FINAL FANTASY\英雄王外伝−焔の拳−【後編】


FINAL FANTASY\英雄王外伝−焔の拳−【後編】


『あの旅で何も得るものはなかった。』
サラマンダーの言葉からして、そう言っているようなものだった。
その言葉にジタンは大きな驚きと同時に深い悲しみを感じたのだ。そのために真 
の強さの意味を知らしめるべく申し込みを認めたのだ。
ただ、ここで剣を交わらせるわけにはいかなく、昼間ベアトリクスと稽古した兵 
士訓練所に場所を変えることにした。
サラマンダーにしてみれば、何処で戦うのも同じためにジタンの言葉に黙って従 
う。
そして、二人はその訓練所の円陣の中にたたずんでいた。
訓練所の壁に設置してある無数の松明掛けに炎がともされ、闇と二人を照らし、 
木の焼ける臭いが鼻をついた。
「覚悟はいいな?あの時と同じで俺はお前を殺す気で行く。」
サラマンダーはそう言い、腕に『ルーンの爪』と呼ばれるルーン文字が刀身に細 
かく刻みこまれた鉤爪状の武器を装着した。格闘技用武器ではこの世最強と称さ 
れる武器である。
対してジタンは昼の稽古でも使用した最強の剣『ライトブリンガー』。
どちらにしても人間の肉体を紙のように裂くことなぞ、容易い武器である。
致命傷という言葉は存在しない。命中すれば一撃の名の下葬られるのだから。
「俺は覚悟を決めなければならないが、お前はいい。」
ジタンはやや理解困難な言葉を口にした。
だが、サラマンダーはその言葉をすぐさま理解し、ジタンに苦笑を混じえつつ言 
葉を返す。
「フッ、まさかまた『殺さない』と言うんじゃ無いだろうな?」
「その『まさか』さ。」
ジタンも苦笑しながらサラマンダーに返答する。
「馬鹿な奴だ。強さを極限までに引き上げた俺に剣を平に返して戦うというのか 
?」
戦闘態勢を整えつつ、サラマンダーはそれこそ愚かな行為だと言わんばかりに言 
う。
「いや、剣は平にしない。このままで戦う。」
「だとすると、手加減して戦って負けを認めさせるつもりか?なら止せ、死ぬま 
で戦うぜ?」
「それに手加減して戦える相手ではなくなったとも忠告してやる。」
嘲笑を口元に浮かべながら、ジタンのしようとすることに警告を意味する言葉を 
告げた。
「とりあえず忠告有り難く頂戴しとくぜ。だが、手加減するつもりもない。」
「だけど、お前は負けを認めざる終えないようにしてみせるさ。」
自信充分にジタンはそう言い放つと、クリスタル製の刀身を鞘から一気に抜き放 
った。
篝火によってその美しい刀身が照らされる。
「なら、どうするつもりだ?」
全ての言葉を否定されたサラマンダーはジタンの言葉に些細ながら、疑問を抱く 。
「それは戦いながら考える!」
ジタンはサラマンダーへの返答の言葉を合図としてサラマンダーへ一気に詰め寄 
った。
やっていることは、ほぼ不意打ちに近い。
しかし、いきなりの突撃にも動揺をせず、サラマンダーは正面からジタンを迎え 
撃つ体制に入った。
「だまし討ちがその考えとやらか?」
体勢を整えつつサラマンダーは飛び込むジタンに皮肉の言葉を投げかける。
そして、その言葉が終わるか否かジタンの剣がサラマンダーへと振り落とされた 
。言葉に偽りはなく鋭い刃はサラマンダーに対して煌めいていた。
剣の勢いも手加減しているようではないとサラマンダーは感じとり、また同時に 
闘志が沸き上がるのを実感した。この感覚こそが自分の存在を実感できる唯一の 
手段なのだ。
ジタンの剣は自分の体に到達する前に、サラマンダーは爪で素早く庇った。
お互いの武器が重なった瞬間、甲高い金属音が闘技場一帯に響き渡り、金属同士 
のぶつかりで火花が散る。
「だまし討ちがアンタに通用するとは思ってはいないぜ。」
剣の柄に力を込めつつジタンは口元に笑みをこぼす。
だが、次の瞬間ジタンの顔から余裕の笑みは消え去り、歯を食いしばり始めた。
腕力の差があるがために、徐々に押され始めているのだ。自らの剣が眼前までに 
押されててゆく。
「腕力の差は歴然だな。」
力を武器に込めながら、サラマンダーは自信に満ちた言葉を放つ。
「・・・そのようだ。」
ジタンはこの言葉を口に出した瞬間、素早く剣を払いサラマンダーとの間合いを 
広げた。
力比べで差を感じたならば、このままサラマンダーと密着しているのは不利のた 
めに。
普通ならばこの力比べに敗退した者が間合いをあけることは誰でも察すことが出 
来るため、力比べに勝った者は間髪を入れず間合いを狭め、相手に追撃を放つの 
だが、サラマンダーはそのジタンの行動をゆっくりと見やると、追撃に走ること 
もなく、ただその場で含み笑いをした。
「フッ、八年前と同じだ・・・。」
八年前のあの時もそうだった。盗賊時代のジタンと自分が決闘したときも、力比 
べになり、ジタンは堪らず間合いをあけたのだった。
「ああ、そうだな。なら八年前の決闘と同じく今度も敗退を認めさせるぜ。」
剣を正眼に構えながらジタンは言う。今は昔の思い出に浸る余裕はない。
「あの時は二振りのダガーの内、一本を牽制として投げ放ち、それに気取られた 
瞬間、俺の喉元にもう一本のダガーを突きつけ、敗北を認めさせたが・・。」
「今度は喉元に剣を突きつけられようと、爪を振るうぞ・・・。お前の首を狙っ 
てな・・。」
殺気を帯びた口調でサラマンダーは言い放った。
語感からして、嘘偽りではないとジタンは感じる。間違いなく言ったとおりにす 
るつもりであろう。改めて自分のしようとすることが失することがあれば命はな 
いと戒める。
「俺は死ぬ気もないし、負ける気もしない。ましてやアンタも殺す気も一切無い 
!」
ジタンは毅然とそう言い放ち、再び剣を構えつつ、サラマンダーに突撃した。
得意の突きを筆頭に、猛攻をサラマンダーに浴びせる。
手加減無しに振るわれる英雄王の剣はどれも鋭く、素早く、重いものだった。
だが、サラマンダーはその猛攻を全てしのぎ、更に反撃もジタンに与えていた。 
そのために、攻撃力はまさに同等と言えるとジタンは剣を振るいつつ感じ取る
また、この勝負は短時間に決するべきだとジタンは同時に悟った。何故なら、間 
違いなく体力は相手が上回っていることを知っているがためにだ。
体力を失ってしまえば、剣の鋭さは間違いなく衰える。
そして、剣の鋭さが衰えることを意味するのは−敗北、即ち死だ。
いわば、同等の力を持った者同士の戦いはまさに、体力の差で決すると言っても 
過言ではない。無限に体力を持つ者なぞ、この世には存在しないのだから。
ただ、戦術でもし相手より上回るのなら、これらは当てはまらない。
例えば、地形の利などを知る者は、体力に多少の差をあったとしても有利に戦い 
を運ぶことが出来、それ程消耗せずに敵を討ち取ることも可能なのだ。
更にもう一つ。サラマンダーが理解できないもう一つの要因が、同等の力を持つ 
者同士の決着をつける大きな要因となる。
意外と理解していそうで、実は見落とし気味なこの要素が、だ。
しばらく、武器同士のぶつかり合いが続いていたが、不意にサラマンダーが間合 
いを離しだした。猛攻で体力を失いかけたジタンにとっては願ってもない行動だ 。
しかし、その安堵感と共にジタンは不信感を募らせた。
サラマンダー自身はまだ体力に余裕があるはずなのだが、何故か間合いを広げた 
ことにだ。自分が体力を失いかけているのはサラマンダーも知っているはずだ。
そのまま攻撃の手を緩めなければ勝利を掴めるかも知れないのに、あえて攻撃の 
手を止める理由が分からない。
「・・・そろそろ終わりにしてやる。長き鍛錬の末に修得した技でな・・。」
理解不能な行動を取ったサラマンダーを警戒していたジタンに、赤髪の戦士はゆ 
っくりとした口調で言う。
「新しい技だって?へぇ、是非拝見したいものだぜ。」
肩で息をしながら、ジタンは憎まれ口を叩く。勿論、警戒は怠ってはいない。
「言われなくても見せてやる。」
「万物の根元・・、万能なるマナ・・・。」
サラマンダーはジタンの挑発的な言葉を素っ気ない言葉で返し、信じがたい行動 
をし始める。
ジタンも思わず耳を疑った。サラマンダーがルーンを詠唱しているのだ。
「・・・我が武器に宿れ!炎の魔法『ファイガ』!!」
ジタンが呆気にとられている内にルーンの詠唱を終え、更に次の瞬間、サラマン 
ダーの右腕の武器が灼熱の火炎で包まれた。
「『魔法剣』・・・か?」
惚けつつジタンはやっとそう一言言葉を振り絞った。
「そんな所だ。ただ、この場合魔法『剣』ではなく、『拳』かもしれんがな。」
不敵な笑みを口元に浮かべながら、サラマンダーは冗談とも取れる言葉をもらす 。
「魔法は使えるようになったのか?」
率直にジタンはサラマンダーに問う。
「依然魔法は行使できん。が、『グラビデ拳』の延長線だと思えば修得できると 
確信できたからな。案の定というわけだ。」
「それにこの『ルーンの爪』の助力もある。」
サラマンダーはそう言うと燃え盛る爪をジタンに向けて差し出す。
ジタンはその差し出された武器を良く見やると、刀身に刻まれたルーン文字が淡 
く輝いていることに気付いた。
どうやら、『ルーンの爪』には魔術師の持つ『ロッド』や『杖』等と同じような 
魔術補助の効力も兼ね備えているようだ。だから、不完全とはいえサラマンダー 
のような戦士でも魔法を行使できるようになれる。
「説明は以上だ。体力をこれ以上回復させるわけにはいかないからな・・・。」
ジタンの状態を把握しているサラマンダーは差し出した爪を引き、戦闘態勢に入 
る。
そして、今度はサラマンダーから攻めだした。
一気に間合いを詰め、掲げた焔の拳をそのままジタンの胴を薙ぎ払うかのように 
大きく真横に振るった。
間髪ジタンは身をこなすことによってその攻撃をかわす。
真っ赤な弧の軌跡がジタンの寸前をかすめてゆき、炎から発せられる熱風が前髪 
を焦がした。
当然、それでサラマンダーの攻撃の手が緩まるはずはない。その攻撃を始まりと 
して様々な攻撃がジタンを襲った。
この焔の拳を受け止めるわけにはいかず、剣で攻撃の軌道を変えたり、先程のよ 
うに身をこなすことによってかわすしかジタンには術が残されていなかった。
焔の拳を受け止めてしまえば、あの最上級の火炎魔法『ファイガ』の熱気を間近 
に喰らい続けることになるのだ。
実際、一度だがサラマンダーの攻撃を受け止め、最初の力比べのような状態にな 
ってしまって、爪の炎により身を焦がした。
そのため、以降はかわし続けたが、やはり全てかわすことは難と理解し、反撃に 
転じることをジタンは狙うことにする。
サラマンダーの攻撃の瞬間を見きり、攻撃した後の僅かな隙を狙った一撃をジタ 
ンは浴びせる。
しかし、それが仇となった。
反撃してくる瞬間を待っていたかのようにサラマンダーはジタンの剣を満身の力 
を込めた左の拳を平の部分にぶつけて軌道を変える。勿論、それで剣が自分の身 
に到達することを防げるわけはなく、軌道のずれた剣はサラマンダーの肩を貫い た。
だが、その自己犠牲は決して無駄ではない。
ジタンの剣がサラマンダーの肩を貫いたため、完全にジタン自身は無防備状態を 
晒すこととなる。
「しまった!!」
ジタンから、己の失態を認めた発言が出る。
その言葉で勝利を確信したサラマンダーは躊躇無く、かつての仲間の首を狙って 
斬撃を下した。
サラマンダーの肩を貫いた剣を抜き、この攻撃を受け止める時間なぞ、すでにジ 
タンにはない。
振り落とされた焔の拳は、ジタンの首を撥ね、焼き尽くす−はずだった。
だが、ジタンの首は繋がったままとなる。
何故なら、眼前に振り落とされたのが焔の拳ではなく、ただの拳だったのだ。
サラマンダーの装着していた武器は持ち主を離れ、勢いよく後方に飛んでいった 
。また、術者の腕から離れた瞬間に、炎は霞の如く消え失せる。
遂には、大地にその身を深々と突き刺した格好となった。
「・・・なんちゃって。」
態とらしい恐慌に駆られた振りをしていたジタンが舌を出し戯ける表情を見せる 。
「なん・・だと?」
考えもしなかった結末に動揺の色を隠せないサラマンダーが己の拳を見ながら呻 
くように言う。
「これが、俺流の戦いさ。流石にあそこにある武器を取りに行ってまで戦うわけ 
ないだろ?」
笑みをこぼしながら、戦いはこれまでと若き王は剣を鞘に収める。
「伊達に盗賊時代を過ごしたわけじゃないぜ?」
笑みを絶やさずに少しずつ、答えを導くかのようにジタンは言葉を紡いでゆく。
「まさか?戦っている最中に!!」
やっとジタンの言葉の意味に理解したサラマンダーが驚愕の表情で言った。
「そう、一度アンタの炎の爪を受け止めたときに、武器の留め具を外させてもら 
ったぜ。」
「そして、勢いよく振りかぶって下ろした瞬間すっぽ抜ける・・・て仕組みにね 
。」
悪戯を成し遂げた子供のような笑みをサラマンダーに向けながらジタンは言う。
「・・・・してやられた・・というわけか・・。」
苦笑を漏らしながらサラマンダーは言った。その言葉からして完全に負けを認め 
たと言って良い。
「だけど、おかげさまで腕が完全に焼けてしまったぜ?魔法拳なんて技を修得し 
ていると思わなかったからな〜。」
灼熱の炎に入れた手を見せながら、火傷の痛みで引きつる表情をジタンは浮かべ 
る。
しかし、冗談のような口調だが、体の他の箇所より炎に焼かれた腕は皮膚が焼き 
爛れ、指も動かせる状態でないほどの重傷であった。速急な治療を要する状態だ 。
「自業自得だ。」
素っ気なく、笑みを口元に浮かべながらサラマンダーは言い放つ。
そう言っているサラマンダーもジタンの剣に貫かれた肩の傷も軽傷とは言い難い 
。肩の筋肉はおろか、肩の骨も容易く切断されている。ジタンと同じくすぐさま 
回復魔法の治療を要する状態だった。
「だが、俺の負けだ。今後一切殺し合いに来ることもないから安心しろ。」
サラマンダーは肩の傷を押さえつつ、くぐもった口調で言う。
「ああ、安心したぜ。だが、回復したほうがいい。ガーネットやエーコもここに 
いるから、治療して貰おう。」
ジタンは自分の状態を省みず、サラマンダーの容体に気遣い回復を進める。
「エーコがいるのか?いやいい。あの五月蠅いガキに会えば回復できる傷も回復 
できないからな。手持ちのポーションで癒す。」
いかにも嫌気がさすような表情をしながら、サラマンダーはジタンの提案を断る 。
ジタンも、治療を無理に進めても無駄だと分かっているがため、サラマンダーの 
言葉を黙認し、ただ苦笑を漏らすだけに止めることにした。
そして最後にサラマンダーは「あばよ。」と一言ジタンに言い、その場から立ち 
去ろうと訓練所の出口に足を向け、歩き出す。
「ああ、またな。」
サラマンダーの背を見つめながら、ジタンはそう返答した。
焔の拳を持つ赤髪の男。再び相見舞えるときは戦いの意味を理解している者にな 
っていて欲しいと心の奥底で願いつつ・・・。

ジタンとの戦いに敗退を喫したサラマンダーは城下にある酒場にその身を寄せて 
いた。
既に肩の傷はポーション等の魔法薬で癒し、完治させている。
サラマンダーはカウンターに腰掛け、常人ならむせ返るようなきつい蒸留酒を口 
にしていた。
酔って一時的でも敗退の屈辱を頭の中から消し去りたいのだが、サラマンダーに 
それは叶わぬ事であった。
何故ならば、サラマンダーが今まで酒を飲んで潰れたことは一度もなく、またい 
くらきつい酒を口にしても酔うと感覚を感じることがないためにだ。
(結局・・・・俺と奴の強さの差を広げている要因とは何だったんだ?)
(あの戦いに意味はあったのか?)
(だが、全ては奴の言う通りとなった・・・『生かして敗退を認めさせる』か。 )
(フッ・・・分からんな。)
最後にそう自嘲すると、酒杯になみなみと注がれた酒を一気に煽る。
その時、不意に背後からサラマンダーに声がかかった。だが、振り返るのも面倒 
なため、そのまま声の主を無視し、眼前に現れるのをサラマンダーは待つことに 
した。
大した用事でなければ腹を立てて立ち去るだろうし、何か重大な用があるのなら 
目の前に現れるであろう。
「ちょっと!無視しないでよ!」
どうやら自分に何か用があるようだ。腹を立てた言葉の主が声荒げに目の前に姿 
を現す。
歳は約十代後半の女。紫がかった長い髪を後ろにまとめ、リボンで結っていた。
言わずと知れた彼女の名はエーコ。勿論、サラマンダーと共に永遠の闇と戦った 
仲間だ。
ただし、サラマンダーの記憶にある仲間のエーコは幼い子供の姿であるが。
当然、サラマンダーの記憶により目の前の人物が誰なのかは察することは出来な 
い。
「アンタ誰だ?」
もっともな言葉がサラマンダーの口から出る。
エーコはその言葉を待ってたかのように心の中でほくそ笑んだ。
実はあの戦いの後、回復を願ってガーネットを起こしたジタンの声に自分も目覚 
め、ジタンに事の運びを全て聞いたのだった。
それで、敗北を喫したサラマンダーをからかってやろうと城下に乗り出したので 
ある。
ジタンからは自分のことは一切説明されていないことも聞いてあるし、服装も普 
通の市民がたしなむような物を纏っている。
ジタン達も自分がエーコであることを聞かされていても信用しなかったぐらいに 
姿を変貌させたのだ。サラマンダーが気付くことは万に一つもないと思っている 。
「えっ、私ですか?エー・・・・ナ。エーナと言います。」
エーコは思わず本名を出しそうな所で何とか紡ぎ、偽名を口にした。
「エーナ?知らないな。人違いじゃないのか?」
既に興味なくしたかのように、サラマンダーはエーコから視線をずらし、酒瓶を 
手にとって酒杯に酒を注いだ。
「人違いじゃありません!サラマンダーさんでしょ、あの赤髪の拳闘士と叙事詩 
に謳われた英雄の。」
自称エーナは慌てて、話を取り繕うと懸命に話題を振り絞り出す。ここでサラマ 
ンダーに無視され、相手にされなければ、今までの苦労が水の泡だ。
エーコの考えとしてはひたすら高い酒を飲ませて、その勘定を全て支払わせてや 
るつもりでいる。そのため、途中で上手く逃げ出すことも計画していた。
その後、自分の正体を明かしてこの計画は終了する。
我ながら完璧な計画だとエーコは心の中で自画自賛していた。
「フン、あのくだらん詩のか。残念だが俺は英雄という銘を語れる器じゃない。 
分かったら失せるんだな。」
エーコに見向きもせずサラマンダーは答えると、酒杯に注がれた酒を再び一気に 
飲み干す。
「嫌です。」
きっぱりと自称エーナは歯切れ良く言った。
「何だと?」
思いもよらぬ答えが返ってきたことで、やや眉をひそめサラマンダーは酒からエ 
ーコに視線を移した。
サラマンダーはいくら英雄と称されるとはいえ、誰も近寄りがたい雰囲気を醸し 
出しているゆえに、言葉を掛ける者なぞ存在しないに等しい。
しかし、目の前のか弱き女は平然と声を掛け、更に自身の言葉さえ曇り無く否定 
したのだ。
尋常な精神状態ではないのか、酔っぱらっているだけなのか疑わしいと思ったが 
、目の前の女の瞳には狂気が伺えず、正気だと感じた。
「血生臭い話しかできないぞ。」
しばらくの沈黙の後、サラマンダーが再び酒を注ぎながら無愛想に言う。
一瞬、持ち前の性格が出てしまい、言葉が滑ってしまったと悔やんでいたエーコ 
だったが、サラマンダーの意外な言葉に、確実なる勝利を掴んだような手応えを 
得た。
(やっぱり、私の美貌にはかの赤髪の戦士も敵わなかったみたいね。)
サラマンダーには嬉しさこの上ない表情を見せているが、心の中では上手く策に 
はまったことにほくそ笑んでいた。
それからしばらく経ってから、エーコは自身のしていることに後悔し始めた。
あまり表情を表に出さないサラマンダーをからかっても面白味に欠けることや、 
何よりも強烈な睡魔と戦ってまでやる意味のある事ではないことに気付いたため だ。
当然、睡眠は殆どとっていない。眠りに就いてからすぐさま、ガーネットと共に 
傷ついたジタンから起こされたために。勿論、その後すぐさま再び眠りに就かな 
かった自分が一番悪いのは重々知っている。
だから、自分自身をサラマンダーの話を聞き入る振りをしつつ恨んでいる。
(・・・なんで、こんなつまんないことを考えたんだろう・・・・私。)
自責の念に囚われながら、眠気を必死に頭の中から追い出そうと気力を振り絞る 
。だが、目の前の男はそんな自分の苦労を知らぬまま、話し続けていた。
最初は話すことに乗る気ではなさそうだったはずなのだが、今や意気揚々と今ま 
での戦いの日々や、面白さを語っていた。
まさしく、血生臭い話ばかりを、だ。
エーコはうんざりしつつも、作り笑いを浮かべながら、話の相づちを打つ。
もうこのような茶番はこれまでと投げ出して、そのまま城のベッドに潜り込んだ 
らどんなに幸せであろうとエーコの頭の中を何度もよぎった。
が、ここまで来てしまったら、もう自分の誇りをかけてでも目の前の憎らしい男 
を策にはめてやろうと意地になっていた。
そして突然、自身の誇りのみを支えに頑張っているエーコにサラマンダーが「手 
洗いに行く」と言い残し、席を外した。
サラマンダーが視界から見えなくなるとすぐさまエーコは魔法を詠唱し始めた。
眠気を消し去るために、治癒魔法エスナを。寝不足で消耗した体力を回復させる 
ために回復魔法ケアルを自身にかける。
自然に来る眠気と、魔法による束縛の眠気とは全く異なる故、効果は期待できな 
いかもしれないが気休め程度になるかもと唱えたのだ。
やはり予想通り、眠気は完全に除去されなかったが、幾分か頭の中が爽快になっ 
たように感じた。最低でも先程の状態よりましだと言える。
しかし、エーコは魔法で身体を癒したもののその場から立ち去ることはしなかっ 
た。
いや、出来なかった。
時間が時間なだけに、不釣り合いの二人に奇異な視線を店主が放っているからだ 。
エーコは既に、サラマンダーへ自分の奢りだと偽って高い酒を飲ませていた。合 
計して約八千ギル相当の酒を飲ませたはずだ。
朝明け近くまで飲んでいる、不釣り合いな男女。そして、庶民が口にすることが 
なかなか出来ない酒を、山ほど注文している。
誰でも、不信感を感ずるはずである。
店主も自分が勘定を払うものだと思っているはずだ。このまま黙って店の外に出 
てしまえば、アレクサンドリア所属の警備兵の世話になるのは間違いない。
サラマンダーが戻ってくるのを待ち、今度は自分が手洗いに行くといって逃げる 
のが得策だと今の状況からでは言えよう。
とりあえず、答えを頭の中で弾き出したエーコは、サラマンダーの帰りをその場 
で待つことにする。
だが、いくら待ってもサラマンダーは一向にして姿を見せない。
常人ならとっくに用を済ませることが出来る時間だ。グラスに入ったワインを立 
て続けに飲んで、一本飲み干せるぐらいの時間は過ぎたと確信できる。
明らかに遅く、嫌な予感がエーコの頭の中を何度もよぎった。
それからしばらくは待ったものの、来る気配がないことを悟ったエーコは、遂に 
痺れを切らして席を立ち、手洗い所まで早足で向かった。
当然、手洗い所は男女別なのだが、躊躇せずにエーコは男性用の手洗い所に入る 
。既に客は自分とサラマンダーだけであり、更に怒りと不信感で胸一杯のため、 
入るのに全く抵抗がなかったのだ。
中に入ったエーコは何度もサラマンダーの名を呼び、応答を求めるが、返事は一 
言も返ってこなかった。
それどころか、人の気配さえ感じないと言える。
よく見れば、手洗い所の奥に位置している木製の窓が開け放ちの状態になってい 
ることに気付く。
(・・・やられたわ。)
的中して欲しくない、予感が見事に的中してしまったことにエーコは心の中で悔 
やんだ。
状況からして、窓から外へ脱したようである。
サラマンダーが赤の他人相手に飲み逃げをするとは意外であり、予想外だった。
だからといっては可笑しいが、自分の計画は失敗に終わったと思う。
やむを得なく、その後エーコは手洗い所を後にして、店の主人に高額な勘定を支 
払い、外に出た。
今はリンドブルム王女ゆえ、この様な酒代もたかが知れているかもしれないが、 
それよりしてやられた屈辱が大きくエーコの中で重くのしかかった。
肩を落としながら店を後にすると、東の空はうっすらと光を帯び始め、夜明けが 
近いことを悟らせていた。密かに小鳥のさえずりさえも聞こえる
「・・・朝か。散々だったな・・・ホントに。」
溜息まじりにエーコは独り言を口からもらす。
「散々は、お前の茶番に付き合わされた俺の方だ。」
不意に背後からエーコの独り言に対し、返答がきた。
突然の事にエーコは跳び上がるような驚きを覚え、すぐさま声のした背後を振り 
返る。
背後にいたのは、散々な目にあったと言う赤髪の戦士。
「サ、サラマンダー!?」
まだ動揺を隠せないエーコが人差し指をサラマンダーに向け、上擦いた声を出す 。
だがすぐさま我に返ったエーコは飲み逃げしたサラマンダーに強く言い寄った。
「フン、かつての戦友を罠にはめようとした者が言える口か?」
戦友?その言葉を聞いたエーコは一瞬、声荒げに不満をこぼしていた口を紡いだ 。
そういえば、先程も動揺していたため気付かなかったが、今のように自分の正体 
を知っているような発言をしていたような気がする。
(もしかして−)
「ばれていたの・・・私の正体。」
上目遣いでサラマンダーを見上げながら、消え去りそうな声でエーコは問う。
「当然だ。それにガキの策略に陥るほど俺は堕ちちゃいないからな。」
素っ気なく、サラマンダーはエーコの問いに答えた。
(なんでバレたんだろ?女好きなジタンさえ、なかなか私のことをエーコだって 
信じてくれなかったのに。)
(ましてや女とは無縁すぎるこんな奴にバレるなんて思ってもなかったわ。)
(それにしてもこんなに美少女になった私に”ガキ”呼ばわりするなんて、相変 
わらずむかつく奴だわ。)
自分の策略が見事にご破算となったエーコは心の中で愚痴をひたすらこぼす。
「・・・・どうした、いきなり黙り込んで・・・。」
突然、沈黙を守り続けだしたエーコを不審だと感じたサラマンダーが声をかける 。
「あ。ううん、なんでもない。」
当然、『心の中でアンタの愚痴をこぼしていたのよ!』とは言うわけにはいかず 
、そう答え作り笑いを浮かべる。
「まあ、いい。だが、これからこんなくだらん事をしないことだ、命が惜しくば 
な。」
サラマンダーはエーコに対し、警告を示すような発言をする。そして話はこれま 
でとばかりに背を向け、その場から立ち去ろうとした。
「ま、待ってよ!悪かったわよ!詫びる印としてアンタの悩みを解決させる手助 
けをしてやるから、許してよぉ!」
普段から冗談をあまり言わない相手のため、あながち冗談とは言えない言葉にエ 
ーコは慌てふためき、許しを請う。
「・・・俺の悩みを解決するだと?」
「今度は冗談ではすまされんぞ、今度も冗談だとしたら・・・。」
エーコの言葉に興味を示したサラマンダーは、鋭い視線を向けながら念を押すよ 
うに言う。
「あくまで『手助け』よ。完全に解決するとは言ってないからね。」
エーコも言葉を再度繰り返し、サラマンダーに確認させる。
「ああ、それでもいい。しかし、何故お前が俺の悩みを知っている?」
エーコの言葉を了承し、更にサラマンダーは質問を投げかけた。
「ジタンからあらかた聞いたわ。でも、旅を一緒にしているときも何となく分か 
っていたけどね。かなりジタンに執着していたし。」
エーコは喉の奥で笑いつつ、答えた。
「成る程な。それで解決の糸口は本当に有るんだな?」
更に念を押す、サラマンダー。
「もう、しつこいわね。一応あるって言っているでしょ!」
「ジタン自身は何が要因だとは分からないと言ったようだけど、そのジタンを鍛 
え上げた人物に聞けば何か分かるとは思わない?」
人差し指を立てながら、謎かけをするかのような口調でエーコは言う。
「鍛え上げた人物?・・・幻獣神にか?」
サラマンダーもジタンが王になるための試練のことは、聞いていた。恐ろしく過 
酷で、初代アレクサンドリア王以外に、その試練に打ち勝った者は存在しないら 
しい。
またジタンはその初代王より、約半分の月日で試練を終えたとも聞いている。
「確かにジタンに剣を教え、あれほどまでに強くできる者ならば、強さの意味を 
知っているかもしれん。」
「だが、どうするのだ?ここであの巨体を晒すのか?そもそもお前にあの高等獣 
を召喚できるのか?」
サラマンダーがエーコに質問の雨を降らす。
「あのね、密かに侮辱しないでくださる?私は幻獣界に行って召喚魔法を極めた 
の、それぐらいわけないわ。」
「・・・それと、今思ったんだけど私の変わり様にアンタ何にも疑問に思わない 
の?」
サラマンダーの最後の言葉に少々腹を立てたエーコは、憤りを含んだ言葉を放ち 
、それと共に思い出した疑問をサラマンダーにぶつけた。
「まあ、分かることさえ出来ればいい。お前の能力なぞ、興味はないからな。」
「それと容姿もだ。」
エーコに対し全く興味がないことを明らかにする言葉をサラマンダーは口にする 。
(本当にむかつくわね。)
一瞬、究極召喚獣で消し去ってやろうかとエーコは思ったが、全ては自分に非が 
あることを認識しているため、思うだけで止まった。
「で、もう一つ答えが返ってきてない質問が有るぞ。『ここで召喚するのか?』 
だ。」
「ここで召喚するわけにはいかないわ。あの幻獣神の姿はあくまで戦い向けの姿 
。本当の核となる姿とは全く異なるわ。」
淡々とエーコはサラマンダーの問いに答える。今の自分の機嫌はすこぶる悪いだ 
ろうと自身でも認識している。
「だから、その姿を見れる場所。すなわちアレクサンドリア城のクリスタルの元 
まで行くわ。」
そこまで言い終えると、エーコはサラマンダーを放ったままアレクサンドリアの 
城に向けて歩き出した。
エーコの機嫌の悪さは最高潮に達していることは言うまでもない。
(・・・やはりガキだな・・・。)
そんなエーコに苦笑をしながら、サラマンダーは心の内で呟いた。

二人は澄みきった輝きを放つアレクサンドリア王国の象徴、『クリスタル』の前 
にたたずんでいた。
当然一般の者がここに立ち入ることは出来ないが、英雄の一人である赤髪の戦士 
、リンドブルムの王女には無条件で通された。
「さっさと始めてくれ。」
腕を組み、毅然とした態度でサラマンダーはエーコを急かす。
「言われなくても分かっているわよ。」
依然、機嫌の悪いエーコは短く答える。そして、ゆっくりと召喚魔法を詠唱し始 
めた。
「偉大なる幻獣神アレクサンダーよ、その厳めしい姿を現し給え。我が召喚に応 
じ給え・・・。」
魔法は完成した。エーコの詠唱が終えると共に目の前の巨大なクリスタルは淡く 
輝き出し、眼前に半透明な存在が現れ始める。
遂には、人間の女性とは寸分も違わない二十歳前後の女性が姿を現した。
長い銀髪を背に流して、髪先をまとめ結っており、腰には長剣を帯びている。
「久しぶりですね、召喚士の娘よ。」
銀髪の娘は微笑みをこぼしながら、エーコに近づいた。
「これが幻獣神アレクサンダーか?」
想像とは全く異なる姿にやや狼狽しつつ、サラマンダーはエーコに聞く。
「ええ、私が幻獣界を統べる裁定神アレクサンダーです、赤髪の戦士サラマンダ 
ーよ。」
エーコの代わりに銀髪の娘が答えた。確かに言葉一つ一つに神聖さを感じ、その 
存在感も神々しく感じる。
だが、どうしてもその脆弱そうな細腕を見ると、ジタンに剣を教えた幻獣神には 
見えなかった。
それこそ、腕の太さは隣にいるエーコと寸分変わらないではなかろうか?
だから本人から名乗られても、やや疑心暗鬼に囚われてしまう。
「申し訳有りません、裁定神アレクサンダー。コイツ、言葉遣いを知らない者で 
・・。」
エーコがサラマンダーの非礼の言葉を代わりに謝罪した。
「良いですよ、召喚士の娘よ。幻獣の間に礼儀なぞ存在しません。それは幻獣界 
に来た貴方も知っているはず・・・。」
笑みを絶やさず、アレクサンダーはエーコ達を咎める意志がないことを伝える。
「それよりも、早く用件を済ませるとしましょうか・・・。確か『ジタンの強さ 
の理由』でしたね?」
「ああ、そうだ。話が分かっていると早いな。」
サラマンダーは毅然とした態度を崩さず、アレクサンダーの問いを肯定する。
「くだらないことで召喚してすみません。」
エーコが畏まりながら、アレクサンダーに謝罪する。本当に心中、くだらないと 
思っているが・・・。
「要は『心の力』が弱いと言うこと。もっと簡略すれば『戦う意味』が薄いとい 
うことでしょうね。」
ゆっくりとした口調でアレクサンダーは、サラマンダーを見据えつつ言った。
「どういうことだ?」
いまいち理解が難解ゆえ、もう少し追及した言葉をサラマンダーは求める。
「貴方が戦うのに、理由がないのです。そして、心はいつも空っぽ・・・。」
「理由は有る。奴を越える、立派な理由だ。それと、心は無にするのが当然だ、 
雑念があるようでは勝てる敵も勝てないからな。」
サラマンダーはアレクサンダーの言葉を、順に答える。
「確かにそれも理由でしょうが、それはあまりにも弱い心の力。それよりだった 
ら『死にたくない』という自衛の心、『絶対仇を討つ』という復讐の心が、恐ろ 
しく巨大で凄まじいでしょう。」
「また、雑念有るよりだったら、集中し、更に無の境地にはいるのが当然かも知 
れません。しかし、何も考えないで目の前の敵を消し去ることのみ集中するだけ 
で、本当に強さは引き出せるのでしょうか?私は『絶対生きるのびる』という生 
存思考が有る方が強さを一番引き出せると信じています。」
口調を変えず、諭すかのようにアレクサンダーは言う。
「馬鹿な。死ぬ気で戦い、命を賭して戦う力こそ最強だとは思わないのか?命惜 
しさに、剣を恐れていて、どう敵に勝つというのだ。」
失笑まじりに、サラマンダーはアレクサンダーの言葉を否定する。
「本当にそうでしょうか?剣を恐れずして戦った結果は必ずしも勝利とは限りま 
せん。大体の結果は死という最悪の結末を迎えるのが殆ど。ましてや、剣を恐れ 
、死を恐れ、生き延びることを前提に戦う者にこそ、確実な勝利があると思いま す。」
「確かに死を恐れずして戦うのは恐ろしく強い力を生みます。先程言ったとおり 
、復讐の心がこの例に当てはまるでしょう。『死んでも復讐を遂げる』というよ 
うに・・・。」
「しかし、最終的に待っているのは死。相手を倒し、復讐を遂げたとしても、そ 
の者は人生の敗北者となるでしょう。」
アレクサンダーの言葉は更に続く。
「ジタンは死んではならない、待っている人がいるという気持ちから試練に打ち 
勝つことが出来ました。別に自分の心の闇に必死に立ち向かうわけではなく、闇 
をひたすら否定するために永遠の闇を倒したわけではありませんでした。」
「ただ、『死んではなるものか、絶対帰るんだ』という生きて帰るという気持ち 
だけが支えとなって、結果、闇に打ち勝つことが出来たのです。」
「貴方と戦ったときもそうです。『貴方を殺してなるものか、国民を支えている 
王がここで死んでなるものか、何より愛する者を残したまま死んでなるものか』 
と心に刻んで戦いに挑んだはずです。」
淡々と述べていたアレクサンダーの言葉がここでようやく途切れた。そして、し 
ばらく沈黙が辺りを支配する。
(戦う理由、生き延びる気持ちこそが・・・。)
沈黙の間、サラマンダーは何度もアレクサンダーの言葉をそう頭の中で繰り返し 
た。
「・・・・分からないな・・・。」
不意にそう言い放ったサラマンダーの言葉が、辺りの沈黙を破る。
「そう・・・ですか。」
サラマンダーのその言葉に、少々うつむき加減で、アレクサンダーは寂しげな表 
情を浮かべる。
「やむを得ませんね・・・、でも決して今の貴方では真の力は引き出すことは出 
来ないでしょう。」
静かにアレクサンダーは言う。
「フン、そんなことは分かっている。ジタンに勝てないのだからな。」
「ただお前の言っているジタンと俺との力の差を広げている答えの意味が分から 
ないだけだ。誰も、お前の言った答えが違うとは言ってはいない。」
背を向け、話はこれまでとばかりにサラマンダーは立ち去ろうとする。
それを聞いたアレクサンダーは、表情を一変して再び優しい微笑みを浮かべる。
そして、エーコの心の中のみにそっと彼女は呟いた。(彼のこと、サラマンダー 
のことを頼みますね・・・・)と。
当然その言葉を聞いたエーコは、この上ない嫌な表情を浮かべ、アレクサンダー 
の言葉に不満をこぼしたが、最後には不承不承、幻獣神の言葉に了解するような 
言葉を返したのだった。

その後、リンドブルムに有能な近衛部隊長が就任したと言われている。またそれ 
が赤髪の部隊長と聞くが実際定かではない。
かの英雄のサラマンダーとも聞くが、部隊長の姿を間近で見るものは少なく、そ 
してその配下である近衛兵も頑としてその事については口を割ろうとする者は居 
なかった。
理由は依然、分からない。ただ言えることは、真実は英雄の間のみ知っているで 
あろうという答えのない答えのみ。

作者コメント:
再び、どうも♪
FINAL FANTASY\英雄王外伝−焔の拳−いかがだったでしょうか?イメージとはチ 
ョイ違うぞ!という方はスミマセン(涙)私の中ではこういうイメージなんで( 
苦笑)
それと、後編でサブタイトル『焔の拳』の意味をご理解できたと思います。焔を 
宿したの爪で戦うサラマンダーってサマになってません?(私だけか)
とりあえずED後のサラマンダーの話はこれで終わりだと・・・思います(多分) 。
今後、私として手掛けたいのは、人気のあるフラ×フラ編。本編(英雄王)では 
ブルメシア王、王妃の設定になっています。これで一発なんか書いてみたいので 
すが・・・まだ、ネタ的に良い案が出ておりません(苦笑)
それと、私的にはミコト話も外伝で出したいと・・・(苦笑)
実は本編自体、皆さんから大変指示頂いたんで、これだけで終わるのも忍びない 
というのが本心でして(笑)、まだまだこの世界でジタン達を活躍させたいなぁ 
〜とおもっているワケで・・・
ま、次として書くのはFF1、2、3になる確率が大です
サブタイトルは仮名ですが、順に『時の輪』、『地獄の王』、『大魔道士』とい 
う風になっております。ゲームをやっている人は大体タイトルでどのような内容 
か分かると思います(苦笑)
1、2はネタバレなんですが、FF3『大魔道士』だけはFF5『12の光』の 
ようなゲームのプロローグのような形になります。一応、やってない人も見れる 
ような小説になる・・・でしょう(弱気)