最初は何も存在しなかった だが、光と闇という既念は存在した ただ、「命」「思考」「精神」というものが存在しないだけだ 時間というものが存在にない故どれくらいの年月を得たかは分からないが ある時「神」という名の存在が生まれる それも「光」と「闇」の 同時に「時間」が生まれ動き出す そして、二柱の神は「命」を創り出した 人間を動物を植物を・・・ 様々な命を造り、世界を築き上げた 世界を創り出し間もなくして「闇」の神は創造の愚かさを主張し始める 闇の神は命の創造には初めから不服であったのだ また闇の神は同時に「無」も司るが故に しかし、あらかた創造した命を破壊するのは光の神は納得しなかった 無こそが破壊も憎しみもないのを知るが、神の所業として命を育むのを光の神は主張す る 相反する互いの主張がついに戦いという名の結論に達した 永劫に続くと思われる神の戦い だが、いつかは決着がつく時がくる 最終的には光の神が勝利し、闇の神の肉体を滅し、永遠の命を持つ神の魂は無の世 界に封印した しかしながら光の神も勝利したとはいえ深手を負い、そのため肉体を捨てる時が来たの だった 神は魂を四つに分け光り輝く要石に閉じこめる 「勇気」は火のクリスタルに 「慈愛」は水のクリスタルに 「希望」は地のクリスタルに 「叡知」は風のクリスタルに そして、クリスタルは世界に降臨し、世界をあるべき方向を示す道標となったのだ だが世界創造から二万年という時が流れて 再び混沌が世を支配するとは神の力を持っても予言できなかった 第一章−胎動− 世界はまさに平和の極みだった。 神の分身とも言えるクリスタルによって調和がとられた世界は人的な災害もなく、魔物も一方的な攻撃を仕掛けられない以上、静かに闇の中で生きた。 魔物など白日の下に見るのも珍しいかも知れない。 地水火風の四つのクリスタルは世界四大国として名高い巨大国家に各自保管されていた。無論、その歴史は計り知れない。 また、クリスタルは王家の者のみが近づけ、謁見することが出来る。 その他の者は、たとえ王家の重鎮の者であれクリスタルルームに近づくのを許されなかった。 故にクリスタルを護り続ける王家は、それぞれ秀でた力も持つと言われる。 火のクリスタルを守護するフレイア王国の王、ロゼルス=フレイア五世は武術に長け、剣では世界で右に出るものがいないとされる。 その火のクリスタルは勇気と武術も司り、王国では騎士・忍者・侍など武術を非常に重じた武人が多く占めていた。 中でも侍の剣の鋭さは風の王国シルフィードの竜騎士の槍にも引けを取らないとされている。 次に、風のクリスタルを守護するシルフィード王国は魔法を重んじ、知識こそが世を豊かにすると信じられている。 実際、王国では黒魔道士・白魔道士が殆どを占めており、王国を総括する王、 スタイシス=シルフィード七世は賢王と呼ばれる程の知識人で世の中で知らぬものはないといわれている。 だが、魔道士だけの国と考えるのは愚かである。 シルフィードには魔法の他にも誇れるものがあったのだ。 それが竜騎士。 竜を手なずける者として、または竜ごとき強さを誇るが故呼ばれる騎士である。 今の竜騎士隊の人員は五十人も満たない少人数だが、その一人一人の実力は「竜の試練」という過酷な条件を克服したエリート集団でもある。 実質上、その戦闘力は世界最強とされる。 そして水のクリスタルを守護する国、ウォータス。 その城主エルザ=ウォータス十一世は美しい美貌をもつ女王で知られ、強力な癒しの力を持っているとされる。 世間ではその癒しは死者をも蘇らせると聞くが定かではない。 また、クリスタルは慈愛といたわりを司るがために、国では神官・白魔道士が多く占めるが、ウォータスで特に名が知れているのは「聖騎士団」。 戦闘力はフレイア国の侍、シルフィードの竜騎士には劣るが、白魔法を行使でき、そしてその神聖さを感じる白銀の鎧は見るものを心から安堵させる。 最後に地のクリスタルを守護するグランゼル王国。 豊穣と希望を司る地のクリスタルの力でグランゼルの地は、非常に豊かで農業・工業が盛んである。 そのため、貿易も盛んになり、つれて商業も活気溢れるようになった。 また現王アッゼオ=グランゼル十世は常に画期的な政策を打ち出して、国を豊かにし、国民から非常に支持を受けている。 今は、工業中心に政策を進め、機械たるものを開発し続けていると聞く。 皆、これからも続くであろう平和に誰も疑いを持たなかった。 しかし、クリスタルはその輝きに陰りを見せ、平和に終焉の時が来たのを静かに語った。 光を暗黒が包み込む。 そのクリスタルの陰りは各王の心を震撼させ、不安と絶望を与えたのだった。 年一度の『国際会議』。 今年は二度目が開催されるのを各王は信じて疑わなかった。 月日が流れ、ここは魔法の国シルフィード。 暖かい秋の日差しを受け、寝ぼけ眼に欠伸をしながらエメラルドの髪をした少女が書物をけだるそうに見ている。 とても、頭に入っている様子ではない。 「シルフィードの建国王・・・アス=シルフィードは・・・・。」 少女は重く感じる頭を上下しながら呟く。既に意識は彼方に放り出されているようだ。 夢の世界の誘いを受けるのは時間の問題とも言える。 しかしその時、突如少女の頭に激しい痛みを感じた。 同時に激しい罵声もとぶ。 「馬鹿モン!居眠りするとは何事じゃ!!」 激しい痛みで、少女はすぐさま声の主に目を見やる。 そこには白髪で鼻の下に白い髭をたくわえており、そして黒い魔道服を着込み、右手には魔術師の杖を携えた老人が怒りを露わにして少女を睨んでいた。 勿論彼女はこの老人を嫌なほど知っている。 「痛いな〜、何も杖で殴ることはないでしょ、お爺ちゃん!」 少女は頭を撫でる素振りをしながら、老人に抗議する。 「お爺ちゃんと言うな!師匠と呼べといったはずだぞ、ファル!」 ファルと呼ばれた少女は尚、不服な顔をしたが、すぐに諦めた表情になり「はい、はいテオお師匠様。」と軽くあしらうかのように言う。 テオと言われた魔術師は多少、その態度に納得がいかなかったが少女の性格からして、深く言い詰めることは止めることとした。 「まったく、兄弟子とは大違いじゃぞ。魔道士たるものはな・・・。」 テオがそう言いかけると。 「博識でなくてはいかん!でしょ?」 テオの発言を遮り、ファルは素振りも真似しつつ言う。 「分かっていれば宜しい・・・。」 先に言われたテオは言う言葉もなく、ただそれだけを言った。 「まったく、同じ事ばかり言うんだから・・。覚えたくなくても覚えるわよ。」 ファルは呆れ顔で言う。 「でも、サステス兄さん元気にしているかな。」 突如、懐かしい表情をしつつファル言った。 「元気にしておるだろ、シルフィード王国の宮廷魔術師に任命されてからはや二年となるか・・。」 テオが遠い目をしながら言う。 サステス。黒魔道士テオの一番弟子であり、またテオが育てた孤児でもある。 サステスは魔道士の才能十分の人物であった。 テオの魔術書を読みあさり、テオの教えも瞬く間に吸収していった。 また、実直な心の持ち主で、優しさも人一倍持っていた。 そして、二年前のある日、王直々の宮廷魔術師としての誘いを示す書面が届けられ、サステスは快く引き受けた。 また、サステスは宮廷魔術師になってから、毎月充てられる給与の殆どをテオの元に仕送りしている。 宮廷魔術師の給与など、一般の市民の比べものにはならない、それどころか貴族より豪勢な暮らしが出来るほどの金額を充てられているのだ。 テオは実際持て余しているのだが、サステスの好意を無視してはならぬと、口を紡いでいる。 勿論、手紙で送るなとは言わないが「もう少し、自分のためにつかいなさい。」 という文面の手紙を送っていたが「恩返しさせて下さい」の一点張りで言うことを聞かないのだ。 実直な性格が故だろうと今では半ば諦めている。 「さて、儂は少し出かけてくる。だが、ちゃんと知識を蓄えるのじゃぞ。」 テオは身支度をしながら言う。 「はーい。で、お爺ちゃん・・・じゃなく、師匠何処に行くんですか?」 ファルは一瞬指摘されたことに気付き、一度口を手で押さえる仕草をして言う。 「うむ、城にな。」 テオは短く答えた。 「なんだ、兄さんに会いに行くのか。」 ファルは既に興味なくしたかのように言う。 師匠はいつも会っているのに、自分はあまり会わしてくれないからと思っているからだ。 「それもあるが、本当の用は違う。」 「じゃ、何?」 テオの言葉に興味を再び蘇らせ、ファルは迫る。 「お前には関係ない。しっかり勉強して、食事の用意をしておくように。」 テオは背を向けながら素っ気なく言う。 不満を覚えたファルだが、ここで文句の一つを言ったら杖の一撃が飛ぶに違いないと確信し、何も言わないことにした。 「はい、分かりした。」 そう素直に言い、ファルはテオの背中に手を振る仕草をして見送った。 ドアが閉じ、師がいなくなったことを確信する。 「さて、邪魔者もいなくなったし、一眠りしますか。」 再び少女は心にそう決めると、魔道書を枕に眠りにつくのであった。 テオはシルフィード城前の兵士詰め所に居た。 事情を説明し、謁見許可されていることをいい、証明書を提示する。 無論、宮廷魔術師サステスの師テオを知らぬ者はシルフィードには存在しないが、特定の人物のみ無差別に許可とはいかない。 いつ王家の転覆を狙う輩が出てくるか分からないのだ。細心の注意をする事に越したことはない。 謁見許可有りと分かると兵士は関門を命じた。 「さあ、テオ殿参りましょう。」 城門担当の警備隊長がテオと共に同行する。 気さくな感じがする中年の騎士で、よく城に参上するテオとは既に顔見知りだった。 「いやー、いい天気ですな。こんな時は仕事を忘れのんびり昼寝でもしたいものですな。」 騎士は笑いながら言った。 「まったです、うちの弟子も昼寝しているのではないでしょうかね?」 テオが冗談交じりで騎士に返答する。 「ファルちゃんのことですか?良い魔道士になりそうな良い子ですね、今年で十八歳ですかね。」 騎士は懐かしそうに言う。ここ五年はあってないだろう。 「そうですね、しかしまだ魔道士としては未熟。修行盛りな時期ですよ。」 苦笑いしつつ、テオは答える。 「いやしかし、テオ殿が育てた魔道士。必ずや良い魔道士になるでしょう。」 「将来はやはり召喚士ですか?」 騎士はテオの横顔を見つつ言う。 「まあ、生まれが召喚士の村が故、そのつもりです。資質も充分だと思うんですが、自身の自覚が無くて参っております。」 「ハハハ・・・。その内分かりますよ。」 豪快に騎士は笑いつつ、テオに返答した。 騎士と話しているうちに、すでに謁見の間近くの控え室に着いていた。 相変わらずこの騎士と話していると時間が経つのを早く感じる。 「では、テオ殿。自分は任務に戻るので。」 敬礼しつつ騎士は言い、そして足早に自分の持ち場へと去っていった。 「さて、しばらく待つとするか・・・。」 テオは騎士の後ろ姿を見送りつつゆっくりと腰を下ろして、一息ついた。 (王は一体何用で儂を・・・。先日行われた国際会議に関することであろうか?相談なら、我が弟子に聞けば良いと思うのだが・・。) 思い耽っているうち、テオに呼び出しがかかる。 テオは立ち上がり、謁見の間を目指した。 そして、謁見の間前までたどり着くと、両端にいる近衛騎士が両の扉をゆっくりと開いた。 謁見の間にはそうそうたる顔ぶれが並んでいた。 竜騎士部隊長。 近衛騎士部隊長。 黒魔道士総括導師。 白魔道士総括神官。 宮廷魔術師サステス。 そして、謁見の間の中心に城主スタイシス=シルフィードが居た。 テオは王の十歩手前辺りで立ち止まりその場で畏まる。 「偉大なる魔道士テオよ、面を上げよ。」 王は威厳を放つ声で、テオに顔を上げるように促す。 テオはその言葉に従い、顔を上げる。 「久しいな、三年ぶりだろうか?お主をこの城の宮廷魔術師として迎え入れなかったことは今でも残念に思う。」 「いえ、もったいなきお言葉でございます。」 テオはゆっくりとした口調で言う。 「して、私のような者に一体、どのようなご用件でしょうか?」 テオは呼び出された理由について、王に説明を促す。 「うむ、実はな・・・。」 王がそこまで言うと、目配せをして竜騎士部隊長以外を退出させる。 謁見の間に残ったのは、竜騎士部隊長、シルフィード王、テオのみだ。 皆が退出したのを王が見届けると、再び口を開く。 「とりあえずテオに紹介する。我が竜騎士部隊長を務めるディール=ハイウィンドだ。」 王に紹介されると、騎士は深々と頭を下げた。 「お初にお目にかかります。魔道士のテオです。」 テオも軽く頭を下げる。 「それでは、本題に入ろう。」 王はそう言った途端険しい表情をし、話し始める。 「知っていると思うが、先日国際会議が執り行われた。」 「存じております。ただ、いつも年一度開く国際会議が今年は二度開催した事に不審を感じておりましたが。」 テオを素直に答える。 「うむ、緊急な事態が起きた。クリスタルが何も答えなくなったのだ、ここ三ヶ月な・・・・。」 王は眉間に皺を寄せ言う。 「なんと!クリスタルが沈黙!!王よ、まったくクリスタルの声が聞こえなくなったのですか?」 あまりにもの事実にテオは動揺し、王に強く進言する。 「王に対して失言だぞ。」 ディールは静かにテオの行為に、注意を促した。 「これは、失礼申し上げました。」 再び我に返ったテオはすぐさま畏まって、謝罪する。 「よい、事は急するが故、不問とする。」 王はそう言い、再び話し始めた。 「だが、この二、三日で再びクリスタルの声が聞けるようになった。」 テオはその言葉を聞き、安堵する。 クリスタルの消失は、世界の消失を示しているためだった。 万物を創造、もしくは象徴であるクリスタルを失うことは、大地を腐らせ、水を汚染し、風は止み、凍えるような寒さが支配する世界となる。 即ち命が存続できない地獄の世界と化すことを意味するのだ。 「安堵するのはまだ早いテオよ、再び声が聞けるようになったクリスタルが話した事実は、この世界を失う事実に等しいものだ。」 王はそこまで言うと苦悩するがごとく、頭をうつむかせ、両の掌に自らの額を埋めた。 「エヌオーが復活するそうだ・・・。」 やっとの思いで、一言王は言った。 王の言葉にテオは冷たいものが走るのを感じた。 隣の竜騎士も、額に汗を流し事の重大さを感じた。 「そんなはずは・・。あの闇の神は神話の時代、創造神シャティオの力により、無の世界に封印されたはず。 ましてや、クリスタルの存在する現在、その封印が解かれるはずがないのでは。」 テオは懸命に事実を否定しようと弁論する。 「いや、復活は間近だそうだ。一時期のクリスタルの沈黙はその事実の確信を得るためのクリスタル同士の会合を行うため。 そして事実を確信したクリスタルは再び元に戻り、我々に知らせてくれたのだ。」 淡々と王は言う。 「そして、同時にエヌオーに対する力の在処を示してくれた。」 「その力とは?」 テオが聞く。 「十二の光の戦士と十二の武器。」 「光の戦士と武器ですか・・。」 テオは王の言葉を繰り返しながら言い呟く。 「では、その在処とは何処なんでしょうか?」 再びテオは王に質問を投げかける。 「光の戦士はクリスタルが全て教えてくれた。故にそなたらをここに止まらせておるのだ。」 テオはしばらく王の言葉を理解できなかった。しかし、すぐさま言葉の意を改めて理解し、狼狽した。 「もしや、私とディール殿のことでしょうか?ディール殿にはその資格充分とお見受けしますが、私などはとても光の戦士の器ではありませぬ。」 テオは自分にそんな勇者の素質があるはずがないと、強く進言した。 「テオ殿には残念だが、これはクリスタルの意向。クリスタルの答えに偽りなどはない。」 王の言葉にテオは言葉を紡ぐしかなかった。 自分より至高の存在とされる王、そして王を跪かせるのが神の力を持つクリスタル。その決定には絶対的なものを感じずにいられなかったのだ。 「分かり申しました。ですが期待に添える働きをお見せできぬと私は思います。」 テオは静かに王に言った。 「私も、そのような勇者の力を持っているなど自分自身疑っておりますが、王の言葉ならばこの命つきようとも期待に応えるよう誓います。」 ディールが畏まりながら言った。 「すまぬな・・。王が護るべき民を戦いに投じさせ、自らは城に籠もるなぞ、口惜しいぞ・・・。」 唇を強く噛みつつ王は言った。 「しかし、十二戦士とすると各王国に三人ずつが相当ではないでしょうか。もしくは法則もなく風の守護された光の戦士は二人だけということでしょうか。」 テオがもっともな質問をする。 すると王は言葉を濁らせながらテオの顔をじっと見つめる。 「はて、私の顔に何か?」 「まさか!」 テオは王の行動に一瞬疑問を感じたが、すぐさま意味を感じて慌てた言動で言った。 「そのまさかだ。お主の二番弟子ファルが三人目の光の戦士だ。」 王の言葉にまたテオは衝撃を受けることとなった。 「ファルはまだ魔道士として未熟。召喚魔法なぞ『タイタン』止まりであり、戦いに身を投じるにはまだ早いです!」 テオは再び強く進言するが、王は首を横に振るだけで何も答えなかった。 「こういっては酷だが、どうか受け入れてくれ。」 王はテオの肩に手をやり、悲しむ表情で言った。 「そして悪いが二人ともこっちに来てくれ。」 悲観するテオと、あまり表情を崩さない竜騎士が王の先導のもと、ある部屋につれていかれた。 そこは天井・壁全てがクリスタルで出来た部屋だった。 「こ、この部屋はまさか・・・。」 テオより先にディールが狼狽しながら王に聞く。 「うむ、『クリスタルルーム』だ。」 「『クリスタルルーム』!ここは王家の者以外立入禁止なのでは?」 テオが部屋内に満ちあふれるマナの奔流に身震いしつつ言った。 「いかにも。しかし、もうすでにお前達は王家の者よりクリスタルに近き存在。クリスタルルームに来てなんの障害があろう。」 王は歩きつつ、言った。 そして、一際大きな扉にさしかかると王は短くルーンを唱え、扉の封印を解いた。 扉が開け放たれ、全貌を映し出す。 そこには光り輝くクリスタルがあった。 人の三倍はあろうクリスタルはまさに、神の魂の器だと改めて実感させられた。 光り輝くクリスタルは圧倒的は威圧感を感じさせ、また同時に神聖さを感じさせた。 呆気にとられつつも、王に先導され二人はクリスタルの前まで歩む。 (よく来てくれました、光の戦士よ・・・。) そして突然、二人の頭の中に言葉が投げかけられる。 「これは・・・。」 ディールが躊躇しつつ、王に聞く。 「クリスタルの意志だ。これによりクリスタルと意志の疎通が出来るのだ。」 (・・・王よ、もう一人の戦士は何処にいるのでしょう?) クリスタルが質問する。 「はい。まだ幼き娘がために、この師を代表としてお呼びいたしました。」 王が普通の会話をするがごとくクリスタルに答える。 (王には申し訳ありませんが、その少女もここに連れてきて下さい。この武器は持ち主を選ぶが故に・・・) クリスタルの言葉にすぐ王は行動し、ファルに迎えの使者を出した。 一時してファルがクリスタルルームに現れた。 「ううん。お爺ちゃん何の用?」 寝ぼけ眼をしながら、ファルは聞く。 「馬鹿モン!!こんな時に寝ぼけるでない!しっかりせんか!!」 まだ、夢の世界を漂っている間抜けな弟子にテオは渇を入れる。 「へっ、ここは何処?」 正気を取り戻したファルが遅くながら周りの異質さを感じ取り言った。 その様をみてテオは頭を抱える。 そして、順に弟子に事の流れを説明した。 「・・・・ということは私、勇者なの?」 ファルの観点違いの発言にまた、テオは頭を抱え「自惚れるでない。」と一言呟いた。 「よろしいかな?」 王が二人のやりとりに苦笑いを浮かべつつ言う。 王の言葉にテオはすぐに無礼を謝罪し、跪く。 「よいよい、さてクリスタルよ・・・。」 王はクリスタルに事を進めるよう促した。 (では、光の戦士よ私に触れて下さい・・。) 三人はクリスタルの言うとおり、近づきクリスタルに触れた。 そして、三人の手は見る見るうちにクリスタルに吸い込まれていった。 「何よこれ!」 明らかに動揺を隠せないファルが悲鳴に似た声を上げる。 「落ち着け、馬鹿弟子!」 テオは先程からのファルの行動に腹を立てていたため、声荒げに言う。 「馬鹿弟子・・・。」 ファルは師の暴言を復唱し、不満の表情を浮かべた。 「ムッ、これは・・。」 その時、ディールはクリスタルの中に何かを感じたようだった。 テオもまたすぐさま手に何かの物体をつかみ取る感触を覚えた。 同じくファルも。 (それこそがあなた方の武器です、受け取りなさい。) クリスタルは三人に手を引くようにと言った。 指示に従い、三人はその物体をつかんだままクリスタルから手を抜く。 三人の手にはそれぞれ武器を握っていた。 竜騎士ディールの手には、白銀に輝く竜騎士の槍。 黒魔道士テオの手には、ルーンがびっしりと刻まれたミスリル製のロッド。 召喚士ファルの手には、炎に包まれた鞭があった。 (槍は『ホーリーランス』聖なる打撃と同時に聖魔法「ホーリー」が発動する最強の槍です。 ロッドは『ウィザードロッド』全ての魔法を倍加させる能力を持っています、また魔力の消費も軽減させる力も持っています。 鞭は『ファイアビュート』炎を付加した攻撃に破壊魔法「フレア」を同時発動させる魔法の鞭です。) 「そのような巨大な力を持つのか、この槍は。」 「魔術師にとってこれほど頼りがいある物はない。」 「黒魔法最強の「フレア」を自在に使えるんだ!もう既にお爺ちゃんより強いかも!!」 ディール、テオ、ファルがそれぞれ武器を携え感想を述べた。 (その力を持っても、おそらく困難な試練となりましょう・・・。エヌオーの力はあまりにも強大。完全復活の前に消し去る事が出来ればいいのですが。) 「しかし、エヌオーはまだ復活していないのでしょう?復活を阻止するのが道理ではないでしょうか。」 ディールがもっともな意見を述べる。 (ええ、その通りです。ですが我々はエヌオー復活の兆しを感知したまでで、 エヌオーの復活条件、そして何処にいるかも掴めていません。故に復活阻止は不可能なのです。) 「要するに復活を待つしかない。だから、完全体になる前に倒すしか他に最善な方法はないと言いたいわけじゃな。」 クリスタルの言うことにテオは納得する。 (不甲斐ないとしか言いようがないですが、それしかありません。ですが、すでにエヌオーはこの世界に既に何かしらの関与を持っていると思います。) 「なんで、そう言えるの?」 ファルが真顔で聞く。 (先日我々はしばらくの間、意識をクリスタルの外に出て会合を開いたのをご存じですよね? 実はその会合を開いた理由として、『時空間の揺らぎ』『無の波動』を四つのクリスタル全てが感じ取ったからなのです。) 「成る程、しかしそれだけではあやふやな確信で、確実性は薄いのではなかろうか?」 クリスタルの会合理由から、テオは一つの疑問点を指摘した。 (それが故、しばらくの間沈黙したのです。事実の確信を得るために・・・。) (そして、ある場所で確信を我々は得ました。太古の昔に封印した『時空魔法』の封印が解けていたのです。) 「時空・・・魔法。」 初めて聞く系統の魔法で王は首を傾げる。 (ロンカ文明が栄えた時代に存在した魔法です。科学文明に長けたロンカに対して、魔法都市『セルリナ』が開発した魔法です。 時空に穴をあけメテオを召喚したり、他次元に敵を葬り去ったり、時間を遅くしたり、速めたり、止めたり・・・。) 「そのような魔法が存在したとは・・・。」 テオが新たな魔法に胸躍らせながら聞き入った。 (ですが、あまりにも無に深く関与する魔法のため、我々クリスタルは『パンデモニウム』という地下神殿に封印しました。) 「そっか、無に関与する魔法だから封印されたエヌオーが何かの拍子で復活する恐れがあったからだね。」 ファルがクリスタルの封印の意味をすぐさま読みとった。 「しかし、クリスタルの封印なぞ人間には到底解除できるはずがない! ましてや封印を破れる可能性のエヌオーは無の世界に意識を封印されているのだ・・・万に一つに可能性はないはずでは?」 王がクリスタルの事実を受け入れてたくないかのように反論した。 (しかし、封印は解けていました。おそらく何者かが封印を解き、時空魔法を使って無に接触した・・・。 そして何かの拍子にエヌオーは復活の機会を手に入れたとしか思えません。) 「時空魔法の復活と同時にエヌオー復活か・・。」 ディールが呟く。 「人間により、この世を無に帰す機会を与えてしまうとはな。人間をは罪深い生き物じゃ。」 うなだれながらテオは言う。 「とりあえず、無の力が発動したときしか動けないのだ。今は待つしかない。」 ディールは何もできないもどかしさに苛立ちを覚えつつ、そう言った。 「でも、他の光の戦士と合流した方がいいんじゃない?いざというときにみんなと戦えなきゃ意味ないし。」 「確かにな。」 テオはファルの意見に賛同する。 「うむ、その方が良かろう。クリスタルを通して合流地点を決めればよい。」 王はそう提案した。 (了解しました。では火のクリスタルのあるフレイア王国に向かって下さい、そこに光の戦士を集めますので。) 「有り難う、クリスタルさん!」 ファルははつらつとした声で感謝の言葉を述べる。 「では、出発する準備を整えるか。」 テオはそう言い、クリスタルルームを出た。 その後ろに弟子のファルを連れて。 暗黒は既に世界を覆い、徐々に無が復活しようとしていた。 また、後に始まる悲しき破滅と苦しみの日々を予見するのは誰もできなかった。 万物を象徴するクリスタルさえも・・・・。 作者コメント: え〜と、英雄王以上のものを書かないと言いつつ、出しちゃいましたね(汗) 謹んで、FINAL FANTSYX−十二の光−をお送りします 今回は長かったホント(涙)、英雄王の二倍です!八章構成でエピローグまで入っています!!製作期間は一ヶ月以上かかりましたね〜。構成なんかそれ以前だし・・・ どうか、ゆっくりと千年前のエヌオーとの戦いをご覧下さいませ |