FINALFANTASY−英雄王−中編


蒼い青空が広がっている、そして眩い日光がアレクサンドリア城の尖塔の美しさを讃えていた。
アレクサンドリアは別名『クリスタルハイランド』といわれ、煌めく城のクリスタルと、美しい湖の湖畔を地域とし、さらに高い山頂にあるが故に命名された名だ。
他にも『聖なる国』、『法と秩序の国』とも言われている。
そのクリスタルの塔の目の前に一人の老人と一人の青年、そして二人の女性がたたずんでいた。
青年は『最後の英雄』ジタン、二人の女性とはここアレクサンドリアの女王ガーネットそして、『隻眼の白騎士』として世界に名を轟かせているベアトリクスだ。
老人はアレクサンドリアの宮廷魔術師で、名をアレヴァスといった。
国歴や伝説、魔術といったさまざまな事柄に幅広い知識を持ち、また白魔法、黒魔法を極めた老魔術師である。
だが、それは過去の話であり、今では高齢が故、『メテオ』、『フレア』、『ジハード』といった高等魔法は行使できなくなっている。
その老魔術師がゆっくりと口を開いた。
「着きましたぞ、ここがわが国の守護神アレクサンダーが宿るクリスタルでございます。」
アレヴィスが指したクリスタルの塔をジタンは見上げる。透き通った強大な塔に圧倒されそうになる。
「一体、誰が作ったんだろうな、こんな大きいもの。」
ジタンが率直な感想を漏らす。
「詳しくは知らないけど、はじめから存在したものらしいわ。」
「しかし、ある大魔術師が創り出したとも、言われております。」
ガーネットはジタンに、そしてアレヴィスはガーネットの言葉にそれぞれ応える。
「私はそういうのに疎いから、なんとも言えませんが。どちらの話にせよ、伝説が故に断言はできないでしょうね。」
ベアトリクスが冷静に言う。
「そろそろ、試練始めてもいいんじゃないか?」
ジタンが唐突に言った。
「まあ、ジタン殿そう急かさず、気持ちを落ち着かせ、精神を統一して下さい・・。」
老魔術師がジタンを窘める。ジタンは「分かった。」といい、二、三度深呼吸をしてから「これでいいか?」と聞いた。
「ええ、充分でございます、後はこのクリスタルの塔に手を当て、我が魔法を受け入れて下され。」
老魔術師の言葉にジタンは頷き、最後にガーネットへ言葉を投げかけた。
「行って来る。そして必ず帰って、君を奪いに来る。覚悟しろよ!」
ジタンはそう言って悪戯っぽく微笑んだ。
「覚悟を決めとくわ、だけどあんまり長すぎると忘れてやるんだから!」
ガーネットも強きに言い放つ。
その言葉にジタンは「分かった、俺も肝に銘じておくよ。」といい手を振った。
ガーネットも手を振って答える。
「気を付けて・・・・。」
最後にガーネットは消え去りそうな声で言った。
ジタンはそんなガーネットをしばらく見つめる。そして視線を目の前のクリスタルに戻し、目を閉じてクリスタルに手を当てた。
「いいぞ。」
ジタンが短く言う。
「では・・・。わが国の守護神アレクサンダーよ、この国の王に望む者ここに在り、法と秩序を司る神として、聖なる審判をこの者に下せ!公平なる審判と試練を与え、闇を消し去り、聖なる祝福を与えたまえ!」
「我が守護神の住まう、聖なる国への扉をいざ開かん!」
「『デジョン』!!」
魔法は完成した。ジタンの姿がゆっくりとクリスタルに飲み込まれてゆく。
「必ず帰って・・・。」
ガーネットはジタンの姿を見て、祈った。
ジタンもまた、吸い込まれてゆくのと同時に意識が闇に溶け込んでいった。

「ここは・・・。」
ジタンがやっと気づくと、そこは真っ白の何もない世界だった。
また、宙を浮かんでるような錯覚さえして、上下の区別も分からなくなっていた。
「ようこそ、永遠の闇を倒した英雄よ・・・。」
周りの異常さに呆然としていたジタンに背後から声がかかる。
唐突のため、一瞬驚いたがゆっくりと静かな口調のため、激しくは動揺しなかった。
振り返ると美しい銀髪の女性が立っていた。
「あなたは?」
「大方気付いていると思いますが、私こそがアレクサンダーの核、いわゆる本体です。」
そう言い、アレクサンダーはゆっくりとジタンに近づいてきた。
「まあ、会いに来たわけだからね。ただ一応聞かないとな。想像とはかなり違ったし・・。」
恥ずかしがりながら、ジタンは言う。
「そうでしたか・・。私もこの試練を受ける者があなただと思いませんでした。最後の英雄と称えられしジタンよ・・。」
アレクサンダーは少し微笑みながら言う。
「早速で悪いけど、『試練』を早くしてくれないか?俺には待っている人がいる。」
「分かっています。では早速行いましょう・・・、試練は精神と肉体的試練の二つ。最初はここ、精神世界での試練を受けてもらいます。」
「ここは精神世界ということは、これは俺の肉体ではないのか。どうりで妙な違和感があったわけだ。」
ジタンが自分の体に手を当てて、存在感を確かめる。
なるほど、自分の体に触れないし、存在感もまったく感じない。
「ではいきます。本当に見舞える時を待っています、その時までしばしのお別れです。」
そう言うと、アレクサンダーの姿がゆっくりと消え始めた。
「おいおい、具体的にどうすればいいんだ!」
消えかかるアレクサンダーにジタンは呼びかける。
「耐えて下さい、・・・そして自分の闇に打ち勝って・・・。」
そこまで言うとアレクサンダーの姿は完全に消え、そしていきなり白の世界が黒の世界に変わった。完全なる静寂と、漆黒の闇。
「おい、どうすればいいんだ!どうすれば・・・。」
ジタンの声はむなしく闇に吸い込まれ、消えていった。闇との長い戦いが今始まったのだ。
どれくらいこうしただろう、一週間?一ヶ月、いや一年か?
まったく思考が分断され、考えることもできなくなってきた。自分の存在さえも希薄になってきたような気がする。
その時不意に声がかかった。
いつもの言葉だ・・・。
「お前は人を助けることに理由はないと言うが、本当にそうなのか?密かにお前は見返りを期待しているのではないか?」
「お前のしてきたことは偽善そのものではないのか?自分をずっと偽ってきたのではないか?」
「お前はガーネットを心から求めているのか?王女が故に求めているのではないか?実は女は誰でも同じを思っているのではないか?」
「お前は生きることに強い意志を見いだしているようだが、本当は永遠の闇の言葉に少し心が揺らいだのではないのか?なにもなければいい・・、なにもなければ破壊は存在しない、誰も悲しまない・・・・、悲しませる存在もなく、悲しむ存在もなくなる。」
様々な意識の奔流がジタンを襲い、精神を蝕んでいった。
精神の衰弱から生み出された幻想なのか、本当の自分の本心なのか・・・、すでに判別はできない。
永遠に繰り返される闇からの声がジタンを闇に葬ろうとする。
「さあ、苦しみから解放されたくはないか?無こそが真理。無こそが生きる者が求めるもの。涙を流す必要もない、勇気を奮い立たせる心強さもいらない・・・、全ての記憶を闇に預け、無に還ろう・・・・。」
闇がジタンを誘うかのように語る。
「涙・・・・、勇気・・・・・、記憶?」
存在が消え去りそうなジタンに、一瞬だけ思考が取り戻されかける。
「あふれる涙は・・・・・、輝く勇気に変えて・・・・・。」
なんだろう、聞いたことがある。懐かしい、言葉・・・・。
「記憶・・・・。空に預けた・・・・、誰が?」
誰だろう、どういう意味だったろうか?大切な人だったような気がする。
「ばかな・・・、もう少しで消え去ることができるのに何故?」
一つ思い出した・・・、歌だ。あの女の子が歌っていた、大好きな歌。
誰だったか?・・・・まだ思い出せない。
「ええい!消え去るのだジタン。何も思い出さなくていい。無こそ永遠の楽園。」
闇からの言葉にジタンは凄みを感じさせる。だがその言葉がジタンにさらなる存在感を与えさせた。
「確か、忌むべき事があった・・・。永遠の・・・闇?」
「その時、居た・・・・。黒魔法の使い手・・・・、弱気で・・・・、でも芯は強くて生きることの意味を探り当てた・・・・。」
「歌の女の子も居た・・・・、優しくて・・・、でも勇気が人一倍にあった・・・。そして人のために涙をよく流してくれた・・・・。」
ジタンの頭の中でその言葉が繰り返される。
「無に還るのだジタン!!」
更に迫る闇からの声。しかしその声は当初のジタンには聞こえていない。
記憶の断片が少しずつ頭の中で一つの形のなろうとしている。
「・・・・ビビ・・・・?・・・・・ダガー・・・・・!」
ついに思い出した。そしてその名を思い出せると同時に一気に忘れかけた自分の記憶を取り戻していった。
いつも堅い表情をして何かとうるさいスタイナー、竜の心を片時も忘れず、竜騎士の誇りを常にもっていたフライヤ、戦いと勝負に生き様を感じてたサラマンダー、無邪気でませてたエーコ、食を極めようとするクイナ、世界を破壊し、生きることの意味を失っていたクジャ、シド大公やフラットレイ、タンタラス団のみんな・・・・。様々な人の顔・・、そして冒険の日々を思い出していった。
更に声の主も。それは忌むべき、生を否定する魔物。
「いい加減にしろ、永遠の闇。」
ジタンが殺気じみた声で言う。
「完全に自分を取り戻したか・・、今はここまでのようだ・・・。」
声がそう言うと、暗闇は一瞬で消え失せ、そしていきなり我に返った。まるで、悪夢から目覚めるように。
ジタンは目を開け、上体を起こし辺りを見渡した。
そこは地面、天井全てがクリスタルでできた空間だった。
長時間、目を閉じていたため、なかなか眼が景色をはっきり映し出さなかったが、徐々に目は慣れてゆき、そしてある程度慣れてから、手のひらを何度か握り存在感を確かめた。
「どうやら、一つ目の試練は終わったみたいだな・・・。」
自分の存在が確かなものと確信すると、一つ大きく息を吐き呻くように言った。
「また再会できましたね、ジタン。」
優しい女性の声がジタンにかかった。
「なんとかね、アレクサンダーさん。」
少々ひねくれた感じでジタンは言う。まさに、自分は闇に飲み込まれる寸前だったのだ。勿論、それが死へと繋がるのは理解してたし、それが試練だと頭では分かっていたが殺そうとしたものが目の前にいるとやはり悪態の一つでもつきたくなる。
「申し訳ありません。ですがこれこそが試練、そしてそれがあなたの心の闇なのですよ。実際あなたは闇に打ち勝ち、更に強靱な精神を身に付けることができたのです。」
アレクサンダーは謝罪をしながら言う。
「で、次の試練は?」
ジタンが話を切り替える。アレクサンダーの話では次は肉体的試練の筈。
「次は私と戦ってもらいます。ただし、これは試練を言うより修行と言ったほうが適切かも。」
アレクサンダーは言う。
「修行?何を覚えさせるんだい。俺の苦手な魔法か?」
ジタンが内容を聞く。
「いいえ、あなたには剣術を身に付けてもらいます。王たるもの剣を使えなければなりません。しかも戦闘能力でも剣は短剣より遙かに長けています。」
アレクサンダーは淡々と言う。
「剣術を?確かに短剣を持つ王なんか聞いたこともないし、剣の方が短剣より強いのは知っているけど。」
ジタンは持ち武器が変わるのに困惑する。
実際、剣は短剣より遙かに強い。短剣には体重をかけるのに限界があるのに対し、剣は非常に体重をかけやすく、力も入れやすい。これがどういうことを示すかというと、短剣と剣のぶつかり合いでは、短剣は一瞬にして弾き飛ばされ、また剣の斬撃に対して短剣では殆ど受け流しができないところにある。
また、剣の方が長さでも優位に立ち向かえることができ、大剣でない限り懐に潜られる心配はない。
更に剣の多種多様な技の数々も魅力の一つだ。
せめて、剣より勝っているのは使いやすさと、命中度の高さぐらいでないだろうか。
しかし、基本的に近づけなく、そして致命傷を与えづらい武器はやはり不利には違いない。
「残念ながら、拒むことは許されません。これも試練ですし、何よりもあなたのためです。」
アレクサンダーが否定を認めないことを感じさせる発言をする。
「分かったよ。で、俺の剣は?」
ジタンが観念して言う。
「この剣を使って下さい。『アポカリプス』という名剣ですよ。」
アレクサンダーがジタンに真紅の剣を手渡す。
「やっぱり、重いな・・・。」
多少、慣れない剣の柄を握り直りながら言う。
「準備はいいですか?いきますよ。」
アレクサンダーはそう言うといきなり襲いかかってきた。どうやら、実践から学ばせるらしい。だが、剣の握り方も知らないジタンがアレクサンダーに修行の中断を持ちかけるのは、これから数分後のことだ。
果てしない修行の日々が今日から始まる。
修行を始めてから三年は経ったとジタンは思う。
まさしく剣だけの修行。おかげさまで一流の剣士以上の技を身に付けることができたと自分では思っている。
そのためには何度も死にかけた。実践さながらの修行のため寸留めという言葉はない。
瀕死になってはアレクサンダーから回復魔法最上級の『ケアルガ』をかけてもらい。また、修行。その繰り返しである。
今も銀髪の娘と剣を交えている。
「あなたには剣の才能があるみたいですね。すでにあのベアトリクスと対等に戦えるほどの剣術を身に付けました。たった、三年弱でアレクサンドリア剣術の極みまで修得したのです。」
アレクサンダーはジタンと剣を交えながら言う。
「確かに、あんなに死にかけたんだ。それくらいの代償はなくてはね。」
ジタンがそう言いつつ、素早い三段攻撃を仕掛ける。
「まさしく、そうかもしれませんね・・・。」
アレクサンダーはそう言うとジタンの攻撃を体を少しずらして身をかわし、そして剣を激しく当て、鍔迫り合いを挑む。
しばらく力のぶつかり合いが続いたが、不意にアレクサンダーは力を抜きバランスを崩した。
前のめりするジタンにアレクサンダーは鋭い斬撃を浴びせようとする。
しかし、ジタンはその行動を予測し、すぐその場で踏みとどまり、剣が振り下ろされる寸前に一歩下がって身をかわす。
そして逆にジタンは剣を振り下ろして隙を見せたアレクサンダーに、素早い突きを繰り出した。
だが、その突きは難なくかわされ、さらにアレクサンダーの剣が下から強くはじき、その衝撃に耐えられなかったジタンの剣は宙に舞った。
「まいった。」
ジタンは荒い息をして、その場にしゃがみ込む。
アレクサンダーもそんなジタンを見て、剣を下ろし回復魔法をかけた。
「すまない。」
「いえ、よく頑張りました。どうやら私の修行はここまでのようですね。」
アレクサンダーは修行の終わりをいきなり告げる。そして、「最後の試練を受けてもらいます。」とその後に付け加えた。
「やっと終わりか。長かったな・・・・。だけど最後ということは一番危険な試練だろうな。」
ジタンが覚悟を決めながら言う。
「その通りです。この試練こそが全ての答えであり、そして過酷です。この試練に負けた場合、あなたは確実に死ぬでしょう。」
アレクサンダーは冷静に言う。
「しかし、あなたの力を私は信じています。実際ここまであなたは初代アレクサンドリア王より、短期間で終わらせています。きっと成功するでしょう。ただ、力を過信せず、そして焦ってはなりません。」
「ああ、わかっているさ。ここまで来て死んでたまるか!」
ジタンは拳を握りしめ、力強く言う。
「その言葉を聞いて安心しました。この試練は長くはありません。私との一戦ぐらいの短さでしょう。ではいきます。必ず打ち勝って下さい!自分の心に住まう『永遠の闇』に!」
アレクサンダーがそう言うと、周りの景色が一瞬にして変わった。
見たことのある光景だ。勿論この景色は忘れはしない。全てを無に還そうとした生きる者全ての敵『永遠の闇』と戦った場所だ。
「少年よ、久しぶりだな・・・。」
景色から過去の戦いを見いだしていたジタンの頭上から声がした。
すぐさま、上を見上げる。
「やはり、あんたか・・・。」
ジタンの予想通り、宙に浮かんでいるのは『永遠の闇』に間違いなかった。
ジタンを見つけた永遠の闇はゆっくりと語り始めた。
「我こそは永遠の闇。生きるものが居る限り、死が存在する限り我は存在する。」
「だが、我はおまえに敗れた。生きる意志の強さとやらに・・・・。」
「そして、おまえの精神世界でも我はおまえを無に帰すことができなかった。」
「ならば、闇の力を取り込み、おまえを消し去ることにした。闇の力はお前の闇の部分から吸収し、我が力となった。すなわち、我こそがお前の闇の部分そのもの・・・。」
「我がお前の息の根を止めたとき、闇の力が証明され、生きる意志の弱さを死を持って痛感することのなるだろう。」
「我は永遠の闇、この世に無をもたらす救世主なり。」
永遠の闇は最後にそう言うといきなり魔力を集中し始めた。
「好き勝手言いやがって!生きることの意志の強さ、そして死ぬだけのために生きているわけではないことを証明してやる!」
ジタンは剣を鞘から抜きがら言い放ち、永遠の闇に立ち向かう。
「次元に狭間にうごめく破壊神よ、大地を漆黒に染め上げよ!」
永遠の闇の魔法が完成した。
目標であるジタンにその手をかざす。
強烈な光と耐え難い熱がジタンを襲った。フレアの魔法だ。
ジタンは腕を交錯させ、対魔法のために体内のマナを活性させ、防御した。
からくもフレアの魔法は押さえたが、次の魔法が飛び交う前にジタンは決着を付けることにした。回復魔法も知らないし、防御魔法も修得してないがために。
ジタンは永遠の闇に一気に近づき、素早く剣を繰り出した。
目標が大きいため、失敗を気にせず大きく振りかぶる。そしてそのまま渾身の力を込めた斬撃を見舞い、振り下ろした剣を横に真一文字に振るい永遠の闇の体を切り裂いた。
「愚かな、我はその程度では滅びぬ。」
永遠の闇はそう言うと魔法を再び詠唱し始める。
「我に命の息吹を与えよ、願わくば魂の活性を!」
「天空に散らばる数多の星々よ、我が声に耳を傾けるのだ。幾閃光年の時空を越え、今ここに召喚されよ!!」
永遠の闇は一度に魔法を二つ完成させる。
一つ目の魔法で自身の体の傷は癒え、二つ目の魔法で上空からメテオが降ってきた。
巨大な隕石がジタンに直撃した。
体を押しつぶそうとする重圧、焼き尽くそうとする灼熱の炎。
これらがジタンを苦しめ、命を削ぎ取ろうとする。
「くっそー!!死んでたまるかー!」
ジタンは防御の姿勢を取りながら叫んだ。身を引き裂かんとばかりに。
ジタンはメテオもフレアに続き耐えて見せる。
「死こそ、真理。我が導き出した絶対的答え。」
永遠の闇はそう言いつつ、再び魔法を詠唱し続けた。
「天空を支配する神々よ、不浄なる地上に浄化の光をもたらせ。聖なる光で埋め尽くすのだ。」
「闇を司る暗黒神よ、この世に暗黒をもたらせ。邪悪なる闇で埋め尽くすのだ。」
また同時に魔法が完成する。
聖の究極魔法『ホーリー』と、対極する闇の究極魔法『ジハード』。
相反する魔法がジタンに地獄の苦しみと、苦痛を耐え、血が沸騰するような激しい熱と、全ての血が凍り付くぐらい強力な冷気を同時に襲われているような感覚がジタンの命を消し去ろうとする。
急速に失われてゆく腕の力、霞んでゆく眼、激しい魂の鼓動。
死が近づいているのがはっきりと分かる。
だが、死ぬつもりもないし、負けるつもりもない。
必ず、自分はあの場所に帰るつもりだ。
必ず・・・生きる。
「うおおおおおー!」
そうジタンは決心すると体はひとりでに動いていた、雄叫びを上げまっすぐ剣を構えそのまま、永遠の闇に突き刺す。真紅の剣は柄まで永遠の闇の体に埋め込まれ、更にジタンは剣をそのままにして魔法を詠唱し始めた。
究極魔法『アルテマ』を。
「地水火風を司る精霊達よ、聖を守護する天空の神よ、闇を司る冥府の神よ。全てを凌駕する究極の力をここに示せ!」
魔法はすぐさま完成した。
永遠の闇に向かって、血みどろの両手をかざす。
発動した幾千の魔法の矢が永遠の闇を貫き、膨張した魔力が体を粉々に吹き飛ばしていった。
「我は、これぐらいで消えぬ・・・。無こそが・・・・。」
永遠の闇は粉々になった体を再生しながら言う。
「地水火風を司る精霊達よ、聖を守護する天空の神よ、闇を司る冥府の神よ。全てを凌駕する究極の力をここに示せ!」
再び、ジタンの魔法が完成する。
魔法の完成と共にジタンの口から大量の血がこぼれ落ちる。
「馬鹿な!アルテマの魔力消費は想像を絶するはず、ましてや魔法を苦手とするものが二回連続発動など・・・。」
永遠の闇が更に細切れになってゆく、破壊に対し再生が追いつかなくなっていた。
「しかし・・・。まだ、我は・・・。」
消滅しかけている永遠の闇がそう言いかけた途端。
「消えろーーーーー!!」
ジタンが完全に怒り、咆哮にも似た大声を上げた。
「地水火風を司る精霊達よ、聖を守護する天空の神よ、闇を司る冥府の神よ。全てを凌駕する究極の力をここに示せ!」
まさに最後の魔法となった。
片膝が地に落ちようとも、体内の血を出しきっていてもジタンの両手は永遠の闇に向けていた。
最後に放ったアルテマは文字通り細切れとなった永遠の闇を、跡形も残らず消し去っていった。
眩い光の矢は永遠の闇の肉片全てを消し去り、行き場を失った魔力が一気に爆発し全てを破壊した。
「勝った・・・。」
全てが消え去り、闇との決着を付けたことを理解するとジタンはやっと一言そう言い、仰向けに倒れ意識を失った。
「ジタン・・・・、ジタン・・・。」
自分をしきりに呼ぶ声がする。すぐ目を開けたいが、体が言うことが聞かない。何故こんなに眠いのかも理解できなかった。
勿論、意識のはっきりとしないジタンにとっては、自分の名を誰が呼んでるかも見当もつかない。ただ、もう少しだけ眠っていたい強い気持ちが彼を支配していた。
「ジタン!大丈夫ですか?」
次に体を激しく揺さぶられ始めた。そのため多少は意識がはっきりとしてくるが、それと同時に体が悲鳴を上げる。何故かはまだ理解できない。しかしあまりの激痛のために意識は急激にはっきりとした。
目覚めるとあのクリスタルでできた空間に自分は居た。
心配そうに、銀髪の女性が自分の顔をのぞき込んでいた。
やっと理解した。闇との壮絶なる戦いと、死にかけた自分。
だがどうやら、自分は生きているらしい。
「く・・・、どうやら勝てたみたいだ。」
体の激痛に耐えながらジタンは言う。
「ええ、よくやりました。しかし、今は安静にして下さい。もう一度回復魔法をかけますね。」
アレクサンダーは回復魔法を何度も重複してかける。
それでも、全快しないのだから自分の体の壊れ具合がよく分かる。
実際よく生きていたと、正直に思った。
「心配しましたよ、肉体より精神の消耗が激しく、非常に危険な状態でした・・。」
「究極魔法を3回も連続で使いましたから、許容範囲を超えた魔力の消費をまさに命を代用にして行使したからでしょうね・・・。」
アレクサンダーが回復魔法をかけながら言う。
「まさに、命の魔法だな。」
ジタンが冗談ながらに言う。
だが、実際にやったジタンにとってそれは冗談とは言えない。
「しかし、やっと終わったな・・。」
ジタンは横になりながら言う。
「本当によく頑張りました。あなたの言うとおりこれで試練は終了です。」
アレクサンダーは穏やかな表情を見せながら言う。
「そして、これだあなたはアレクサンドリア王になれるわけです。」
「本当に苦労したぜ。」
満面の笑みを浮かべながらジタンは達成感に浸った。
「お別れの前にこれをあなたに差し上げます。」
アレクサンダーは輝く透き通ったクリスタルをジタンに手渡す。
「これは?」
ジタンが手渡されたクリスタルを見つめながら言う。
「それは『クリスタルのかけら』・・・。万物を創造したクリスタルのかけらです。」
銀髪の娘は受け取ったジタンの手を優しく握りしめ言う。
透き通った水晶のかけらはまさしく、過去に見たクリスタルと同じ感覚を感じさせた。
心に直接語りかけるような煌めき、見透かすような透明感。
「このクリスタルのかけらと、あなたの持つ武器『アルテマウエポン』を合成するのです。おそらく最強の剣ができるでしょう。」
「最強の剣?しかし、誰が作れるんだ、その剣を。」
ジタンがアレクサンダーに握られている手を気にしながら言う。
「名工師、ハーデス。」
アレクサンダーは意外な名前を言う。確か記憶の場所のみ存在して、実際に存在しない人物だと思っていた。
「本当にいたのか・・。だけど俺達が世界を回ったときにそんな場所はなかったと思うな。」
ジタンが思い当たる節々を頭の中で巡らせたが、やはりそのような場所はないと記憶する。
「普通にハーデスとは会うことができません。彼は禁呪をかけ、外界との接点を遮断していますから。」
ようやく、アレクサンダーはジタンから手を離す。
ジタンとしては名残惜しい。
「で、禁呪をかけている場所は何処だい、そして禁呪を破る方法は?」
ジタンは二つ質問する。
「場所はバイル島・・・。精霊の島とも呼ばれる場所です。その山奥に住んでます。」
「そして、解呪の方法は『デスペル』という魔術。」
バイル島は聞いたことがあるが『デスペル』と言う魔法の名は初めて聞いた。
「デスペルの魔法はどうやって覚えるんだ?俺は魔法苦手だぜ。」
ジタンの問いにアレクサンダーは首を横に振って言う。
「大丈夫です。すでにわが国の王女が修得しています。」
「ガーネットが!」
ジタンは驚きながら言い、そして久しぶりに口にした彼女の名前で、彼女への思いが鮮明に蘇っていった。
「そろそろ、お別れの時間が来ましたね・・・。」
そんなジタンをアレクサンダーは察して言う。
「ああ、色々ありがとう、アレクサンダー。」
ジタンは握手を彼女に求めた。
アレクサンダーもそれに答えて、両手でジタンの手を包み込んだ。
「良い国を気付き上げて下さいね、英雄王ジタンに聖なる祝福を・・・。」
そういうと銀髪の娘は優しくジタンの唇に自分の唇を重ねた。
勿論、女性からされたのは初めてで、しかもいきなりされたジタンは顔を真っ赤にして狼狽した。
「どうかしましたか?」
アレクサンダー自体は恥ずかしがる素振りは見せない。
「いや・・・、何も。」
ジタンは平常心を取り戻しつつ、またガーネットへの罪悪感を覚えながら言った。
「では、さようなら。再び相見舞える時を期待しています。」
転送の魔法を唱えながら、アレクサンダーは言う。
「俺もいつか会えると思う、その時まで!」
魔法は完成し、徐々にジタンの姿は景色に飲み込まれていった。
だが消えゆく中、ジタンは手を強く振り続けた、アレクサンダーの姿が見えなくなるまで。