FINAL FANTASY Z 永遠の聖女
クリスタルのように透明で透き通った螺旋階段をゆっくりと、なおかつ慎重にクラウドたちは下っていた。
別に無駄な配慮と思うが、そのあまりものクリスタルのような透明感に、ついそのような足取りになってしまったのだ。
「エアリス、いるかな・・・。」
ぽつりとティファが先頭で降りているクラウドに話し掛ける。
「おそらく・・・、そんな気がする。」
クラウドは階段を降りながらそう返答する。
あくまでそのような気がするだけの確信。曖昧でも何故か確信できる。
それは、エアリスに会いたいという願望が生み出した幻想かもしれないが、だが、
それを否定しつつ、曖昧な確信を彼は得ていた。
ティファもその曖昧な返答に満足し、大きく頷くとクラウドと並んで階段を下り始めた。
エアリスの失踪。
それは突然なことだった、古代種の神殿と呼ばれる古代遺跡で究極の破壊魔法『メテオ』を行使できるようになる
『黒マテリア』と呼ばれるものを手に入れ、その後突然のセフィロスの登場。
クラウドはセフィロスに操られるかのように黒マテリアを渡し、
精神に異常をきたしていたクラウドはその場にいたエアリスに手をあげ、仲間によって取り押さえられ、そして気を失う。
また、クラウドは気を失っている間ある夢を見た。
エアリスと会う夢である。
エアリスはセフィロスとの決着をつけ、帰って来ると言い、そしてその鍵となるものがこの忘らるる都にあると言った。
しかし、この地に赴いたものの人の気配は一つも感じられなかった。
やもえなく探索をやめ、つい先ほど眠りについたところ人の気配を感じ取り、
それを辿ってこの螺旋階段を見つけ、下っているのだ。
(エアリスは、なぜこんな所に・・・。ここに何があるのだろうか・・・。)
さまざまな思いがクラウドの脳裏をよぎった。しかし、一番強く心に秘めている思いは、やはりエアリスとの再会の念である。
とにかく何も言わずして去った彼女に会って誤りたい、とにかくそれがクラウドを強く動かしていた。
もしかしたら、黒マテリアやセフィロスそしてメテオなんかは彼女を追う単なるこじつけであるかもしてない、
でもそれでもいいとも思っている。
なぜなら、少なからずとしても心の奥底ではそう思っている部分があるだろうし、またその気持ちを否定する気もないからだ。
とにかくこの下にエアリスがいることを信じ、階段を一歩一歩降りていった。
「あー!」
しばらく歩いていると突然後方で歩いていたユフィが驚きの声を上げ、指をあるところに示す。
クラウドとティファはもちろんユフィが指さしているところを黙視する。
「これは・・・。」
クラウドの眼下にはドーム状になっている透明体を屋根にする空間があった。
そこには建物らしきものもあり、また奥には祭壇らしい建造物も伺えた。
クラウド達は歩調を早め、その空間にいち早く近づこうとする。
しかし、階段が螺旋状になっているため、すぐ近くにあると思っても道のりは以外と長かった。
その空間につくとすぐにエアリスの探索が始まった。
ティファやユフィは住居などを主に探し始めたが、クラウドは真っ先に上から見えた祭壇らしき建造物に向かった。
もちろん根拠などはない、ただそこにエアリスがいるとおもったからだ。
しかし、言いしれぬ勢いで惹かれるものがそこにあった。
祭壇は池の中心に建っていた。
その池は透明で澄んでおり、今まで歩いてきた階段のクリスタルを連想させるような美しさだった。
だが、その池には生ける者の気配は全くない。
まるで完成された一つの絵画のような無機質的な印象が強い風景でもあった。
祭壇までには飛び石が続いており、それによって祭壇までいくしか方法はない。
ふとクラウドがその祭壇に目を凝らした。すると、エアリス本人とは断定できないが、人影らしいのが見えた。
だが、超人的な能力を持つソルジャーの視力からの判断であり、常人でこの距離からの確認は、
せいぜい点らしきものが景色にあるような気がするぐらいのもので、とてもではないが人影と判断するのは不可能だろう。
クラウドはほぼ確信を持っていたが、ちりじりとなった仲間が合流するのをしばしその場で待つことにした。
警戒のため握っていた大剣を背に戻し、その場に腰を下ろす。
しばらくすると、ティファが現れ、次いでユフィが姿を現した。
「エアリス見つかった?」
ティファが息を切らしながら訪ねる。
「見つけてはいないが、おそらくあの祭壇の奥にいる感じがする。・・・間違いはないだろう。」
クラウドは断言する。
ティファも心境同じくらしく静かに頷いた。
最後に着いたユフィも到着したときティファと同じような事を聞き、クラウドも同じような返答をした。
「じゃあ、何で確かめに中に入らないの?」
ユフィがもっともな質問をクラウドに投げかける。
「言ったろ?怖いんだ。もしも古代種の神殿でおきた発作がまたおきたら今度は何をするのかわからないのが・・・。」
クラウドは言葉を続ける。
「だから・・・、みんなを待ったんだ俺がおかしなったときのために押さえてほしいから。
それに、俺ひとりだとエアリスに会いにくいんだ・・・、いろいろ酷いことしたから。」
クラウドは透明な床を見つめながら言った。
「クラウド・・・。」
ティファは自己嫌悪に陥っている彼にかける言葉を見つけられないまま、そう一言つぶやき沈黙した。
「なに陰気くさくなってんだよ!」
とつぜんはじけた言葉がその場の沈黙を打ち破った。
「エアリスはさあ、独りであの恐ろしいセフィロスというバケモノに狙われつつ、星のために何かをしようとしてるんだ。
それなのにあんたは会いにくそうにしてて、謝ることばかりが頭の中で、
独り戦っているエアリスの力になろうとは全然思ってないんだ!」
ユフィが凄み帯びた口調でクラウドを叱咤する。
「そんことはない!!」
力強い口調でクラウドは否定する。
「俺はエアリスを守ろうと誓ったからここまで来たんだ。そう誓わなければここに来たりしない!」
感情的になったクラウドは激しくそう訴えた。そしてしばらく沈黙した。
その言葉にティファは少し胸を痛めた。
少なからずとも彼に好意を持っている証拠だった。
いままで自分でも何となく自覚していたが、自分がここまで彼に心を寄せていることを知ったのは、今はじめて知った。
ティファが自分の知らない気持ちを知ったことに狼狽を覚えているときいきなり沈黙が破れた。
「それでいいんだよ。すっきりしたか?」
ユフィが満面の笑みを浮かべて言うと、クラウドに微笑みかけた。
クラウドはまんまとしてやられたのに気付き、さらに激しく感情をあらわにした事に恥じ、少し顔を赤くし背を向けた。
そして「ああ。」と背中越しにいい、振り返った。彼の表情は涼しげで、そして決意を改めたそれだった。
「行ってくる。」
クラウドはそう一言いって、ゆっくりとその祭壇までの道を歩みだした。
「私も・・・。」
いままで沈黙を守っていたティファが、すがるような瞳で言う。
「いや、いい・・・。」とクラウドが断りの言葉を投げつけようとした瞬間。
「お願い、エアリスの姿が確認できる場所まで!」
今度は一変した強い決意を表すような瞳をしながら、ティファが断固とした口調で言い放った。
後ろに控えていたユフィも口笛を鳴らし、驚きを表現しながらティファの意見に賛同する旨をクラウドに告げた。
「分かった・・。」
クラウドはため息を付きながら、あきらめの表情をしていった。
もちろんのその後にクラウドは「エアリスの見えるところまでだぞ。」と付け加えた。
その返答に満足したのか、彼女らは笑みをこぼしながら大きく頷いた。
かくして一行は祭壇に続く飛び石をわたり、祭壇近くまで移動した。
祭壇には、ひとりの少女が胸のところで手を組みながら、祈りを捧げていた。
祭壇は天井はもちろん床も透明であり、そして祭壇の下があの澄みきった池の水であるため、
池のさざ波がその空間に美しい青と波の光り輝く紋様を醸し出していた。
その中での少女の姿はまさに聖女そのものだった。
もちろんその聖女はエアリス。
クラウドはしばらくその幻想的な空間に心奪われ、しばし我を失っていた。
だが、そんな彼に後ろの二人から激が飛ばされたのはもちろんのことで、
それによってクラウドは幻想の世界から現実世界に引き戻されたことは言うまでもない。
クラウドは彼女らをなだめつつ、「ここで待っててくれ。」と最後に言うと祭壇の階段をゆっくりと登った。
そしてエアリスまで10歩手前あたりで、急な頭痛と手足のしびれを感じた。もちろんこの感覚は忘れはしない。
古代種の神殿でのエアリスへの暴行を引き起こしたときの発作前の感覚そのものだったからだ。
クラウドは精神を集中し、我を失わないよう自我にしがみつく。
しかし体はまるでマリオネットみたいに見えない糸に操られるかのように、背の大剣を取り出し、
そしてエアリスの頭上めがけて振り落とされた?瞬間、仲間の声が彼の耳に届いた。
「やめてー!」
ティファは悲鳴に似た声で。
「ストープ!」
少々軽い感じでユフィが、それぞれクラウドの狂行に歯止めをかける言葉を投げかけた。
仲間の声により呪縛から解き放たれたクラウドは、よろめきながら後ろに後ずさる。
「何をさせる、セフィロス・・・。」
額に汗をかきながらそう一言つぶやく。
しかしエアリスは目の前でおきてる一部始終に目をくれず、まだ一心不乱に祈り続けていた。
だがしばらくすると、ふと目の前にいるエアリスが祈りを中断した。
ゆっくりと彼女の瞼が開く。
そして澄みきったエメラルドグリーンの瞳が全てを映し出した。
「クラウド・・。」
エアリスは目の前にいる彼に微笑みを浮かべ、声をかける。
しかし、その微笑みはすぐ消え失せることになる。
突如セフィロスが頭上から剣を構えながら、降りてきたのだ。
目の前にいたクラウドももちろんのこと、エアリス当人もその事態に気付いていなかった。一瞬の出来事だった。
セフィロスの凶剣がエアリスの体を貫いたのだ。
剣はエアリスの体を完全に貫通し、その剣先をクラウドに向けていた。
セフィロスは冷たい笑みをクラウドに向け、そしてエアリスを貫いた剣をゆっくり引き抜く、
その瞬間クラウドは頭の中が真っ白になった。
何が起こったのか?自分は何をしているのか?
クラウドの思考が一瞬止まった。
だが現実はそんな彼をあざ笑うかのように流れてゆく。
剣を引き抜かれた後、エアリスはゆっくりをうつぶせに倒れ始める。
同時にエアリスの髪を結っていたリボンがほどけ、淡く輝く石のようなものがはじけ飛んだ。
クラウドはとっさに倒れかけたエアリスの上体をかかえる。
「ウソだろ・・・、おい!」
クラウドは目の前の現実を目一杯否定しつつ、エアリスを揺さぶった。もちろん仲間もすぐに駆け寄る。
すぐさま手当の魔法を重複してかける。奇跡を信じて。
しかし、かかえるクラウドは彼女の死の瞬間がはっきりと近づいているのをを分かっていた。
冷たくなったゆく体温、弱りはじめてゆく魂の鼓動。
「ゴメンね、約束していたデート行けなくなっちゃたね。」
そんな中エアリスは精一杯の笑みを浮かべながら弱々しい声で言った。
クラウドは何も答えず、首だけを横に振り、冷たくなり始めた彼女の手を優しく握る。
「忘れないよ、あの夜景・・・。」
エアリスの目に涙がにじみ、頬に一筋の線を描く。
「本当に楽しかった・・・。」
握っていたエアリスの手から力が抜け、クラウドの手からこぼれ落ちる。同時に鼓動も止まった。
エアリスの命が大地に返ったのだ。
「エアリス?」
クラウドはまたエアリスの上体を揺さぶった。だが、もう彼女の口から声が発することはなかった。
「エアリス!ウソだろ?目を開けてくれ!何か喋ってくれ!エアリス・・・!」
クラウドの青い瞳が潤う。涙をこらえて。
だが不意にクラウドに声がかかる。
「私はこれから約束の地へ赴き、星と一つになる。その娘もいずれライフストリームの一部となり、わたしに・・・。」
セフィロスがそこまで言いかけた瞬間。
「黙れ。」
クラウドは殺気を込めた声で、セフィロスの発言に割り込む。
「貴様の馬鹿げた計画も、自然のサイクルも興味はない!ただ、大切なことはエアリスがいなくなる。
エアリスはもう笑わない、泣かない、怒らない・・・。」
エアリスの上体を抱き寄せクラウドは言う。
「指先がチリチリする、のどの奥はカラカラだ、目の奥が熱いんだ!」
「エアリス、俺たちはどうしたらいい!!」
クラウドはそこまで言うと嗚咽をしながら号泣した。
ティファも幼いときから強気な彼が泣く姿を始めたみた。
だが、ティファももうすでに目の前が揺らいでいてほとんど見えなかった。
大量の涙が彼女の瞼からこぼれ落ちる。
隣にいる強気な忍者娘も涙をこらえているのだろう、鼻を鳴らす音がした。
「おまえに感情というものがあるのか?」
再びセフィロスが冷たい声を放つ。
「当たり前だ!!!」
完全に激怒したクラウドは怒りの声を上げながら立ち上がる。
しかし、セフィロスはそれをあざ笑うかのように肩を揺らし笑い出す。
「クックック、悲しむ振りはよせ、怒りにふるえる演技も必要ない・・・。なぜならおまえは・・・。」
そう言うとセフィロスの形は急激に変化する。
頭髪は剥げ落ち、瞳は白目をむきだし、口は裂け、皮膚は変色し、体も異形な形に変化を遂げた。
コレルの運搬船上で出会った敵と同質のものだった。
そしてその異形の者は言った。
「人形だからだ・・・。」
クラウド達は全力でその異形の者に立ち向かった。
「黙れぇー!!」
咆哮をあげながらクラウドは異形の者に斬りかかった。
クラウドはその者を貫かんばかりの勢いで大剣をまっすぐ突き出す。
ねらいは違わず、異形の者の体に深く突き刺さった。
同時に緑色の体液がクラウドに降りかかるがそんなことに気にもせず、大剣をそのまま斬り上げ、肉を切り裂いた。
異形の者は聞いたこともない異質な声で叫び声をあげる。
ティファも同時に攻撃を仕掛けていた。
掌打ラッシュ サマーソルト 水面蹴り ドルフィンブロウ
連続掌打、強烈な蹴り上げ、下段蹴撃、顎砕拳撃などクラウドに劣らない猛攻を彼女も繰り出していた。
そしてティファは一打当てるたびに「許せない、許せないよ・・・。」とつぶやいていた。
その彼女の怒りの拳が、一撃一撃確実に異形の者の生命を削っているのは誰の目にも明らかだった。
ユフィは魔法による攻撃に徹していた。
高らかに召喚の呪文を唱え、さまざまな幻獣を召喚した。
ラムゥ、シヴァ、イフリート。そして竜王バハムートや大地王クジャタなど精神の続く限り彼らを喚んだ。
戦闘はあっけなく結末を迎えた。
戦闘時間はほんの十数分。
この数値からして明らかにクラウド達の怒りの度合いが理解できる。
異形の者はまさに肉片と化していた。
彼ができた行動は2回、クラウドへの打撃とティファへの怪光線による間接攻撃だけである。
「ティファ、悪い。みんなを呼びにいってくれ・・・。」
クラウドがゆっくりと剣を下ろしていった。
彼の声は弱々しく、深い悲しみに満ちていた。
「分かった。」
ティファは首を縦に振り、クラウドの背を後にした。
それから数十分後、皆がエアリスの元に集まった。
一番に来たのは、レッドXIIIつづいてシド、バレット、ヴィンセント、ケット・シー最後に、呼びにいっていたティファが姿を現した。
「すまない、俺が居ながらこんな事に・・・。本当にすまない。」
皆の前でクラウドは頭を深く下げ、謝罪した。
だが皆からは非難の声や、同情などの返答はなく、ただ沈黙を守りつづけていた。
「本当に・・・、すまない・・・・。」
もう一度クラウドは謝罪の言葉を述べた。
「おめえさんが謝ってもしょうがねえよ・・・。」
そうシドが素っ気なくいうと、ジャケットから愛用の煙草を取り出し、火をつけ、
そのままエアリスの元へと歩み、天を仰ぎながら呟くようにいった。
「嬢ちゃん。おめえさんが先に逝っちまうとはな・・・。」
シドはそこまで言うと、口から一息煙を吐き出し、ゆっくりと腰を下ろし、エアリスの顔をじっと見つめた。
そして言葉を続ける。
「普通だったら、俺みたいなオイボレが先におっちんじまうのが普通なのによ。
そんなに俺様達の力が信用できなかったのかい?俺様達じゃ手伝えねえことだったのかい?」
もちろんエアリスから返答が帰ってくるわけがない。
物言わぬエアリスの顔をしばらくじっと見つめ、そしてゆっくりとシドは立ち上がり「何で死んじまったんだ・・・。」と一言いい、その場から離れた。
それからバレットとレッドXIIIがエアリスに歩み寄り、別れの言葉を告げた。
「クラウドを悪く思わないでくれ。あいつにしては不可抗力だったし、それにな・・・。」
そこまで言うと隣のレッドXIIIが「おっちゃん、それ今言う事じゃないよ・・・。」と発言を遮った。
もちろんバレット自体こんな事言うべき事ではないと分かっているが、思いつかなかった。
バレットはこれまで妻、そして親友、故郷までを失っている。
故に死には敏感になってしるのだ。「すまねえ。」と一言謝罪し、もう一度エアリスに面向かった。
プラットホーム
「エアリスの運命ってやつのレールはこんな終点だったのか?他にレールはなかったのかよ・・・。
また大事な人を俺はなくしちまった・・・。」
バレットはそこまで言うと、瞼から涙がこぼれ落ちた。
「おっちゃん・・。」
そう言いながらレッドXIIIがバレットの涙をなめてふき取る。
そしてまたバレットは「すまねえな。」と言いその場から離れた。
バレットの背中をしばらく見つめ、それからエアリスの元へレッドXIIIは歩み出た。
「じっちゃんが言ってた。
ライフストリームに帰った魂はそれぞれまた新しい命となって、植物、動物、そして人間としてこの地上に誕生するけど、
セトラの民はその自我の強さ故に何度も人間として転生するんだって!
オイラは長寿な種族だからまた会えると思うんだ。だから・・・サヨナラという言葉は使わないよ・・・。その代わり・・・。」
そう言ってからエアリスの顔をぺろりとなめ「またね・・・。」と言った。
次にケット・シーにティファが「何か言ってあげて・・。」と言ったが、
ケット・シーは「こんな作り物の体じゃ、言葉は伝わらへん。」といって外に出ていってしまった。
またヴィンセントは一輪の花をその場に置き立ち去っていた。
ライトオブエデン
楽園の光と呼ばれる白い花である。確か『慈愛』を意味する花だったとティファは記憶している。
確かにエアリスに一番に合う花だとティファは思った。
その花を手に取った頃にはユフィがエアリスに祈りを捧げている最中だった。
胸のところで手を組み冥福を祈っていたが、少女の顔はすでに涙で濡れていた。
祈りを捧げた後、ユフィは近くにいるクラウドに近づき、そして抱きついてそのクラウドの厚い胸板に顔を埋め、泣いた。
今までためていた悲しみが一気に吹き出したかのように。
しばらく泣き続けた後、ゆっくりとクラウドから離れたが、その場に耐えきれず泣きながら走って外へ出た。
最後にクラウドとティファがエアリスの元へと歩む。
ティファの手にはあのライト・オブ・エデンがあった。
まず、ティファが先にエアリスに近づいた。
そっと、エアリスのそばにその花を置き、エアリスの身だしなみを整えてあげた。
顔を丁寧にふき取り、ほどけたリボンも髪を結ってから結んだ。そして最後に手を組ませてあげる。
「何で死んじゃったの・・・。」
そう言うと彼女の頬に一筋の線がはしった。
「私じゃ・・・、クラウドを救えない・・・。支えにならないよ・・・・。」
クラウドはその瞬間、目線を床に落とす。
おそらくティファはエアリスとクラウドは恋人同士を思っているからだ。
しかし実際、好意を持っていたにしろクラウドはエアリスとはそんな関係だとは思っていない。
「でもなんでセフィロスに狙われる危険を承知してここに一人で来たの?
危険なことにみんなに巻き込みたくないのは分かるけど・・・・。私たち仲間でしょ?こんな別れかたって・・・・・・、ないよ・・・・。」
やっとそこまで言うとティファは両手で顔をかくし、泣き崩れた。
クラウドをそんな彼女の肩を優しく抱き、落ち着かせた。
そしてある程度落ち着きを取り戻させた後、クラウドはゆっくりとエアリスの上体を起こし抱きかかえた。
「どう・・、するの・・・。」
涙まじりでティファは聞く。
「この建物の向かいにある池で、エアリスを星に返すことにするよ・・・。」
そして、ティファに「その花も持ってきてくれ・・・。」をいうと外に向けて歩みだした。
皆、池の中央を注目していた。
なぜなら二人の男女がそこにいたからだ。
もちろん、その二人とはクラウドとエアリス。
最後の別れの瞬間である。
「エアリス聞き飽きたと思うがすまなかった・・・。だから俺はここで君に誓うことにする!!」
そういうと中世の騎士が王族のものを敬うがごとく、片腕を胸におき、そして誓いを述べた。
「私、クラウド・ストライフは、必ずセフィロスを倒し、そして必ずメテオからこの星を救うことを!」
言い終えるとクラウドはエアリスの体にあの白い花と一つのマテリアを置いた。
マテリアは重力マテリア、しかもクラウドのありったけの魔力が込められている。
おそらく永遠に遺体は浮上することはないだろう。
ゆっくりと澄みきった水面にエアリスの上体が消えてゆく。
「さよなら・・・。エアリス・・・・。永遠なる聖女よ・・・・・。」