FINAL FANTASYX−十二の光− 第三章−破壊−

フレイア王国はまさに、混沌の中にいた。
王であるロゼルス=フレイア5世は国民に、クリスタルが語った全ての事実を話し、そして『皆も剣をとるべし!』と国民に対し論説したためだ。
一部の武人はその勇気がひしひしと湧くのを感じたかも知れないが、その他大勢の一般市民はまさしく恐慌した。
故に国内は混乱の渦に巻き込まれ、混沌とした国に早変わりしたのだ。
逃げ出すにも、相手は神話の時代に存在した闇を司る神。
世界の何処に逃げようとも結果は同じであるが、多くの人は人里を離れ、誰も住まない山奥に潜もうと逃げ出す準備を整えていた。
誰かがそうした方がよいと言ったわけではなく、ただ恐怖にかられ、混乱しているがために出した結論である。
その混乱の中、蒼い髪の騎士が魔道士風の女性と、背に弓を携えた青年と一緒にフレイア城向けて歩いていた。
三人はウォータス出身の光の戦士、レイン一行。
フレイア所有の港からでて、町に出た三人は騒然たる有様に驚きを隠せなかった。
事情も先程、ここから発とうとしている住民を呼び止め聞いた。
「有名な武人とは聞くけど、政策に関しては無知なようね・・。」
サフは冷たくそう言い放つ。
このフレイアの国王に対して、だ。
「無知なのか?国王としてやはり危険を事前に教えるのは当たり前だし、何よりも先頭に立って戦う意志を見せるのは国王にあるべき仕事と思えるが。」
レインはサフに政策の無知さを指摘したサフに返答する。
「そうだよ。なるべき早く教え、とるべき行動を国民にさせるのは当然じゃないのかい?」
サースアイもレインの言葉に賛同する意見をする。
「いいえ、今伝えるべきではないわ。時機ではないのよ。」
「伝えるべき時機は私たちがエヌオーの居場所を知ったとき、もしくは光の戦士がある程度動いたとき・・・。」
サフは続ける。
「エヌオーの力の源は負の心、即ち『絶望』『破壊』『恐怖』『憎悪』の心。
クリスタルの源とする心があると同時に、闇にも源とする心があるのよ。エヌオーに力を与えてるのに同然の行為と言えるわ。
例え、それを知らなくても国を混乱させるだけの発言は基本的に国王にあるべき言葉ではないわ。」
「だから、既に我々が動いているという事実、また虚偽でもいいからエヌオー対策にすでに光が見えつつあることを言うべきよ・・。」
「エヌオーに対する無知、何も力を持たない国民への対策。全てから見ても失策としか思えない。」
サフは絶望的な未来を予見し言った。
恐らくこの様な騒ぎがここだけに止まることはないだろう、短い期間ではないが近い内に世界各国にこのことは知られるだろう。
エヌオーも影で人間の愚かさにほくそ笑んでるに違いない。
「とにかく、今は城に急ごう。」
レインは気を落とす彼女を気遣いつつ、城に向かうことを促した。
「ええ。」
サフも一言そう言い、かくして一行はフレイア城に足を踏み入れるのだった。
城は騒然としており、騎士や兵士が慌てふためきながらそこらを行き来していた。
三人は入城して外の状況とあまり変わらぬ感想を抱きつつも、すぐさま王に謁見した。
そして、それぞれ充てられた部屋に案内された。
「しかし、俺達が最後とは。」
長旅に疲れたのか不意に欠伸をしつつ、レインは言う。
「しょうがないよ、僕たちの足は船しかないし、風のシルフィードみたいに飛空艇なんてウォータスには無いからね。」
弓の手入れをしながらサースアイは言った。
「だけど、一応皆に顔を合わせた方がいいんじゃないかな?」
手入れする手を止め、ふと思い出すかのようにサースアイは言う。
「どうせ、明日皆の顔合わせなんだし、その時でいいだろ?」
ベッドに寝転がり、レインは気怠く答える。
しかし今すぐ寝たい気分だが、サースアイのことだ言ったことはすぐさま実行するだろうと反面、不安を募らせていた。
「だめだよ、そんなことじゃ。聖騎士なんだからもっとしっかり!」
「でももしかしたら、可愛い娘がいるかもよ!」
サースアイがレインをベッドから立ち上がらせようと、言葉巧みに言う。
「あのな・・。」
レインが上体を起こし、何かを言おうとするがすぐさま思い起こしたかのようにサースアイは手を打ちレインの発言を遮る。
「あ、でもレインにはサフという恋人がいたっけ・・。」
「あのな!」
再び同じ言葉で強くレインは言う、幾分か頬を赤くしているように感じる。
「いいよ、そんなに隠そうとしなくても。僕だって幼なじみだからね、よく分かるよ二人の関係。」
「あーあ、しょうがない。一人寂しく女の子を見に行くかな・・・。」
勝手にレイン達の関係を解釈し、肩を落とす素振りをしながらサースアイは部屋から出ようとした。
「待て!あんなのとそう言う関係なワケないだろ!よし、俺も行く!付き合わせてくれ!」
レインは慌てふためき、関係を否定し、サースアイと同行する旨を伝える。
「あんなので悪うございましたね。」
ふとレインは聞き覚えある声を聞く。
優しい言葉遣いだが、その奥底に怒りと凄みを感じさせた。
勿論、レインは声の主を知らないはずはない。
レインは冷や汗を流し、その人物が今から現れるであろうドアの向こうを見やる。
そして現れたのは間違いなく、サフ。
笑顔を見せているが、その目は笑っていないことをすぐさまレインは感じ取る。
「我がウォータスの誇る聖騎士とは思えない発言の数々、この宮廷魔術師サフトルティーナ確かに聞き届けました。
厳罰は免れません、減俸という形で聖騎士殿には反省してもらいましょう。」
サフは毅然とした態度でレインにそう面向かって言い、再び背を向け廊下に出ようと歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!サフ!!言葉の綾って奴だよ、頼む、許してくれ!何でも奢るから!」
宮廷魔術師を担っているがため、あらかた嘘とは言えない言葉に狼狽しながら、レインは様々な弁解をし、サフに謝罪する。
サースアイは見慣れているが、第三者がこの聖騎士の愚行を見たらどう思うであろう。
苦笑いを浮かべ、サースアイは二人のやりとりを見やった。
(この二人独特の愛情表現かな?)
サースアイは二人の行動を勝手に解釈し、納得する。
同時に長くなる口論を知っているがため、サースアイはまだ言い争う二人をよそにここから離脱するのを心に決め、外に出た。
「さて、僕だけでも挨拶しに行くか。」
外に出て、サースアイは暖かい陽光をいっぱいに浴び、背伸びをした。
秋深まり肌寒さを感じる季節だが、この日の午後はうっかりすればまどろんでしまうほど暖かい日だった。
とりあえずサースアイは、この城に寝泊まりしている火・風の光の戦士に会うことにした。
そして、最後に城下町の宿の部屋を希望した土の光の戦士と面会する。
頭の中で計画を打ち出したサースアイは、その計画通り実行し始めるのだった。
 

翌日、十二の光の戦士は火のクリスタルの下、集結した。
前日に大体の戦士達は顔合わせしているため、既に知らぬ顔は殆どなかった。
火のクリスタルの戦士の忍者一人を抜かしては。
恐らく、自国出身の戦士以外はこの忍者はこの場で初めて見たのが多数を占めるであろう。
フレイア王は十二の戦士が全員いるのをしっかりと見届け、まず自国出身の光の戦士を紹介した。
「我がフレイアの侍の頭首、フェイザス=セトナ。我が国一の剣豪である。」
フェイザスは王に紹介され、軽く一礼する。
彼は紅の甲冑を身に付け、腰に『正宗』を差していた。
歳は中年を過ぎたような感じで、無精髭を伸ばしている。
一瞬見れば、無骨そうにも感じるが、実際は暖かみに溢れる人物でいつもにこやかに接してくれる人物である。
そして王は紹介し続ける。
「次は暗黒騎士団の団長カーク=デセンド。我が国では近衛騎士団と同じ役割を担っている。こう見えても彼は我が国一の剛力の持ち主であるぞ。」
カークもまたフェイザスにならって一礼する。
暗黒騎士団特有の漆黒の甲冑とマントを身に付け、背には『ルーンアクス』と呼ばれるクリスタルの武器を携えていた。
背格好も特別大きくもなく、レインと同じような身体のつくりをしている。
果たしてこの身体からどのような力を生み出すのか見当しがたいが、王がそれほど言うのならば戦闘の中でその力を見せつけられるであろう。
歳は二十歳後半、風貌として甲冑と同じ漆黒の髪が印象的だった。
「最後に忍者の頭首、ノルヴァ=ゼツ。
隠密行動が主でな、今ではあまり真価を問われる時機がないため強さを誇示できなかったが、恐らく今回の戦ではかなりの力を見せてくれるであろう。」
王に紹介されたノルヴァもまた軽く頭を下げた。
ただ、沈黙を守り続ける彼の素性は今でもよく分からない。
黒い頭巾で顔を隠し、見えるのは目のみ。
背には『佐助の刀』と呼ばれるクリスタルより受け取った武器を携えていた。
その風貌からして年齢も不詳としか言えない。
そして、それぞれ火のクリスタルに選ばれた戦士が受け取った武器。
フェイザス持つ『正宗』はレインのエクスカリバーに勝るとも劣らぬ切れ味を持ち、またその重さは羽のように軽く連続攻撃を可能とする。
次にカークが受け取った『ルーンアクス』。
その刃全てに刻み込まれたルーンは様々な魔法を切り裂き、『プロテス』などの防御魔法も貫くとされる。
付与されている効果はそれだけではなく、所持者が念じればその刃はいくらでも研ぎ澄まされ、攻撃力を上げられるのである。
最後に忍者ノルヴァの受け取った『佐助の刀』。
忍の世界でその名は知らぬ者はいないとされる、伝説の人物「佐助」が愛用した忍者刀である。
この武器を握ることにより、自らの俊敏さを強化され、また忍術の威力も増大される。
他にも相手の急所を見抜くことが出来る魔力も追加されていた。
「では、今後のことについて・・・。」
王が自国の戦士を紹介し終わった後に、再び口を開いたまさにその瞬間−クリスタルが驚きの声を上げた。
皆も、何事かという表情浮かべクリスタルを見やる。
(そんな!封印が解けてないのに、何故復活を!)
「どうなされました!」
王は動揺を隠せないまま、クリスタルに問いかける。
(・・・復活しました。)
「まさか、エヌオーが復活を!」
レインが激しい剣幕でクリスタルに問い詰める。
(いいえ、十二の無の魔物が復活しました・・。)
「それは確か、神話時代のエヌオーの手先だった者ですね。」
サフは昔読んだ書物の知識を、披露しつつ語った。
「しかも、封印城クーザーに封印されたと聞くが・・・。」
テオもサフに続き、十二の魔物について言う。
「水国の賢者に、黒魔法の父がいると知らないことはないよね。」
レダがそれぞれの敬称を言う。
実際、テオとサフは世間ではそう言われ、人々から畏敬の念を以て接されている。
「お前は黙ってろ。」
出る幕ではないと言わんばかりにシェイカーがレダを叱咤する。
レダも文句の一つはつきたいところだが、グロアから厳しく注意を受けていたし、またこの場の雰囲気がこれ以上の発言を遮った。
「で、その十二の魔物は何故復活できたのでしょう?」
グロアがゆっくりとした口調で言う。
(すみません、それは分かりません・・・・。ただ、早く皆さんはそれぞれの国へ帰って下さい!早くしないと!)
クリスタルが何かを感じ取っているがためか、非常に動揺している感じだった。
「何をそう急がせるのですか?無の魔物とはいえ、クーザーからここまでは一日以上はかかりまする。
ましてやシルフィードに関しては一週間以上・・・。」
フェイザスがクリスタルの意図が分からず、そう訊ねる。
「恐らく瞬間移動の魔術を身に付けているかも知れない!だとしたら!」
サフがクリスタルの同様の理由を悟った瞬間、激しい無の波動が辺りを支配した。
(・・・・その通りだ、女。)
クリスタル同様、直接頭に声が響く。
だが、クリスタルとは違い、邪悪で禍々しい気に満ちた声だった。
そして次の瞬間、目の前の空間が揺らぎ徐々にその姿を現した。
一人は長身の魔術師のような魔物。
一人は半裸の男のような風貌をした魔物。
最後にボムのような頭をした三匹魔物が後ろに控えていた。
「クックック。我が名はアポカリョープス!唯一の青魔法の使い手である。」
「私はヤム。水の魔物の化身、私の水術で永遠の眠りに誘おう・・・。」
「僕は炎のトライトン!僕は氷のネレゲイド!僕は風のフォーボス!」
「クッ!瞬間移動の魔法とは!」
フェイザスはいきなりの魔物の出現に多少驚くが、すぐさま剣の柄を掴み、戦闘状態に入る。
「皆は早く自国に帰れ!俺達でこいつらを仕留める!」
カークも背のルーンアクスを取り、構えながら言う。
「恐らくクリスタルの破壊が奴らの目的・・・。」
ノルヴァは静かにそう言い、背の忍者刀に手をやる。
「し、しかし!」
レインは三人でこの五人の魔物を仕留めることに不安を覚え、自分らも戦うことを言おうとしたが、クリスタルがそれを止める。
(いけません!冷たいようですが、早く行かないとクリスタルが砕かれてしまいます、ある程度は結界でしのぐとは思いますが・・・。果たしてどれだけ持つか・・。)
「そんなこと言っている場合か!目の前で死を覚悟して戦う者を見て、黙っていけるか!」
レインは凄みながらクリスタルに向かって言う。
そして、エクスカリバーの柄を持ち、今にも加勢に行こうとしたその時だった。
「夢の世界に誘う小人よ、この者の瞼に砂をまけ、安らかな眠りに誘うのだ。」
テオがレインに近づき魔法を詠唱し、その手をレインの顔の前にかざした。
「テオ殿なにを・・・。」
レインはそう言うと同時に意識を無くし、安らかな寝息を立てた。
「『スリプル』という眠りの魔法じゃ。サフさんがかけようをしたのを見かねてな・・。」
テオはそう言い、若い魔術師に視線を一瞬やった。
サフはテオの言葉にはっとしながら「すみません。」と一言謝罪した。
「いやいや、聖騎士らしい発言じゃて。だが、クリスタルの崩壊はこの世界の崩壊も示す・・・。それだけは避けねばならん、命に変えても、な。」
テオがそう言いつつ、寂しげな表情をする。
ファルもまた、その師の表情を見逃さなかった。
師は何を考えているのだろうか?
もしかしたら、場合によっては自己犠牲を考えているのだろうか?
様々な不安がファルの頭の中を駆け巡る。
「どうしました?ファルさん。」
グロアがいつも陽気な召喚士の少女に不安ながら声をかける。
「んんっ!何でもない!とにかく外に出て、帰らないと!」
(では、私が瞬間移動の魔法で城外まで移動させ、そしてこの魔物が追ってこないよう、結界を施します。)
クリスタルが皆にそう告げる。
三人の火の光の戦士は既に戦闘を開始している。
(風の精霊よ、彼等を地上に導け、全ては帰るべき場所に・・・。)
クリスタルの魔法は完成し、火の光の戦士以外は瞬く間に地上に瞬間移動した。
またクリスタルは魔法を詠唱する。
(地水火風の精霊よ、全てを閉ざす結界をここに!)
クリスタルの第二の魔法により、今度は城全体に結界が施された。
「クッ、結界を張られたか!エヌオー様の『デジョン』で来たのは良いが我らは時空魔法を使えん!
クリスタルの破壊のみが我らの脱出方法となったか・・・。」
アポカリョープスは好ましくない状況に悪態を付いたものの、その口元には不敵な笑みをこぼしていた。
「だが、別に容易い課題だ・・・。頼りのこの者共がこの程度だからな。」
「馬鹿か?戦闘能力も弁えることの出来ない輩が儂に勝てるか!」
フェイザスが正宗を我が手のように操り、アポカリョープスに詰め寄った。
そして正宗を手に入れたおかげで身に付けた四回の連続攻撃をフェイザスは見舞う。
たまらず、アポカリョープスは身を引き、その攻撃を何とか凌いだ。
「おのれ、人間の分際で!!」
アポカリョープスは完全に激昂し、反撃と思われる魔法を詠唱し始める。
「全ての攻撃をはじく、究極の結界・・・。全ての力を引き出す究極の増幅魔法・・・。」
「させるか!」
フェイザスはアポカリョープスに再び斬撃を見舞おうとしたが、突如強力な冷気が彼を襲った。
「氷を司る女王シヴァよ、その凍れる吐息で全てを凍結させよ!そして、氷の鉄槌を下すのだ!」
ネレゲイドの放った、冷気の最上級魔法であった。
フェイザスの足下は一瞬で凍り付き、そして頭上から身長の倍はあろう氷柱が彼目掛けて落ちてきた。
「おのれ!」
フェイザスは悪態付きつつ、対魔法防御の姿勢をとる。
次の瞬間、フェイザスの辺りは氷の破片が飛び散り、強力な冷気が彼を取り巻いた。
「フェイザス殿!」
その状況を見やりながら、カークはヤムに重い一撃を与えた。
ヤムもまた、愛用のトライデントでその攻撃を受け流す。
「人間にしてはなかなかやる・・・。だがこれまでだ・・・。」
そうヤムは言うと、鋭い槍での一撃を突きだす。
カークもまた、その一撃を間合いを空けることによって凌ぐ。
ヤムはそれを待ってたかのように、すぐさま魔法詠唱の姿勢を取る。
「我は呼びたもう、地獄の雲。その雨で死をもたらせ、全てを腐敗させよ。」
歌うように魔法を詠唱し、そしてヤムは魔法を完成させた。
すると、突如強い刺激臭のする雨がカークを襲った。
「何だこれは! 」
「『アシッドレイン』と呼ばれる酸の雨を降らせる暗黒魔術・・。」
酸の雨に身を焼かれる様を恍惚な表情で見つつ、ヤムは言う。
「この様な魔法に俺がやられるか!」
カークは身を焦がしながらもヤムに斬撃を見舞おうとする。
「フッ、そのような攻撃など私には効きません。」
 身を焼かれた激痛がため、カークの斬撃に鋭さはない。
その時だった。
「完成された魔法が今ここに!!」
アポカリョープスの魔法が遂に完成したのだ。
魔法完成と共に魔物全てに輝く光体が溶け込んでいった。
「おお、力がみなぎる!人間よ、これで貴様に勝ち目はなくなったぞ!」
ヤムは溢れる力に歓喜し、勝利を宣言した。
「クッ、俺も負けるわけにはいかないのだ!」
「受けろ!我が奥義!」
カークは全精神力を込めルーンアクスの刃をヤムに振り落とした。
しかし、アポカリョープスの魔法により、俊敏さも増幅されており、難なくその攻撃はかわされ、勢い余ったアクスは地に埋もれた。
「馬鹿め!死ねい!!」
ヤムはその隙を見逃すことなく、止めとなる突きを繰り出した。
だが、ヤムはその行動があまりにも愚かだったと次の瞬間思い知らされる。
「な、何という剛力・・・。」
ヤムの胴に深くルーンアクスの刃が埋もれていた。
実は隙を態と見せ、逆にヤムに隙を出させたのである。
常人ならばあの巨大なアクスがすぐに切り返し、一閃してくるなど思いつかない筈である。
ましてや、渾身の力を込めた一撃の後である、どう考えても槍の突きの方が早く到達すると考えるであろう。
「だが、私にはアポカリョープスのかけた『プロテス』の効果もあったはず・・・。渾身の一撃でも私を死に至らせるのは不可能なのに何故・・・?」
ヤムが口から多量の血を吐き出しつつ、言う。
「残念だが、この斧には防御魔法は意味をなさない・・。」
激痛に耐えつつも、カークはヤムの疑問に答えた。
「成る程・・・。だが!」
ヤムはカークの答えに納得すると同時に、自らの死を確信する。
そしていきなり膨大な魔法力を集中し始めた。
「何をするつもりだ!!」
「残された生命力全てをなげうってでも、貴様らを地獄に案内してやる!!これではエヌオー様に申し訳たたぬ故にな!」
ヤムはそう言いつつ、魔法詠唱を続ける。
「させるか!!」
カークは再びアクスを振るう、だがその攻撃をヤムは腕で受け止めようとする。
斧は軽々とヤムの腕を切り離し、そして肩に深く埋まる。
しかし、腕が障害となり魔法詠唱を止めるところまでには至らなかった。
「我が命を賭して死の渦を呼びたもう。全てを飲み込み、命ある者を暗黒の深海に陥れよ!」
ヤムの魔法が完成した。
その瞬間に石床は一面水になり、次に激しい渦が発生し始める。
「これで・・・終わりだ・・・、私の命尽きても・・・この魔性の渦は消えやしない・・・。」
ヤムは途切れ途切れそう言った後、激しい吐血をし、息絶え渦の中にに消えた。
「ヤムめ、死んだか・・・。まあいい、禁術である『メイルシュトローム』に逃れる者などいない、
これで光の戦士の全滅は必至、我が手間も省けるというものだ。」
アポカリョープスは仲間の死を気にもせず、魔法を詠唱し始める。
「大地の戒めよ、今すぐ解くのだ!願わくば我を天高く舞い上がらせよ!」
魔法は完成し、アポカリョープスを含め生き残った魔物が空中に浮き出す。
「これで君たちも終わりだね〜!」
ノルヴァと対峙していた三匹の魔物は揃ってそう言う。
「クッ、何故貴様ら死なないのだ!」
ノルヴァは何度もこの魔物の息の根を止めていた、だが多少の時間を置くと再び彼等は復活するのだ。
故に様々な攻撃もした。
忍術で焼き払ったり、凍らせたり、時には稲妻も落とした。
効果は物理攻撃と同じで、三匹中何匹は即死するが、生き残っている魔物を相手している内にまた死んだはずの魔物が復活するのだ。
アンデッドの存在を知っているが、この様な短時間で復活する魔物は初めて対戦する。
また、打開策も見出していない。
「しかし、このままでは我らは!」
フェイザスは空中に逃げられた、アポカリョープスを睨みつつ言う。
彼は先程の『ブリザガ』で多少の手負いをしたものの、大事には至らなかったのだ。
その後、魔法を放った魔物を一撃で仕留め、アポカリョープスに向かった矢先にこの事態が起きた。
「どうやら、俺の力が必要なようだ・・。」
カークは既に渦の中心にいた。とてもではないが正気の沙汰ではない。
「何をしているのだ!カーク殿!!」
フェイザスはカークのしようとすることを掴めなかったが、間違いなく命を捨てる覚悟をその顔に見た。
「やめるんだ!他にも方法があるはずだ!!」
ノルヴァが初めて感情的になり、カークの行動を止めようとする。
だが、二人の静止の言葉にただカークは横に首を振るだけだった。
「すみません、フェイザス殿、ノルヴァ殿・・。これしか方法はないのです。このままでは我々は全滅、それだけは・・・・。」
そう言い、カークはルーンアクスを天高くかざした。
「光の武器ルーンアクスよ!その聖なる力を持って悪しき魔術を砕け!!」
そして、カークは渦の中心目掛けて消えていった。
渦に巻き込まれ消えていったカークをずっと見つめることが出来なく、フェイザスは捕まっている石壁に視線を移した。
(・・・すまぬ、必ずや世界に光をもたらすぞ・・・カーク殿。)
言いしれぬ感情を押し込め、フェイザスは英雄たる戦士の死を悔やんだ。
ヤムの最後に唱えた魔法もカークの捨て身の行動より、その効果を失せていった。
渦の回転は徐々に弱まり、最終的には水そのものが消え、元の石床に戻った。
「一人だけか・・。光の戦士もなかなかしぶとい・・・。」
『レビテト』と呼ばれる魔法効果が切れ、アポカリョープス達はゆっくりと地に降り立った。
「許さぬぞ、貴様ら!!」
フェイザスはカークの死に猛然と怒り、アポカリョープスに切り込んだ。
仲間の死により、さらに研ぎ澄まされた剣がアポカリョープスを切り裂く。
だが、アポカリョープスもまた増幅された敏捷力で、剣を寸前の所でかわしたり、軽傷に留めた。
「今度こそ仕留めてやるぞ、光の戦士!」
また、アポカリョープスは魔法詠唱をし始める。
「大気を司る精霊王ジンよ、その全てを切り裂く刃で我が敵を討て!」
「我が究極奥義!」
フェイザスもまた、対抗するべく剣技を繰り出した。
鞘に剣を一瞬収めて、そして一文字に虚空を切り裂く。
「な、我が・・・人間などに・・・。」
アポカリョープスの魔法は完成することはなかった、フェイザスの放った真空波がアポカリョープスを両断したからだ。
アポカリョープスはそのまま崩れ落ちる、恐らく息絶えたであろう。
「グッ!」
その時、全ての力を出し尽くしたフェイザスにノルヴァの苦悶の声が聞こえた。
フェイザスは何事と見やると、三匹の魔物に囲まれ石化しつつあるノルヴァがそこにいた。
「こいつ、なかなか石にならないね〜。」
「しぶといな〜。」
「さっさと石になって、砕けちゃえばいいのに〜。」
三匹はノルヴァ目掛けて魔力を放ちながらそれぞれ言った。
「ノルヴァ殿今すぐ助けに・・・。」
そこまでフェイザスは言うと、目眩を覚える。
「まだ終わってはおらぬ・・・・、貴様の命奪えぬとも・・・あの忍者だけは・・・殺す・・・・。」
フェイザスは目眩を覚えつつ、声が発せられた所を見る。
半身になりながらも、生きていたアポカリョープスがそこにいた。
両の手はフェイザスに向けて。
「貴様にかけた・・・『マインドブラスト』は、身体の自由を奪う神経系の魔術・・・・、力果たした貴様にはよく効くだろう・・・。」
アポカリョープスはかけた魔法を説明し、フェイザスに絶望感を与え、そして遂に息絶えた。
「フェイザス殿心配めさるな・・・、我が奥義にてこの者共を地獄へ送りましょう・・・。」
ノルヴァは動けぬフェイザスにそう言い印を組む。
「汝の技は我が技に・・・。」
「消えろ〜!『デルタアタック』!!!」
三匹の魔法が遂に最大限に放たれた。
しかしそれと同時にその技を三匹向けてノルヴァは放つ。
三匹が放った技がそのまま我がものとし、魔物に向けて放ったのだ。
魔物は自分らの放った技が、自らにかけられたことによって、死が迫ってきたことに恐慌した。
「さらばです、フェイザス殿・・。」
ノルヴァのこの言葉を最後にして完全に石化し、粉々に砕け、命を落とした。
「そんな、僕たちの技が〜!」
「石化されたら、僕たち復活できないよ〜!」
「死んじゃうのは嫌だ〜!」
三匹の魔物もまた、この言葉を最後に石化し砕け散った。
しかも魔法抵抗が乏しいのか、魔物共は一瞬にして石化した。
「ノルヴァ殿・・・・・。」
やっとアポカリョープスの縛めから解き放たれたフェイザスは、またもや命を落とした戦士に膝を落とし、涙をこぼした。
カークの時は涙を堪えていたが、全てが終わった今では感情を留める理由はない。
「無の魔物よ・・・、決して貴様らは許さぬ。この二人のためにも必ず世に光を取り戻してみせる・・・・必ず。」
フェイザスは一度に失った戦友の悲しみを胸に、揺るぎない決意を固めるのであった。
だが、まだこれは序章に過ぎない。
神話の時代より再び起こった光の闇の戦いは、まさに今始まったのだ。
 
 
 
作者コメント:
バトル好きな私の真価が発揮されるとき〜!(笑)
でも、今回はとっても暗い話です、FF2見たいな感じを醸し出しているかな?