FINAL FANTASY V 暁に消ゆる命

「すべての大気を司る風のクリスタルよ、その力全てを活かし、裁きの雷を下せ!!」
凄まじいまでの稲妻と電流の奔流がエクスデスの体を駆け巡った。
「ぐああ!!」
エクスデスは闇のクリスタルを使い、バッツ達を戒めていたので対魔法の為の精神統一ができず、
無抵抗のまま雷を受け入れた。
そのため、エクスデスにとって普段なら大した事も無い『サンダガ』でも多大なダメージを受けてしまう結果となった。
そしてエクスデスはそのままゆっくりと前に倒れた。
「みんな大丈夫?」
一人の少女がエクスデスが倒れたのを確認し、そう声をかけ歩み寄って来る。
「クルル・・・。」
バッツはぐったりとしながらその少女の名を言う。
さすがに強大な魔力がこもっている闇のクリスタルの力は強い。
ただの戒めとは分けが違い、精神にもその効果は発揮していた。
すでに精神力は底が尽き、ゆっくりと気を失いそうな所にクルルが現れたのだ。タイミング的には危ないところだった。
バッツもそうだが、クルルの出現には疲労しながらも皆驚いた。
特に祖父であるガラフについてはこの上ない驚愕の表情を見せる。
「クルルなぜ来たんじゃ!」
「おじいちゃんが心配で助けに来たのよ。それに今の魔法でエクスデスは当分動けないはずよ。」
それからクルルは「回復させるわ。」と言い、回復魔法の詠唱を始める。魔法はすぐに完成した。
「いたわりを司る水のクリスタルよ、この者達にその潤いをもたらせ、そして再生を。」
徐々にバッツ達を支配していた疲労感がなくなり、精神力が満たされていった。
「助かったわ、クルル。」
レナが微笑みながら言う。
他の皆も立ち上がりはできないがクルルに謝礼をした。
ガラフも孫がこんな所に来たことについて、一言二言何かしら文句を言ったが最後には「おかげで助かった」といってクルルに微笑みかけた。
しかし、そんなほんの一瞬の和やかな空気が音を立てて崩れ去った。
「おのれぇぇ!!」
邪悪な気を奮い立たせながらエクスデスはゆっくりと立ち上がる。
「炎のダーククリスタルの力により尽きぬ炎を召喚する、風のダーククリスタルによりその炎を牢獄と化せる。」
聞いたことのないルーンがエクスデスの口元から零れる。
そして魔法は完成した。
エクスデスの目の前にある四つの黒いクリスタルのうち、二つがエクスデスの唱えたルーンに応答したかのように鈍く輝いた。
するとそれと同時にクルルの周りに異質な空気の流れが発生した。
そして瞬時に真っ赤な炎が、その空気の流れを沿うように出現した。
「なにするんだよ!!」
相変わらずの口調で強気なところを見せつつその炎をかき消すごとく魔法を詠唱しはじめる。
「無駄なことを・・・、その炎は何者でも打ち破れることはできぬ。死をもって我を侮辱した罪を購うがいい!」
そう言うとエクスデスは含み笑いをした。
「クルル!!」
バッツ達は必死に、這いつくばった状態から上体を起こそうとしたが体が言うことが聞かない。
どうやら魔法力も限界以上、失ったようだった。
バッツ達は何もできず見ているだけしかできない自分達に憤りを覚えつつ、体を奮い立たせようと努力する。
そんな時、クルルの魔法が完成する。
「地水火風の精霊達よ、自然ならざる者を許すべからず、自然を守護する名のもとに無に還すべし。」
「『デスペル』・・・、魔法効果解除魔法か。」
エクスデスは呟くように言う。しかし、その口元には冷ややかな笑みが零れていた。
クルルの唱えた魔法により、標的に無数の光の粒子が飛び散った。
この光の粒子一つ一つから魔法の源であるマナを吸出し、外に発散させるのだ。これにより異質な空気の流れと炎は消え去る―はずだった。
しかし結果は失敗。光の粒子はその炎に触れると蒸発するかのように消え去ったのだ。
あたかも闇に飲み込まれるかのように。
「そんな・・・。」
クルルはがくりとその場に膝を落とす。
「消えるがいい。」
エクスデスはそう冷たく言い放つと、左腕を右に大きく振るう。
それに応じたかのようにクルルを囲んだ炎も右へ大きく移動する。
そのためクルルはその炎の壁にあたり火傷を負い、異質な風によって体を浅く切り裂かれた。
「ぐっ・・・。」
あまりの苦痛にクルルは顔を歪める。
だがその炎はそのまま樹の壁に激突し、クルルは強烈な衝撃を受けた。
「きゃー。」
かなりの衝撃で背を強か打ったようだった、そのためクルルはこの上ない叫び声をあげた。
エクスデスはその様子を見て豪快に笑い出す。そして、休みなく腕を縦横に振るう。
クルルはその度壁に叩き付けられ、炎に焼かれ、風の刃で切り裂かれた。
徐々にクルルの叫び声は小さくなり、もはやなにも物を言うことができなくなった。
「死んだか?もはやこれまでだな。」
そう言うとエクスデスは左の掌をゆっくり握りはじめる。
それに応じたかのようにクルルを取り囲んだ炎も徐々に凝縮しはじめる。
「クルル!!!」
ガラフは叫ぶように言うと、それとともに雄たけびともいえる声を発した。
するとガラフは少しずつではあるが確実に起き上がりはじめた。
「おとなしく地に伏せておれ。」
静かにエクスデスは言うと目の前のダーククリスタルに呼びかけるように不可思議なルーンを詠唱しはじめる。
「闇の均衡を守護するダーククリスタルよ、生命を奪え、心を束縛せよ、そして永久の暗黒へ誘え。」
またもやそのエクスデスのルーンに答えるかのように、四つのダーククリスタルは鈍く輝く。
そしてその輝きが頂点に達すると、クリスタルはバッツ達に目掛けて光を衝突させた。
バッツ達が戦闘不能状態に陥った束縛の魔法だ。
先ほどクルルの魔法で回復したバッツ達だが、回復したのは体力のみ、
魔法力は限界以上吸い取られた状態からまったく変化無しだった。
そのため二回目のこの束縛魔法はバッツ達には絶望的で、
運良ければ昏睡状態、運悪ければ体力・魔法力をすべて根こそぎ奪われて命を落とすかだ。
もちろんながら、途中まで起き上がっていたガラフも地に伏せる状態に戻ってしまった。
「途中に邪魔が入ったが、今度こそ息の根を止めてやろう。」
エクスデスは握りかけていた左の掌をまた握りはじめる。
すでにクルルは炎の熱とさまざまな傷で倒れており、意識もゆっくりと消えかかり始めていた。
しかし炎はそんなクルルに関係なく間隔を狭めはじめた。
「おじい・・・ちゃん・・・。」
クルルは消えはじめた意識の中で一言呟いた。
そしてクルルの瞼は完全に閉じた。
「クル・・・ル・・・。」
ガラフはそのクルルの消え入りそうな呟きを聞き逃さなかった。
「うおおおお!」
ガラフは再び雄たけびを上げると一気に立ち上がった。その状況を見たエクスデスは左手の動きを止める。
ガラフはクルルを助けだそうとクリスタルの光を撥ねのきながら前進した。
ゆっくりな歩調だが、クルルとの距離を徐々に狭くしていった。
だがそれはクリスタルに近づくことでもあって、その距離が短くなるほどその光は強くなっていった。
クルルとの距離がわずか三歩半に近づいたとき、エクスデスは警告の言葉を発した。
「退け、ガラフ。それ以上近づくとクリスタルは砕け散るぞ!」
ガラフは一瞬歩みを止めた。クリスタルの意味、それは地水火風の保持を示し、
それらが砕け散ると大地は腐り、水は濁り、鳥は住みかを失い、世界は凍り付く。
また、バッツ達の住む世界のクリスタルはその他に、
この目の前にいる暗黒魔道士エクスデスを封印し続ける役割を果たしていた。
ダーククリスタルもおそらく、バッツ達の住むクリスタルと同じく、この世界を保持するために存在すると思われるが、
結局はこの邪悪が存在する限りこの世界は平和ではない。
だが、この邪悪がいることが世界の崩壊より最悪な結果だと思える。
そしてガラフにとって、何よりも最愛な孫が傷つき、目の前で殺されるのは最大の苦痛である。
自分の命が尽きようと、自分の孫と仲間、そしてエクスデスの息の根を止めねばなるまい。
そうガラフの中で決心が固まると、力強く一歩大きく前へ歩み出た。
それと同時にクリスタルはパーンという音とともに粉々に砕け散る。
「何てことを!!おのれ、ことごとく私の邪魔をしおって!」
エクスデスはクリスタルが砕け散ると猛然と怒り、ついに左の掌を完全に握った。
しかし、ガラフはその状況をいち早く察知し、クルルを無理矢理炎の壁の外へ押し出し、自分は炎の壁に飲み込まれた。
どうやらこの魔法は完全に閉じきる時、一瞬隙を生じさせるようだ。
しかもエクスデスは完全に冷静になっておらず、怒りのためその一瞬の隙が生じる時の魔法集中が間違いなく欠いていた。
この二点の重なりによってクルルは外に免れたのである。
紅蓮の炎がガラフの身を焦がした。しかし、ガラフは気にをせず炎をまとったままエクスデスに突進した。
「エクスデス!!!」
ガラフは突進しながら憎き人類の最大の敵、エクスデスの名を叫んだ。
「ぐおっ!」
エクスデスはガラフの渾身の一撃を食らった。
そしてガラフのまとった炎が追撃となり、エクスデスの体に燃え移り、ガラフと同じくその身を焦がしはじめた。
魔力が込められた炎なので簡単には消えない、そのためクリスタルの魔力の解除の魔法を唱えなければならなくなった。
しかし、クリスタルの魔力の解除の魔法はその術者だけと制限できないため、
その魔法を唱えると今までクリスタルの魔力かけたもの全てが対象となるのだ。
ガラフはもちろんのこと、あの娘や、
かつて自分が封じ込められていた世界から来た戦士達にかけた魔法もすべて解除することになる。
(やもえまい・・・。)
エクスデスは心の中でそう一言呟く。
そして高らかに魔法の詠唱を始めた。
「地水火風のクリスタルよ、万物を有るべき姿に戻せ。大地よ囁け、水よせせらげ、炎よ揺らめけ、風よざわめけ。」
エクスデスが魔法の詠唱を終えると、すぐさまその効果が現われた。
今までエクスデスとガラフ、そしてクルルの身を焼いていた炎はすぐさま消え失せ、
バッツ達の精神と肉体を束縛していた魔力も消え失せた。
「ここまで私を煩わせるとはな、さすがは暁の戦士といったところか・・・。」
静かなもののその口調には、大きな殺気を感じさせた。
「そんな昔の肩書きなどどうでもよい、今度こそ貴様を封印ではなくこの世から抹消してくれよう!」
ガラフの口調もまた冷静なものを感じさせるがそれと同時に、その奥には行き場の無い憤りがあるのを感じさせた。
ガラフはゆっくりと剣を構えた。またエクスデスも。
「死ね!」
エクスデスは何も無い虚空に剣を横一文字に振った。
バッツ達には何をやっているのだと一瞬、エクスデスの行動の意味が分からなかった。
だが、ガラフはその行動の意味を知っていたため剣をひき、盾で全身を覆うようにした。
次の瞬間ドンッ、という何かが弾けた音がして、盾で防御していたガラフの体が大きく後ろに下がった。
「真空波か。貴様がもっとも得意とした技だったな・・・。」
ガラフは掲げていた盾をよけ、過去の記憶を呼び起こしながら遠い目をしながら言った。
「だがわしにそんな技は通用せん。エクスデスよ覚悟するがいい!」
そう言うをガラフはエクスデスに素早い4回連続攻撃を放った。エクスデスはさばききれず片や腕に深くはないが傷を負った。
それだけに終わらず魔法による追撃をエクスデスにぶつけた。
炎の最上級魔法『ファイガ』、冷気の上級魔法『ブリザガ』、雷の最上級魔法『サンダガ』など、
跡形も残さないくらい激しい攻撃を仕掛けた。
もちろんエクスデスも反撃した。初めに繰り出した『真空波』やガラフのように最上級魔法も駆使した。
だが命をすでに捨て切ったガラフの攻撃は確実にエクスデスをおしていた。
バッツも昏倒とする意識の中で(勝てる!)と頭の中で確信しはじめた。
だが・・・。
激しい奮戦の中、いきなりエクスデスは剣を大地に放り投げた。剣が二、三度跳ねて大地に転げる。
「どういうつもりだエクスデスよ、つまらぬ小細工を仕掛けてるつもりならよすのだな。
今のわしは命など惜しくない、ひるまず貴様に攻撃するぞ。」
ガラフのその言葉を聞くとエクスデスは軽く含み笑いをした。
「残念だがそのつもりは無い。私が剣を捨てた意味は―この私を本気で怒らせたことだ!!」
エクスデスの最後の部分の言葉で莫大な魔法力が集中しはじめた。それとともにエクスデスは魔法の詠唱を始めた。
ガラフはさせてなるものかと全速力でエクスデスに突進した。
そしてガラフはエクスデスの魔法が完成する前に到着し、すぐさま得意の4回攻撃を繰り出した。
エクスデスのからだが大きくぐらつく。
しかし、傷を負わせたものの魔法の詠唱を途絶えさせることはできなかった。
ガラフはすぐさま対魔法のため精神を集中させ体内に潜むマナを活性させた。
「次元の狭間をうごめく破壊神よ、その力を示せ。大地を漆黒に染め上げよ。」
エクスデスの魔法が完成した。
エクスデスは両手を前に掲げた。もちろん掲げた両手の先にはガラフに姿があった。
その瞬間。
強烈な爆発音と灼熱の光が発生した。大地は揺らぎ、まばゆい光は近くにいたバッツ達の肌を焼いた。
そして紅蓮の炎が辺りを支配した。
だが、その凄まじい炎のなかガラフは立っていた。
しかもガラフを中心に大地は円状にえぐれている、凄まじい爆発だったことをその場を持って語っていた。
その時ガラフを援助しようとバッツは自分のからだを動かそうとしていた。
(エクスデスはあんな魔法とは思えない魔法を使ってきた。ガラフの死は確実に見えている。)
などさまざまなことがバッツの脳裏をよぎった。
バッツの目の前には道具袋があった。
バッツはこの中のエリクサーという魔法薬を取りだそうと懸命にからだを動かそうとしていたのだ。
しかし腕はなかなか言うことを聞いてくれなかった。目の前で仲間が殺されそうなのに。
バッツがそうしてる間、エクスデスは更なる魔法を完成させていた。
「天空を支配する神々よ、不浄なる地上に浄化の光をもたらせ。聖なる光で埋め尽くすのだ。」
今度はなんだと言う衝動にバッツはかられた。しかし、そう思いながらもバッツは懸命にからだを動かそうと努力していた。
エクスデスの魔法はガラフの立っている場所に発動した。
この長老の樹を飲み込まんばかりの青白い光がその場で爆発し、ガラフの姿は一瞬にして消え去った。
そしてその光はより一層輝いたと思うと大きな光柱になり、天井を突き破って天に消え去った。
エクスデスはガラフの生死を確認せずともまた新たに魔法を詠唱しはじめた。
そして魔法は完成した。
「天空に散らばる数多の星々よ、我が声に耳を傾けるのだ。幾閃光年の時空を越え、今ここに召喚されよ!!」
魔法の完成とともに天井の景色が歪んだ。
もちろん、バッツ達にはその歪みが空間の歪みと知っており、それと同時にその魔法の正体が分かった。
『メテオ』である。
究極にして最強の魔法。
その封印された魔法の存在を知っていない人は存在せず、その破壊力は想像を絶するといわれている。
激しい轟音とともに燃え盛る隕石がガラフが居たとされる地点に降り注いだ。
隕石は大地をえぐり、燃え盛る炎で辺りを焦がし、噴煙が充満した。
バッツはすでにガラフの死を確信した。先ほどの光の魔法でも生きているのかわからない上に究極の破壊魔法である。
(生きているはずが無い。)
バッツの頭の中は絶望で一杯だった。やっと道具袋に届いた手もその袋口をぐっと握り締めるだけとなった。
しかし・・・。
「そんな・・。ありえん!!」
エクスデスは濛々と立ち上がる噴煙の中に何かを見たようだった。
ゆっくりと噴煙は消え去り、その姿があらわとなった。そしてその瞬間バッツ達の顔に笑顔がよみがえった。
ガラフが生きていたのだ。鎧はすでに形が無く、手に持っていた盾も完全に消え去っていた。
全身あちらこちらに激しい出血が見られ、バッツ達にもその姿で立っていられるのが不思議だと感じさせた。
「破壊魔法の『フレア』も、白魔法究極の『ホーリー』も、破壊魔法の奥義である『メテオ』さえも・・・、なぜ効かん。
 そして?なぜだ、なぜ死なん!!!」
すでにエクスデスは恐慌をきたし、後ずさりさえしていた。
「まだまだ死ねんのじゃ!」
ガラフは言葉を続ける。
「この命が続く限り・・・。エクスデス、貴様を倒す!!!」
そしてガラフは剣をまっすぐに構え、渾身の力でエクスデスに突き出した。
恐慌を来たしたエクスデスは体をうまく動かすことができず、ガラフの剣をそのまま胸に受け止めた。
ガラフは鈍い感触が剣を通して感じた。剣はエクスデスを捕らえ、その背に剣先が姿をあらわした。
「憎しみや怒りでは我を倒せんぞ・・・。」
致命傷とも思える攻撃を受けながらもエクスデスは言った。
「怒りでも憎しみでもない・・・。」
ガラフはゆっくりとした口調でエクスデスに答えた。
「ではなんだと・・・。」
それで二人の会話は終わった。
ガラフは事切れたのかうつ伏せに倒れ、エクスデスはガラフの剣を突き刺さったまま後ろに仰向けの状態で倒れ込んだのだ。
その状況を見たバッツはすぐさま道具袋からエリクサーを取り出し、それを一気に飲み干した。
体力や魔法力、さまざまな体の異常を元に戻し、バッツは立ち直る。
もちろん完全回復したバッツは早急に仲間たちを回復させ、皆ガラフの周りに集まった。
「大丈夫か、ガラフ!」
バッツはそう言い、ガラフの上体を起こそうとした。しかし、ガラフはその行動を首を横に振って、無言で制した。
その時皆、ガラフも命が今に尽きるのだと理解した。もちろんクルルも。
「おじいちゃんへっちゃらだよね、強いもんね、クルルの自慢のおじいちゃんだもん。」
クルルは既に大粒の涙を流しながら涙声で言う。
「クルル・・・。そしてバッツ、レナ、ファリス。すまんエクスデスを倒せんかった・・・。」
ガラフは既に視覚を失っているのか虚空を見つめながら言う。そしてその目には涙が浮かんでいた。
ガラフの言うとおり、エクスデスが倒れていた場所にはその姿が無く、大量の血の跡がその場を染めているだけだった。
どうやら『帰還の魔法』で逃げたようだった。
「いえ、ガラフ。あなたは頑張ったわ・・・。それに・・・。」
レナはそれ以上言葉を続けることができなかった。
今、命尽きようとしている仲間にそれ以上、面を見て言えなかったし、何よりも悲しみが心を彼女を支配したからだった。
「バッツ。必ずエクスデスを倒せ・・・。この世を闇に変えてはならん、頼んだぞ・・・。」
バッツは無言で頷いた。レナはその肩が震えているのがはっきりと見えた。
「後は・・・。任せた・・・・。」
ガラフはやっとその一言を言うと、ゆっくりと瞼を閉じた。永久の眠りへついたのだ。
「おじいちゃん?」
クルルはガラフへ問い掛ける。もちろん返答は来なかった。
バッツ達も必死に目を覚まそうとしてさまざまな対処をした。
頭では死んでしまったのだと分かっていたが、ひたすらその自分の考えを否定したかった、自分に考えが誤りであることで、目の前の現実も否定できる気がしたから。
バッツは蘇生魔法である『レイズ』を、レナは回復系最上級魔法『ケアルガ』、
ファリスは蘇生効果のある『フェニックスの尾』や先ほどの『エリクサー』を使用した。
しかし、全ては水の泡となった。
これらの魔法やアイテムはあくまで生命維持のためにあり、すでに命尽きた者にはその効果はまったく示さないのである。
もちろん分かっていたが、奇跡を信じてバッツ達はそれぞれの行動に出たのである。
何もしないよりだったら奇跡の起こる確率が高くなると信じて。
「おじいちゃん目を開けてよ!ねえ!!」
クルルは涙を流しながらガラフの亡骸を揺さぶり、懸命に声をかけた。
虚しくクルルの懇願の声がこの長老の樹に響き渡り、反響した。
バッツ達はただクルルに対する言葉も浮かばず、涙を飲んでガラフとの別れを惜しんだ。