FINAL FANTASY IV 命の魔法

「さあ、ローザを返せ!!」セシルは強い口調で言う。
「ローザ?何のことだ。」
ゴルベーザは手にある土のクリスタルを眺め、含み笑いをこぼしながら言う。
「どこまでも汚い奴だ。おまえのような奴にはへどが出るわい!」
シドがほぼ戦闘態勢に入りながら言う。
「ふん、貴様らが束にかかって来ようが私の敵にはならんぞ。」
ゴルベーザは冷徹にシドの言葉を返す。
「なんだと!」
セシルは思わず剣を構える。
しかしそのセシルを撥ね退けて一人の人物が前に歩み出た。
「テラ!!」
セシルは叫ぶ。なぜなら、これからテラの行う行動はあまりにも高い、命の危険性が伴うのだ。
もちろん、それをやる確信を持てないが、今のテラの表情を伺うと自分の予感にほぼ間違いが無いと確信される。
「何用だ、老いぼれ。私には貴様に用はないのだがな・・・。」
そう言いながら、手にあるクリスタルを魔法により何処かへ送還する。
「貴様になくてもわしにはある!!」
テラはそう言い終えるとすぐさま杖を構え、魔法詠唱を始める。
「ふふ、少しは遊んでやるか・・・。」
ゴルベーザはテラの行動を一瞥し、含み笑いをする。
「目に見えぬ小人よ、我が魔力によって増えよ、拡大せよ。そして己の主を蝕め!」
テラの魔法は完成した。一瞬杖の先が鈍く光ったと思うと、ゴルベーザの体中から不定形の緑色の物質が出現し、
強烈な酸を吐き出したりしてゴルベーザを蝕んだ。
「ふん、所詮老いぼれ。この程度の魔力よ!」
そう言ってゴルベーザは体全体から魔力を放出し、体中の肥大した細菌を浄化した。辺りに不快な匂いが漂う。
「まだまだ!!」
テラはまたすぐに魔法を詠唱しはじめる。
「すべての炎の根源たる火のクリスタルよ、その力全てを活かし、我の敵を焼き尽くせ!」
今度の魔法は高度だったのか、ゴルベーザは顔をマントで覆う体勢に入った。
強烈な炎がゴルベーザを包み込んだ。もちろん、セシルはこの魔法を知っていた。
確か『ファイガ』という炎の最上級魔法のはずだ。
もちろんこれで終わったとは思えないが、かなりの手傷を負ったはずだ。
しかし・・・。
「ぬるいな・・・。」
立ち込める炎からゴルベーザの声がした。
もちろんそれは了解していたが、セシルはゴルベーザ姿を見て愕然とする。
まったくもって平然と立つゴルベーザがそこにいた。その甲冑こそ燻っていて、
マントが跡形も無くなくなっていたが、中身はまったくダメージを負っていないとセシルは感じた。
「ふん、それくらいで死ぬとは思ってらんわ!!」
テラはこの結果を分かっていたのか、まったく驚きの表情がなかった。
テラはまたすぐさま魔法の詠唱をする体勢に入る。
「無駄なことを。しかしこれで終わりだ・・・。」
ゴルベーザもそう言って魔法の詠唱に入った。
間髪ながらテラの魔法の方が先に完成する。
「すべての水を守護する水のクリスタルよ、その力全てを活かし、氷の裁きを放て!!」
魔法が完成するとゴルベーザの足元が一瞬にして凍り付き、
そして頭上からゴルベーザの身長の倍はある大きさの氷柱が無数に落ちてきた。
辺りにはすさまじい冷気と、無数の氷の破片が散乱した。
「『ブリザガ』だ・・・。」
セシルはそのすさまじい光景にあっけを取られながら一つの魔法名をつぶやく。
「セシル殿、ブリザガとは?」
ヤンがセシルに魔法の素性の説明を促す。
「氷の属性魔法の最高峰にあたる魔法だ。さっきのファイガに続けてこんな魔法を放てるなんて・・・。」
そうセシルは言って戦局に再び目を凝らした。
「ふふふ・・・、老いぼれにしてはよくやった方か。」
すさまじい冷気の中、再び声がした。
「ばかな・・・。」
セシルはそう一言つぶやいた。
セシルももちろんだが、それ以外の二人にも絶望の表情が伺えた。
だがセシルはその他に、ゴルベーザの言葉に冷たいものを感じていた。
そしてその予感が正しかったことを次の瞬間証明される。
ゴルベーザの魔法が完成したのだ。
「地獄の狩人よ、そこに刈られるべき魂が在る。すぐさま刈り取れ、そして地獄の冥王に献上せよ!!」
「まずい、『デス』じゃ!!」
シドがゴルベーザのルーンを聞いてすぐさまそう叫んだ。
「なんだって!!」
セシルはシドに面を向かって言う。
なぜなら、その魔法は人を一瞬にして死を与える一撃必殺の魔法だからだ。
この魔法の抵抗に失敗した者は、たちまち全身の器官が停止し、血は巡らなくなり、死に至る。
間接攻撃として魔法はよく使われるが、戦士にとってこの魔法以上に無念な死に方をする魔法はないだろう。
しかし、なぜシドがルーンだけを聞き分けて魔法を判断できたのか知りたかったが、
場合が場合なだけに聞くことができなかった。
そんなことを頭の中に描いているセシルに急な展開が訪れる。
「何!!」
ゴルベーザが低い声でうめく。何事とセシルを始め皆が再び戦局に目を見張る。
すぐにセシルたちも異変に気付いた。
テラの周りに薄い光の粒子の膜が張られているのだ。
「おのれ小賢しい!『リフレク』を張っていたとは!!」
そう言うとゴルベーザは対魔法のための精神集中のため身構える。
なぜなら『リフレク』の魔法はその唱えた魔法を術者に撥ね返す魔法だからだ。今度はゴルベーザに死の危険が迫る。
「これで終わりじゃ、ゴルベーザ!!」
テラはそう言うと追撃の魔法を唱えはじめる。さすがにその顔に疲れが見える。
本当にこれが最後の魔法になりそうだとセシルも感じていた。
「おおお!!」
ゴルベーザはその身を裂かんとするぐらいの咆哮をあげた。
どうやら魔法の抵抗に成功したようだ。ゴルベーザは二つの足でしっかりと地を支えている。
だが、ゴルベーザに休む時間を与えないかのごとく追撃の魔法を完成させた。
「すべての大気を司る風のクリスタルよ、その力全てを活かし、裁きの雷を下せ!!」
すさまじい轟音とともに雷がゴルベーザを直撃、それと同時に電流の奔流が辺りを包んだ。
まばゆいばかりの閃光がセシルたちの目を焼く。その時セシルは、これで終わりにしてくれと心底願っていた。
「どうなった・・・。」
セシルは顔を覆っていた腕をよけ、ゆっくりとゴルベーザがいた場所を凝視する。
そこには最悪な結果があった。
ゴルベーザは立っていた。
「そんな・・・。」
がっくりとセシルはその場に膝を落とす。
「考えたくはなかったが、やはりな・・・。」
息を切らし、片膝を落としたテラが言う。言動から見るとテラはこの結果を予測していたと思わされる。
「老いぼれ、このゴルベーザをここまでけなした罪、重いぞ・・・。」
「けなすだと・・・。ワシはけなすために戦っているのではない。
 貴様を地獄に落とすために来たのじゃ・・・。アンナのためにな・・・。」
息を切らしながら、途切れ途切れにテラは言う。
「ふっ、だが残念なことに地獄に落ちるのは老いぼれ貴様だけだ。」
「メテオを使う時がきたか・・・。」
つぶやくようにテラは言う。
もちろんセシルはその言葉を聞き逃さなかった。テラの呟いた魔法は試練の山で手に入れた究極破壊魔法であり、
その魔法は天より隕石を召喚するだけあり、膨大な精神力を消費する。
テラはここに来るまでメテオを数回試みたが、一回も成功したためしがない。
「わしの命を全て精神力に換えれば行使できるかもな。」と冗談めかしに言っていたが、まさにその冗談が現実になろうとしていた。
「やめるんだテラ!!」
セシルはテラの顔に死の覚悟が見て取れた。だから有らん限り精一杯叫んだ。
「無茶な、そなたの方が持たぬ!!」
ヤンもセシルの後方から叫ぶ。
「やめるんじゃ、老いぼれジジイ!!やったらぶっとばすぞ!!!」
シドは愛用の木槌を振り回しながら叫んだ。
「この命、全て魔法力にかえても、貴様だけは倒す!」
そう言うと、落としていた片膝を元に戻し、魔法の詠唱に入った。
「貴様は、すでに魔法力は尽きているはず。究極の魔法『メテオ』なぞ、ハッタリにすぎん。小細工だけでこの私は倒せんぞ!」
その言葉を聞いたテラは不敵な笑みをこぼす。
「天空に散らばる数多の星々よ、我が声に耳を傾けるのだ。幾閃光年の時空を越え、今ここに召喚されよ!!」
魔法は完成した。
「なんだと!!」
ゴルベーザは魔法の完成が信じられないせいか、一瞬我を失い立ちすくんだ。
しかしすぐさま対魔法のために腕を胸元に交差させ、防御の姿勢を取り、精神を集中させた。
そしてそれと同時にゴルベーザの頭上にこれでもかというほど燃え盛る隕石群が大量に降ってきた。
ゴルベーザの姿はすぐに見えなくなり、視界にあるのは止めども無く落ちて来るメテオとその破壊の様だった。
セシルはこの光景をみてこの魔法の恐ろしさ、封印されし魔法の実態を知ったように思えた。
それほどこの魔法はすさまじいものにセシルには見えたのだ。
メテオの勢いがどんどんと弱まり始めた。それに合わせ、ゆっくりと全景が現れはじめる。
そして見えたのはゴルベーザが地に伏せる格好で倒れている光景だった。
当たり前だとセシルは思った。あんなすさまじい魔法を食らって形がはっきりと残ることでも不思議であるくらいだ。
しかしセシルはなぜかゴルベーザの死を確認したかった。頭ではもう生きているはずが無いと思っているのに、なぜか・・・。
ゆっくりとした歩調でゴルベーザの死体と思われるところまで行く。
その瞬間。
「まさか・・・。本当にメテオを使うとはな・・・。」
死体と思われたものから声が発せられた。
「そんな馬鹿な・・・。」
ヤンが絶望的な声で言う。もちろんゴルベーザが声を発した瞬間セシルも歩みを止めた。
ゴルベーザはよろめきながらもゆっくりと立ち上がった。しかし、やはりメテオは致命傷になっていた。
甲冑の片の部分が外れ、仮面もまた血まみれになっており、足元には多量の血が床を赤く染めていた。
「早くこの場から離脱せねば・・・。ぐはっ!!」
言葉とともに大量の血が吐き出され仮面の隙間から流れ落ちた。
「まて!逃がさないぞ!!」
セシルは剣を高く掲げながら、ゴルベーザに向かった。
(これならゴルベーザを討ち取れる。)
セシルの心の中ではこれで最後だと認識した。
「ぐっ、なめるなぁ!!!」
そう言い、ゴルベーザは手を前に掲げ魔法を詠唱した。
「すべての大気を司る風のクリスタルよ、その力全てを活かし、裁きの雷を下せ!!」
魔法は完成した。すさまじい稲妻がセシルの体を貫いた。
「ぐはっ!」
ゴルベーザが魔法を詠唱しているのが分かっていたため、
セシルは対魔法のために精神を集中していたが稲妻の魔法の最上級魔法で、
しかもゴルベーザの巨大な魔力が加わるとなると、さすがに自分の精神力の許容範囲を超えていた。
すさまじい電流がセシルの体を駆け巡った。手足が麻痺し言うことを利かない、体を起こすことさえままならない。
セシルはゴルベーザの放った『サンダガ』だけで戦闘不能状態に陥った。
(殺られる・・・。)
セシルの脳裏にその一言が横切った。
止めをささんとばかりにゴルベーザは掌をセシルに向けて掲げた。
しかし・・・
「おまえは・・・。」
ゴルベーザはセシルの顔を見て怪訝な表情を浮かばせ言う。
ついさっきまでセシルに止めを刺す魔法を詠唱していた口元まで止まり、掲げていた両手もゆっくり降ろした。
「おまえはいったい・・・、ぐっ・・・。」
ゴルベーザはそういうと全身の痛みから苦悶の表情を浮かべる。
「今回のところはクリスタルが手に入ったため、これでよしとしよう。退くぞ、カイン!」
後ずさりながら回帰の呪文を唱えながら言う。
「・・・・・・・。」
しかし当初のカインの返事が無い。
「くっ、メテオの衝撃で術が解けたか。まあいい、おまえをもう用済みだ・・・。」
そう言うと同時に魔法が完成し、ゴルベーザの姿はゆっくりと景色の中に溶け込んでいった。
「大丈夫ですか、セシル殿!!」
ヤンとシドが同時にセシルのところまで駆けて来る。
少し距離があったためか、ヤン達がセシルの所まで駆けて来る間、セシルの体の痺れは徐々に和らぎ、
セシルの元まで到達したころには体を動かせるところまで回復した。
「ああ、なんとかね・・・。」
セシルは笑顔をつくって答えた。
「さすがにメテオは効いたらしい。」
そう言いつつセシルはゆっくりと立ち上がる。
「それよりもテラ!!」
セシルは、はっと顔を上げテラに目をやる。テラはうつ伏せに倒れていた。
すぐさま皆がテラのもとへ駆けつけた、そしてセシルはゆっくりとテラの上体を起こす。
「倒せなんだか・・・。」
テラは一言言う。しかし、その声には生気はなく、目も閉じており、彼の死が間近なのは誰の目にも明らかだった。
「しゃべるんじゃない!テラ!」
セシルは叫ぶ。
しかし、テラは話し続ける。自分の死が間近に迫っているのが分かっているために。
「やはりミンウの言う通りだった。怒りに身を任せ、戦った結末がこれだ・・。
 セシルよ、もしできるならばアンナの仇を討ってくれ・・・。」
そこでテラの肩の力が抜け、腕が地に付いた。テラの命がここで尽きたのだ。
セシルはテラの手を握り締めた。
「テラ・・・、アンナの仇はこの僕らが必ず討つ!」