声が聞こえたが、テオは心の中で最愛の弟子にそう諭すのであった。 結界は城門前まで施されていた。 結界がまだ施されていることにテオはまず安堵を覚え、また中に窮屈そうに人々がいることに歓喜した。 「・・・良かったわい。国民皆が息絶えたかと一瞬、絶望を感じたぞ。」 「喜んで場合かな?光の戦士よ。」 頭上から突如声がかけられた。 「無の魔物かの?」 おどける素振りをしつつも、テオは精神を統一し始める。 「その通り。我が名はネクロフォビア、そして・・・。」 ネクロフォビアがそう言いかけると、いきなり地響きが起こり、地割れが生じ、中から巨大な目をした魔物が出現した。 「この者がカタストロフィーと呼ばれる大地の魔物。」 ネクロフォビアは続けて、地から出現した魔物を紹介した。 「最後に・・・儂の名はアルテ・ロイテ・・・。」 テオは聞き覚えのある名を聞き、後ろを振り返る。 やはり、先程倒した魔物だ。 「下級とはいえ、弱すぎると思ったわい。蘇ったか、はたまたこの様な魔物が大量にいるのかの?」 「蘇ってはない。私とお前が倒したというアルテ・ロイテは別物。」 アルテ・ロイテは物腰静かに語ったが、怒りに満ちた視線をテオに向けていた。 「ということは、何匹もいるということかの?」 「それも、少し違う。」 テオの問いにアルテ・ロイテは首を横に振る。 「あれは別物だが、私の分身。しかし、私の命を削って作りだした物で、まったく関わりないものとは言えない。」 「成る程。ということはお主が本体であり、分身を失ったことで自らの命が多少削られたと言うことか・・。」 「即ち、本体はあれとは比べのにならない強さを持っているという事じゃな?」 テオはそう言い、言葉を締めくくった。 途端引き締めた表情をし、強大な魔力を集め始めた。 「では、死んでもらうぞ!無の魔物よ!!!」 「次元に狭間にうごめく破壊神よ、大地を漆黒に染め上げよ!」 殺気を解放し、素早く魔法を詠唱し完成させた。 「こ奴何者だ!」 強力な魔法をいとも簡単に完成させる、目の前の老魔術師に狼狽を覚えながら、アルテ・ロイテは叫んだ。 次の瞬間、肌を焼くような閃光が辺りを包み、灼熱の火炎が魔物を焼き尽くそうと燃え盛った。 「人間ごとき、我らに勝てるか!!」 ネクロフォビアもすぐさま魔法を詠唱し始める。 「させるか!!」 テオは再びそう言うと魔法を一気に二つ完成させる。 「我、時間を司る神に願う。この者達に安らぎの時間をもたらすことを!」 「我、時間を司る神に願う。我に宿れ!!神速の力!!」 魔法はネクロフォビアの魔法が完成する前に完成した。 「な、何だと!!」 ネクロフォビアは魔法を詠唱しつつも、その動きが鈍くなったことに気付く。 「この魔術師、時空魔法も使えるのか!」 フレアの魔法を凌いだアルテ・ロイテも追撃として課せられた魔法に驚く。 カタストロフィーもまた、無言ながら自らの動きが鈍重になったことに狼狽した。 テオは魔物共が狼狽していることを目にやると、すぐさま魔力を集中し、魔法を詠唱した。 「氷を司る女王シヴァよ、その凍れる吐息で全てを凍結させよ!そして、氷の鉄槌を下すのだ!」 「炎の魔神イフリートの怒り、ここに示すなり!煉獄の炎で焼き尽くすのだ!」 「雷を司る雷神ラムゥよ、その聖なる稲妻で我が敵を討て!裁きの審判を下すのだ!」 そしてテオは一度に三つの魔法を完成させた。 「化け物か!この人間は!!」 いくら動きが鈍重になったとはいえ、自らの魔法を完成する前に再び魔法を完成させる魔術師にネクロフォビアは恐怖に似た感情を抱いた。 「消えるがいい!無の魔物よ!!」 テオは魔法を無の魔物に向けながら叫ぶように言う。 テオの放った魔法により灼熱の炎が、凍てつく冷気が、眩いほどの雷が魔物を襲い、生命力を奪った。 「このアルテ・ロイテが・・・。」 流石にこの魔法の嵐にアルテ・ロイテが先に力尽き、絶命した。 「後は二人・・・。」 常人では考えられない程の黒魔法の連打に、テオはここで激しい息づかいをして魔法詠唱を止めた。 鼓動が激しくなり、目眩がし始め、体中のマナが全て失ったかのように腕の力が急速に失われた。 (じゃが、ここで終わるわけにはいかんのだ。我が命尽きようともこの魔物全ては片づけなければならん・・・。) そう考えると、一瞬先程別れを告げたファルの顔を思い浮かべた。 「必ず、世に光をもたらせよ・・・。」 テオはそう一言口から零れる。 その時。 「次元に狭間にうごめく破壊神よ、大地を漆黒に染め上げよ!」 ネクロフォビアの魔法が遂に完成したのだった。 激しい息づかいをしながらも、テオは魔法防御の姿勢を取り、何とか凌ごうとする。 だが、ネクロフォビアの魔力は巨大でテオの魔力を持っても凌ぎきれず、激しい熱に身を焼かれるのであった。 「ガァァァァァァー!!」 寡黙の目の魔物もここぞとばかり、マナを集中させ、雄叫びに似た咆哮をあげると鈍くその目を光らせた。 次の瞬間、大地が悲鳴を上げるかのように地鳴りを上げ、地が大きく揺れた。 「なっ!やはり、大地の力を操作する魔物だったか!」 フレアの魔法の次に間髪入れず放った、カタストロフィーの地震でテオは大地を転げまくり、体中を強か打った。 「・・・まだまだ、負けるわけにはいかない・・・・。」 テオは一言そう言うと、大きく咳き込み、真っ赤な血を吐いた。 「老いぼれよ・・・、そろそろ終わりだ。」 ネクロフォビアがとどめとばかりに再び魔法詠唱し始める。 カタストロフィーもそれにならって、マナを集中し始める。 「終わらせん!絶対にな!!」 テオはネクロフォビア達がまた再び同じ行動をとることを見切り、最後の力を振り絞り魔法詠唱し始める。 対象はあの目の魔物のみ。 「次元に狭間にうごめく破壊神よ、大地を漆黒に染め上げよ!」 魔法はテオが早く完成した。 放った魔法はフレア。それも連続魔法で唱えた。 二つの核魔法はまさしく、灼熱地獄と化すのに充分なものだった。 瞼を焼き尽くすかの如く眩い閃光は辺りを支配し、轟音と共に大地を抉った。 ネクロフォビアもまたその強力な衝撃に回避を余儀なくされる。 濛々と立つ、土煙の後にその魔物の姿はすでに無かった。 強力な魔術のぶつかり合いによって生じた力により、消滅したとしか考えられない。 「後・・・一人・・・。」 ロッドの助力があるとはいえ、既にテオの魔力は底を尽きていた。 今では生命力を魔力に転化して詠唱していると言っても過言ではない。 その生命力をもう尽きようとしているのを自分では分かっていた。 ネクロフォビアがフレアの魔法を完成してしまえば、恐らく命は無い。 「もうよい、魔法なぞいらぬ。この剣を以て貴様の命を狩ってやろう!!」 アルテ・ロイテに続き、カタストロフィーまでもが一人の人間に討たれたことに完全に怒り、ネクロフォビアは剣を構え、間合いを詰めてきた。 先程かけたスロウの魔法も、この魔物が莫大な魔力を爆発させることによって強制的に解除した模様だった。 故に相手の剣が届く前に魔法を完成させる自信なぞ、無い。 テオはそう頭の中で結論を導くと、同時に一つの決断をした。 最後の決断を、だ。 そして、遂にネクロフォビアの剣はテオを捕らえ、その剣先をテオの背から見せた。 貫かれた瞬間、テオは多量の吐血をしてぐったりと首を降ろした。 「やっと、死んだか。」 ネクロフォビアはテオの状態を見ながらそう確信し、剣を抜こうとした瞬間。 テオはその剣を抜かせんとばかりに掴み、力を込める。 死んだものと、ネクロフォビアは思っていたため、激しく動揺した。 「何!!剣は心臓を狙ったのだぞ!!生きているはずがない!!」 ネクロフォビアは剣を抜こうと何度か試すが、一向に抜ける気配が無く、遂にはその柄から手を離そうとしたが、その手も柄から離れなかった。 「残念ながら、部分的な麻痺を起こす魔法をかけた。その手はどうやっても離れんよ。さあ、ネクロフォビアよ、共に逝こうぞ・・・。」 テオはそう言うと、魔法を詠唱し始める。 「やめろー!自爆するつもりか!!」 ネクロフォビアは完全に恐慌をきたし、ひたすらその場から離脱しようと懸命に剣を動かす。 だが、ネクロフォビアの努力報われず、剣はびくりともしない。 (元気でな・・・・。) テオは一言心の中でそう呟くと、魔法を完成させた。 完成と同時に、破壊の閃光が二人を包み込み、光の中に飲み込まれていった。 そして光が消え去った後、そこには何も存在しなかった。 ネクロフォビアも。 また、テオの姿も。 ただ持ち主を失った一つのロッドだけが焼け付いた大地に転げていたのだった。 黒魔道士テオの壮絶なる死は今後、忘れることなく語られることとなる。 語り続けられ、後には吟遊詩人から『英雄の歌』として、後生まで残ることとなる。 勇気を奮い立たせるといわれるその歌は、千年後の未来でも歌い続けられるであろう。 作者コメント: またもや、お爺さんの悲しい死です。 しかも、本作では気に入っているキャラの一人ですね 本当はレインが主人公なんだけど・・・・後半では主人公らしくなると思います(多分) |