FINAL FANTASY V 暗闇の雲
「ばかな・・・。」
魔王ザンデはその言葉とともに、口から多量の血が溢れ出た。
ザンデの身は、先ほどボウイが召喚した竜王のブレスにより焼きただれ、ダグの放った手裏剣が無数に刺さっていた。
そして、とどめになったのはムウチによる、ラグナロクの渾身の一撃だった。
今でもその最強剣はザンデの体に深々と突き刺さったままでいる。
ザンデの一言から、しばらくの間沈黙がその一帯を支配した。
「だが残念だ・・・。」
再びザンデの言葉により沈黙が破れる。
「何がだ!!」
ムウチは怒鳴るように言う。しかしその言葉を聞くと、ザンデは口元に冷ややかな笑みを浮かべた。
「何がおかしい!!」
ムウチが再び怒鳴る。
「滑稽に見えたからだ。」
「なぜだ・・・?」
ボウイは頭に血が上っているムウチを押さえながら聞く。
「ふっ・・・、世界が永遠の無に帰すというのに、この私を倒したことによって世界が救われた、
という愚かしい感情に浸っているその姿がだ・・・。」
ザンデの声は死が間近に見えてか、非常に低く、かすれていた。
「まさか、すでに!」
メルフィの顔から血の気が失せる。
もちろん、冷静さを失っているムウチ以外の皆には、このメルフィの言葉の意味が分かっていた。
「ふふ、そのまさかだよ。脅えよ、そして絶望せよ!おまえら人間どもには希望などはない。
あるのは、我が召喚した<暗闇の雲>が与える永遠の<無>の世界だ!!」
ザンデにこれが最後の言葉になった。
言い終えた途端、また大量の血を吐きそして膝が落ち、倒れたのだ。
「暗闇の雲?」
ムウチが怪訝そうにメルフィに聞く。
「多分、ドーガさんとウネさんが言っていた。<喚んではならない者>のことよ・・・。」
メルフィがそういった途端。
「!!?」
激しく空間が揺らいだ。そして次の瞬間、皆に強烈な衝撃が放たれた。
ムウチ達はかなり後方まで吹き飛ばされたが、うまく体をこなして難を逃れた。
ムウチ達が体勢を立て直し、ゆっくりと衝撃波の放たれた場所を凝視した。
そこに目の当たりにしたものは一人の裸体の女性だった。
もちろん、ただの人間ではないことは皆、承知である。
なぜなら、この女性の周りにはとてつもない負のエネルギーが渦巻いており、
そして女性の足の部分はまだ空間に埋もれていて見えないからだ。
(人間どもよ・・・。)
その女性からの声は直接ムウチたちの頭の中に伝わる。
「何者だ!!」
ムウチはその女性に剣を向けながら聞く。
(我の名は<暗闇の雲>この世に<無>をもたらす者だ。)
「なぜ?」
メルフィは叫ぶように言う。
(なぜだと?それは心外な質問だ。娘も光の戦士だろう、我の存在理由、そして我がもたらすものぐらい分かっているだろう?)
「・・・。」メルフィは沈黙する。
「いったいどうやってこの世を無にするのだ!」
ボーイが強い口調で言う。
(どうやってだと?まったく光の戦士たちはよほど探求熱心らしいな。)
暗闇の雲は含み笑いをする。
(簡単に言えばクリスタルによる<闇の氾濫>だ。)
「それはどうやって・・・。」
ボーイがそう言いかけた時。
(もうよい。)と一言、言うと暗闇の雲の額にある目が激しく光った。
激しい衝撃波がムウチ達を打つ。
すぐさまメルフィが、皆にケアルガの回復魔法をかけるが、あまりの重傷で回復が追いつかず、満足な回復ができなかった。
「くらえ!!」
ダグの両手から手裏剣が飛び出す。そして、その二つの手裏剣は違わず標的の急所に命中する・・・はずだった。
しかしその手裏剣は暗闇の雲をすり抜け、むなしく空を裂くだけだった。
もちろんのことその後、間髪を入れず斬撃を浴びせようとしたムウチの攻撃も失敗に終わる。
「まさか、アンデットか!!」
ボーイはすかさず竜王召喚のための魔法の詠唱を始める。
魔法はすぐさま完成し、竜王バハムートがその偉大な姿をあらわした。
そして強烈なブレスが暗闇の雲目掛けて吐き出される。
しかし、その結果は虚しいものだった。
暗闇の雲には火傷の跡一つもなく、平然としたものだった。
「ばかな・・・。」
ボーイはがっくりと肩を落とす。
(万策尽きたか、光の戦士達よ・・・。)
暗闇の雲の額の目がより一層輝く。
次の瞬間、ムウチの目の前が真っ白になり、そして深い闇の中に意識が落ちていった。