FINAL FANTASY\英雄王外伝−焔の拳−【前編】 アレクサンドリア− 法の国として、幻獣神が守護する聖なる国として栄える世界三大王国の一つ。 また世界三大王国とは、アレクサンドリアを含み、竜の棲まう国としてブルメシ ア、空を支配する国リンドブルムを総して指す。 だが、今現在ブルメシアに至っては、かつての国力はまだ完全に取り戻していな い。 その原因としては八年前の忌まわしき戦役が挙げられる。 アレクサンドリアがこの両国を相手に戦いを挑んだのである。 当然、侵略戦争だが一方的な戦いであった。何故なら当時アレクサンドリア女王 ブラネには恐るべき力があったのだ。 それが『召喚獣』。 それぞれが巨大な力を持ち、時には大地を揺るがし、大地を焦がし、大地を凍て つかせる存在として畏怖されていた。 故にそれを召喚できる召喚士の一族はまさに驚異な存在といえる。 しかし、その召喚士一族も文献上の存在だと当時の魔術師、学者は口を揃えて言 っていた。 召喚獣をこの何百年姿を現していないために、また余りにも途方無い破壊力のた めにだ。 だが、その召喚獣の存在が皮肉にも戦争の道具という形で証明されることとなる 。 砂漠の国クレイラは戦神の放ったグングニルの槍で消滅し、リンドブルムは重力 を司る幻獣アトモスにより国土の半分をまさに”食われた”。 竜の国ブルメシアはブラネによる召喚獣でやられたわけではないが、銀髪の者が 召喚した怪蛇タイダリアサンにより、ほぼ壊滅状態となった。 海王リヴァイアサンと対なすタイダリアサンは山岳地帯にあるブルメシアにまさ しく滝の雨を浴びせたのだ。 天から注ぐ津波には成す術は無く、多くの者が流され、地域を水没させた。 故にタイダリアサンが去った後でも、当分の間ブルメシア一帯は暗雲が立ちこめ 雨が続いたのだ。 まさしく強力無比な召喚獣を手に入れていたアレクサンドリアにとって、世界の 覇権を握れることは容易いはずだった。 誰もが従順なる自らの召喚獣が暴走するとは夢にも思わなかったであろう。 竜王と呼ばれる召喚獣バハムートがアレクサンドリアに対して牙を向けるなど− 。 突然の戦死を遂げたブラネに代わり現女王ガーネットが即位したその夜、いきな りその狂える竜王が襲来しアレクサンドリアを地獄と化したのだ。 その後、守護神たるアレクサンダーの出現により国の崩壊を免れたが、大勢の死 者が出たことに女王は嘆き悲しんだと言われている。 それから約八年間、ガーネット女王は王不在のまま国政とバハムートにより傷つ いた国力を回復される。 国力は空前の回復を見せ、かつての栄華を取り戻すことに成功し、後に『忘れら れし英雄』とされるジタンがアレクサンドリアの玉座に就いた。 あの幻獣神の試練を打ち勝ち、初代アレクサンドリア王の再来とまで称され、『 英雄王』という俗称で民から慕われている。 即位してからジタン王はリンドブルム、ブルメシアと同盟を締結する旨を民に告 げ、その調印式も黒竜討伐から一ヶ月後に執り行われた。 尚、黒竜討伐も英雄王の伝説の一つとして既に吟遊詩人から謳われ、人々から絶 賛されている。 正体不明の魔物オズマの正体−ダークバハムートを倒した英雄讃は人々に勇気を 与え、その新たな伝説に感動した。 その英雄王が今、ここ兵士訓練所にいた。 一般にここは兵士達の剣を交じ合わせる実践訓練所でもあり、ある程度腕に覚え がある者でないとここでは訓練できない。 一応、剣同士の戦いであっても使われる剣は長剣の刃を丸くした物で、これで斬 りつけても切り傷は出ないが、実践さながらに振るわれる剣は軽い打撲では済ま ない。 運悪ければ腕を折り、更に運悪ければ意識不明の重体者さえ出た。 だが幸いと言って良いか死者は辛うじて出ていない。 「本気出してもいいぞ。」 やや息を荒くしながら現王ジタン・トライバル・アレクサンドリア一世は言う。 剣はライトブリンガーと呼ばれる、クリスタルの剣。アレクサンダーから賜った クリスタルのかけらと盗賊刀アルテマウエポンを合成した究極の剣である。 また、真剣勝負はここでは可能となっているものの誰もすることはない。寸止め する技術、腕をもっていなければ真剣での戦いは不可能であり、それほどの腕の 持ち主は今までアレクサンドリアの歴史上殆ど存在しないからだ。 王に対峙しているのは美しき白騎士。 「失望させるかも知れませんが、本気でございます。」 新たに編成された白騎士団の団長ベアトリクスは、愛用の長剣を構えつつそう返 答する。 『隻眼の白騎士』としてその名を知らぬ者なぞ存在しない、剣豪でもある。 「本当か?俺の知っているベアトリクスはこんなもんじゃなかったと記憶するぜ 。」 笑みをこぼしながらベアトリクスに言った後、ジタンは一気に踏み込み鋭い突き をベアトリクスに見舞う。 それを見極めたベアトリクスは体を捻らせて避け、逆に突きをジタンに繰り出し た。 しかし、ジタンもまた突きを喰らうことなく身をこなしてかわし、今度は胴を狙 った一閃を放つ。 ベアトリクスはその薙ぎ払いの剣を自らの刃で受け止め弾き、再び突きを狙う。 当然ならその突きをかわすべく剣で弾くか、受け止めるかするのだが、ジタンは その剣を牽制だといち早く気づき、すぐさま鍔迫り合いに挑むような振りかぶり の剣を浴びせる。 ジタンの読みは的中し、ベアトリクスは突きを止め頭部を狙った剣閃に変えて攻 撃してしまい、ぶつかり合った剣が鍔迫り合いに挑む格好となる。 「やっぱり、本気じゃなかったな。」 汗を額に若き王は口元に笑みを浮かべて言う。 「これが限界でございます。陛下。」 荒い息をしつつベアトリクスは目の前の若き王に答えた。 今度のベアトリクスの言葉は偽りでは無い。本心である。 最初は確かに助力を残した剣かも知れないが、先程の猛攻は自分にとってまさに 限界の攻撃であったのだ。 得意とする牽制も見切られ、得意の突きも命中すらしない。 「陛下は止めてくれ、みんなしかいない時はジタンでいい。」 苦笑を混ぜつつジタンはベアトリクスの言葉遣いを咎める。 王として示しをつけるべく、民の前や兵士の前では厳格に振る舞っているものの 、かつての仲間や知り合いの間では普通に接してほしいのがジタンの切望である 。 「分かりました、ジタン・・・様。」 ジタンの言葉にベアトリクスは応えようとするも、やはり持ち前の性格からか消 え去りそうな声で敬称を付け加える。 ジタンはその返答に再び苦笑するものの、性格上何となく無理と心の内で半ば諦 めていたため、それ以上咎めることはしなかった。 (夫の影響が出ているのかな?) ふとジタンはこの白騎士の夫の顔を浮かべる。 あの鋼鉄の騎士と結ばれたとは、エーコがいきなり大人になった事実と同じぐら いの衝撃が走ったものだ。 まあ、自分が盗賊風情でここの女王と結ばれ、更に王になったことを思えば、些 細なことかも知れないが。 だがジタンは考えをそこで止め、目の前の騎士に集中させた。雑念を持ちながら 勝てる相手ではない。 気持ちを入れ替えたジタンはすぐさま反撃を始めることにする。 鍔迫り合いの体勢からいきなり力を抜き、ベアトリクスの体勢を崩す。そして隙 の現れた頭部に鋭い剣を下ろした。かつてジタンがアレクサンダーからやられた 戦術である。 いくら死にものぐるいで修行してきたものの剣を握って三年しか経っていないジ タンがかわせた攻撃がベアトリクスに通じるはずがない。 案の定、ベアトリクスはその攻撃を見切っており、剣でジタンの攻撃を受け止め ようとする。 しかし、ベアトリクスはその行動をとったことに後悔することとなる。 実はその頭部を狙った斬撃は牽制であり、剣は頭から胴に軌道を変え繰り出され た。 ベアトリクスはその剣に対処することが出来ず、ジタンは剣がベアトリクスの胴 に命中する前に止めた。 「・・・・参りました。」 敗北したことをベアトリクスは荒い息をしつつ、告げた。 完敗である。いくら五年間厳しい修行をしてきたとはいえ、それまで剣を握って いない者からこれほどまでに完膚無きに敗れ去るとは思わなかった。 自分の家は代々アレクサンドリア王家に仕える上級騎士の家柄だが、男が生まれ ず、故に剣術は長女である自分に継がれることとなった。 幼少の頃から剣を習い、アレクサンドリア剣術は当然のこと我流剣術も昇華させ 、極めた。 アレクサンドリア剣術のみを極めるだけでも、殆どの剣士は太刀打ちできないで あろうが、同じアレクサンドリア剣術を身に付けた剣士との戦いでは、それこそ 持ち前の腕前が勝敗を分けるのだ。 それ故、我流の剣を身に付け、極めた。牽制などは特にそうだ。 自分の夫は確かにアレクサンドリア剣術を極めたが、あくまでそれだけだ。 悪いが十回剣を合わせて十本取れる自信はある。 あまりにもアレクサンドリア剣術に倣った剣筋のため、剣術を極めた者にすれば 攻撃などすぐに見切ることぐらい容易い。 それに対し自分の仕えるこの王の剣は違う。型はアレクサンドリアのものの、非 常に自由な剣だと思った。 牽制もそつなくこなし、鋭い突きもアレクサンドリア剣術の示すものと少々異な る。あくまで実践的な一撃必殺の剣と言っていい。 また、盗賊時代に培った洞察力と動体視力も強さの一つであろう。 いずれにせよ、今の自分では五本に一本程度ぐらいしかこの恐るべき王から取る ことが出来ないであろう。 「いや、流石『隻眼の白騎士』だ。強かったぜ。」 思案しているベアトリクスにジタンはそう言うと光の剣を鞘に収め、額の汗を袖 で拭った。 ベアトリクスも王が剣を収めるのを見て、自分の剣も鞘に収める。それから騎士 の礼に従い敬礼を一つし、王に近づいた。 「陛下、傷の方は負ってないですか?疲れていらっしゃるのなら癒しの魔法をか けますが・・。」 「いや、傷の方は大丈夫だ。魔法はガーネットにかけてもらうよ。」 横目でふてくされた表情のガーネットを見やりながら、ジタンがベアトリクスの 申し出を断る。 ガーネットは試合が終了したと同時に駆け出していた。 あれから一ヶ月、自分をあまり構ってくれないジタンに少し苛立ちを募らせてい るのだ。 確かに黒竜戦の後、国の方は自分に任せてくれとジタンは言っていたが、あまり にも国政に力を注ぎすぎて夫婦としての時間を疎かにしているのもどうかと思っ ている。 五年間も愛しい人を待ち続けたのに、帰ってきてもあまり変わらない実状には少 々腹立たしい。 アレクサンドリアの発展や、民のことを思えば黙ることしかできないが、ジタン にももう少し自分の気持ちも理解してほしいと思っている。 週に一回の謁見が休みの日である、今日もこの有様だ。流石に苛立ちを隠すこと なぞ出来ない。 「ジタン、もういいでしょ?」 回復魔法でジタンを癒しながらガーネットが言う。 声は物静かだが、その奥に潜む凄みは感じずにいられないジタンは作り笑いをす る。 「ああ。じゃ、たまには気晴らしにどっか行こうか?」 この頃ガーネットに構ってやってないことに悪いと思っているものの、王の仕事 がここまで大変だとジタンは夢にも思っていなかった。 この一ヶ月休みの日があっても政治や法を学んだいたり、または実務に追われる 毎日であったのだ。 故に鈍った体を動かしたいためにベアトリクスと剣の鍛錬を申し立てたのだが、 そのことについて更にガーネットの機嫌を損ねたらしい。 これ以上彼女に寂しい思いをさせるわけにはいかないと、ジタンはそう提案した 瞬間だった。 「やあ、ジタン。久しぶりだね。」 懐かしい声がジタンの耳に届く。 振り返ると長い銀髪が印象的な魔術士風の男が訓練所の入り口に姿を見せていた 。 「クジャ!」 八年前まではジタン達に対峙し、様々な悪の限りを尽くした彼だが、今は黒魔道 士の少年ビビの分身である子供達の父親代わりを努めている。 ガーランドから命の制限を宣告されたことにより、世を破滅に向かわせようとし たがジタン達がその野望を砕き、死に恐怖にかられたクジャの心を取り戻すこと に成功したのだった。 その後のテラとガイアとの融合も起きることなく、二つの世界は完全に違う次元 に存在することとなり、全ては正しい方向に導かれた。 ガーランドが言っていた命の制限もどうやら、一日、二日というわけではなく、 普通に暮らす分だったら普通の人間ぐらいの寿命があることも判明した。 「ビビの子供達は元気にしているか?」 父親とは似つかないやんちゃな黒魔道士の子供達を思い出しながらジタンは言う 。 「ああ、この上ないぐらい元気さ。今頃ミコトも手を焼いているだろう。」 苦笑を漏らしながらクジャが答える。 どうやら自分の留守中の子守はミコトに任せてきたらしい。 「ミコトは、相変わらず?」 クジャの登場に一瞬不機嫌さを現したが、ビビの子供達の話題にその気持ちも和 らいだガーネットが聞く。 あの無表情、無感情なジェノムの少女がどれくらい変わっただろうか? 「そう相変わらずさ。でもビビの子供達を相手しているから、無表情とまではい かないな。今頃、苦痛で歪んでいるかも。」 クジャが冗談交じりに言う。 ジタンとガーネットはその言葉で一瞬顔を見合わせ、忍び笑いをした。 確かにあり得る。 「でも、何の用で来たんだ?」 少々怪訝そうな表情でジタンがクジャの用件を聞いた。 「いや特に用というものはない。ただ、キミが試練に行ったと彼女から聞かされ てね。それで、今度の調印式を耳に挟んだんで恐らく帰ってきたんだろうと踏ん で顔を見に来たんだよ。」 彼女−ガーネットに一瞬視線を送りクジャが答える。 「でも、どうして調印式?戴冠式の時に来ても良かったのに・・。」 ガーネットがクジャに疑問を投げかける。 「あの大陸の離れた黒魔道士の村に、その情報が伝わるには何週間もかかるよ。 」 「だけど、今回は運良くリンドブルムの王女サマが僕たちの村に来て、飛空艇に 乗せてもらい会いに来たってわけさ。」 そのクジャの言葉にすぐさま二人は反応した。特に『リンドブルムの王女』とい う所にだ。 「まさか・・・。」 ジタンとガーネットが声を合わせてそう言った時だった。 「ジターーン!」 その彼等の予想を的中させるはつらつとした声が二人の耳を突く。 二人は恐る恐る振り返りその声のした所を見やると、紫がかった長い髪をリボン まとめ結っている少女がこちらに向けて全速力に駆けているが視界に入る。 リンドブルム王の養女として向かい入れられ、王女となったエーコである。また 容姿はあれから八年経った姿ではなく、幻獣界での時の差で約十三年経った姿で ある。 また、幼児期の魔力の補佐的役目をしていた羽と角は跡形もなく消滅し、幼少の 頃の面もちはほぼ存在しない。 確かによく見れば、昔の顔立ちを見いだせるかも知れないが、あくまで「言われ てみれば」の次元である。実際、エーコだと本人から言われたジタン、ガーネッ ト自体もなかなかその事実を受け止めようとはしなかった。 それほど急激なエーコの姿の変化は驚かされるのだ。 エーコはジタンの元まで駆けた後、まるで久しい恋人にあったかのようにその胸 に飛び込んだ。 ジタンもほぼ女性として完成されたエーコに抱きしめられ、少々心が揺らいだ。 だが、隣で見ていた最愛の妻から放たれる冷たい視線をすぐさま感じ取ったジタ ンはほのめかす言葉を口にしながらエーコを体から離す。 「自分としては不可抗力なのだ。」と心で訴えつつ。 「エーコは久しぶりって訳じゃないな。」 少々気まずい空気の流れを変えようとジタンが話を切り出す。 「そうね。」 ガーネットが放つ、ややとがった口調がジタンに突き刺さる。 (だから、不可抗力なんだ〜。) ジタンはひたすら心の中でガーネットに訴える。しかし口には出せなかった。何 故ならエーコの気分を害するだろうし、恐らくガーネットにも言い訳にしか聞こ えないと分かっているからだ。 「それにしても、今日は何の用なんだ?」 二、三日口を利いてくれないのを覚悟し、ジタンがエーコに問う。 「そうそう、お父さんから書状預かっているの。」 どうやらリンドブルム王女としての役割を担ってここに来たらしい。なら抱きつ きもせず書状を渡してくれればよいのだが、エーコ自体の性格からしてそれはあ り得ないことかも知れない。 故に今日が謁見の休みであることがこれ程恨めしいことはない。 謁見有りの日なら、厳格とした場所のためにエーコもリンドブルム王女として振 る舞うだろうし、ガーネットからも誤解を受けないで済むのだから。 ジタンは様々な思いを募らせながらエーコから書状を受け取り、蝋で封された所 にナイフを入れ、中身を取り出し書面に目を走らせる。 「ああ、分かった。そうシドのおっさんに伝えてくれ。」 読み終わったジタンはエーコにそう返答し、エーコは心得たかのように軽く頷い た。 「何だったの?」 ガーネットが書状の中身を聞く。 「ああ、国際会議の知らせさ。今度はここアレクサンドリアで開催するらしい。 」 国王の顔に戻りつつ、ジタンはガーネットに中身を簡潔に答えた。 恐らく話し合いの重点となるのはブルメシアの復興状況や、その対策であろうと ジタンは踏む。未だ国力を復帰させていないブルメシアは新たな国王フラットレ イ、女王フライヤの下、復興を全力で尽くしている。 一ヶ月前の同盟締結からアレクサンドリア、リンドブルムもブルメシア復興に手 を貸しており、ブルメシア復興も近い内に達成されるとジタンは期待していた。 また、王位継承権のあるパック王子が自ら継承権を放棄したのは言うまでもなく 、その理由として自分にはまだ手の終えない役割だと述べたためだった。 フラットレイ、フライヤもその王子の言葉にあまり納得しなかったが、『王子が 成人となるまでの仮の王』ということで二人を納得させた。 そう言ったものの、パック自身としては二人に不幸がない限り、国のことは任せ ようと思っている。自分には国王という銘は性に合わないし、自由を奪われるた めにだ。 出来れば、気ままな王子として人生を過ごしたいとさえ密かに思っている。 「こんな無骨な所で立ち話も無粋だ。俺達の部屋で積もりつもった話でもしよう か。」 書状の話はこれまでとばかりにジタンは話を切り替え、書状をベアトリクスに託 す。 その後ジタン達の私室に通されたクジャとエーコはジタン達と共に昔話や、近況 を語った。 ジタンはアレクサンダーの試練や、国を預かる者としての苦労話。ガーネットは 最近構ってくれないジタンへの愚痴などをこぼしたりしていた。 クジャは、ビビの子供達のことや、世話に手を焼くミコトの苦悩を面白可笑しく 語り、 エーコは王女としての堅苦しい毎日を過ごすのに嫌気をさしていると、不満の表 情を作りながら愚痴る。 しかしその態とらしいその素振りから、さほどその生活に嫌気をさしているとは 感じさせなかった。逆に血の繋がりがないとはいえ、自分をこの上なく愛してく れる父と母がいるのに幸せを感じている様子である。 「・・・・みんな、幸せそうだな。」 視線は懸命に喋り続けているエーコに合わせながらもジタンは笑みをこぼしなが ら、ガーネットだけに聞こえるように呟く。 「ええ・・・。本当に幸せそうね。」 ガーネットもまた自分に語りかけてくるエーコに目線を合わせながらも隣にいる 夫に返答する。 また同時にガーネットは心の中で今日はジタンのことを許してやることに決めた 。 こうして仲間と語り合うことによって自分のこだわっていたことが些細なことに 思えたからだ。また、夫の幸せそうな笑顔を見ると耐え難い怒りも消え失せてし まった。 まだ、自分達には時間がある。 そう急かなくても自分を愛してくれる時間など数え切れないぐらいあるはずだ。 同時にこの雑談も長いとガーネットは悟った。恐らく夜更けるまで、話は盛り上 がるであろう。 ガーネットの予感は的中した。空が闇に閉ざされてからしばらく経っても王の間 から話し声が途絶えることはなかったのだ。 だが、流石に急遽襲われる睡魔に勝てる者はなく、絶え間なく喋り続けたエーコ を筆頭に次々と眠りに就いていった。 ジタンを省いて、だ。 ジタンは皆が眠り鎮まる頃、そっと自室を後にする。 特に目的はないが、ただ何となく、自然に足が外に向いたのだ。目的無くジタン は自室を出て、城の中庭をぶらつく。 やや肌寒い夜の風にあたることにより、眠気によってぼんやりとしていた頭の中 が鮮明になっていった。 ぼやけていたため耳に入っていなかった虫の音も今は五月蠅いぐらいに聞こえる 。 しかし、不意にジタンはある人影を視界に入れた。 この夜更けに城を徘徊する人物を不審に思い、ジタンはその人影に目を凝らす。 その者は背丈が高く、かなり丈夫な体躯のつくりをしていたものの、鎧も身に纏 っていないところからアレクサンドリアに詰める兵士ではないことが理解できる 。 また一般の者が厳重な警戒態勢を取っているこの城に迷い込むことなど、絶対な いと断言できる。 では、何者であろうか?最低限城の関係者ではないとすれば、城に忍び込んだ不 届き者で、しかもかなりの手練れだと考えられる。並大抵の者では城門を突破す ることすら難題であるからだ。 様々な考えを巡らせているうち、徐々にその者はジタンに向けてゆっくりと間合 いを詰め始めた。 その行動からジタンは意識せずに剣の柄を握った。いきなり攻撃を仕掛けてきて も、剣を抜けるようにだ。 だが、剣が鞘から抜き放たれることはかった。 その者の正体をジタンが見破ったからだ。緊張の糸が切れたジタンは剣の柄から 手を離し、その者の名前を口にした。 「・・・こんな夜更けに何の用だい?サラマンダー君。」 冗談交じりの口調でジタンは闇夜で姿を眩ましているかつての戦友に声をかけた 。 「・・・相変わらずだな、英雄王さんとやら。」 もうすぐ姿を現すであろう、赤髪の戦士は皮肉った口調で返答する。 ジタンはその声を聞くと自らもサラマンダーの元へ歩き出し、笑顔で再会の喜び を表しながら出迎えた。 一方、そんなジタンを余所にサラマンダーは、表情を崩すことなく闇から姿を現 した。 再会の喜びなぞ微塵も感じさせない。性格は八年前と全く変わっていない様子だ った。 顔に表情を出したときは一切無いとジタンは記憶する。特に笑う、憂うという表 情は絶対に出さないであろう。 感情がないところはジェノムと同様な感じだが、それは大きな間違いと言えよう 。 何故ならサラマンダーは好戦的で、戦うことに生きる意味を感じているからだ。 戦いに勝つことにより自分の存在を実感し、敗北を喫することは、すなわち死を 意味することだと本人は信じて疑わない。 八年前、サラマンダーはジタンに初めて敗れ去った時、当然死を覚悟した。 今まで自分はそうしてきたし、傭兵時代、常にその見えざる掟に従い殺し合う人 々を見てきたからだ。 だが、自分は生かされた。 理由は分からなかった。何故殺さないのか?生かす意味があるのか? 故にサラマンダーは自らの自尊心を満足させるためにしたものだと、勝手に解釈 し、納得した。 頭の中では、確かに納得した。 が、何故か気になった。 本当にそのような人物なのだろうか、自分の導き出した答えが本当に的を射って いるのか−と。 そのため、サラマンダーはその考えを裏付けるためにジタン達との同行を決意し 、自分の導き出した答えの真意を確かめることにした。 そして旅を通して導かれた答えは、自分の考えが間違いとしか言いようのないも のだった。 彼に自尊心なぞ、存在しなかったためにだ。 サラマンダーの目線から見て、彼はしたいことをしているようにしか見えなかっ た。 人を助けたいから−助ける。 人を殺めたくないから−殺さない。 人を愛したいから−愛する。 単純明快で自由奔放、これほど彼にあつらえた言葉は存在しないであろう。 結果−自分が生かされた理由なぞ端から無かったのだ。 それが分かった時は「笑い話にもならないな」と自嘲したものだ。 しかし、生かされた理由無き理由が分かったものの、依然まだ理解できない事柄 があった。 それは−。 「お前の強さとは何だ?」 再び口を開いたサラマンダーは突然の質問をジタンにぶつけた。 『勝てない理由』それこそがサラマンダーが抱えていたもう一つの謎、導き出せ ないもう一つの答えであった。 いきなりな質問にジタンは狼狽しつつ、詳しく事情を説明するようにサラマンダ ーに事の説明を促した。 サラマンダーはその言葉に従い、過去のジタンとの戦いや生かされた意味の答え 、更に今まで励んできた修行の日々まで語った。 そのため肉体的には極限まで極めたと自負している。−が、肉体的にはあの八年 前の時から自分の方が上だったと断言できる。 なら、何故自分は敗退したのか?ただジタンの敏捷性だけに振り回されたのだろ うか? いや、違う。 何か、根本的な何かが自分とジタンの強さの差を生みだしたと自身は睨んでいる 。 答えは依然として出ていないが。 だから、ここに来てジタン本人に問いたのだ。その答えを聞くために。 「成る程な・・。けど、俺自身もお前との強さの差を広げている要因をはっきり と答えることは出来ない。」 「・・・ただ、俺達と旅してきても戦いへの概念を変えてないとすれば・・・恐 らく俺には永遠に勝てない。」 物腰静かにジタンはサラマンダーに答えた。戦士として侮辱していると捉えるか も知れないが、ここで虚偽を説いても無駄なことを分かっていたため、あえて正 直に答えた。 「永遠に・・・勝てないだと?」 流石のサラマンダーでも、その一言には敏感に反応し、怒りを募らせた言葉を発 した。 自分の存在を示すには己の力のみと信じている。力無き者は死んでいる者と同じ だと思う。 ジタン達と旅をしてもその信念は変わらなかった。 かの永遠の闇も『自分たちより劣る』が故に、滅び去ったのだ。 相手より強いから勝つ、弱ければ負ける。たったそれだけだろうとサラマンダー は思っている。 目の前の若き王は何を言いたいのか、未だに理解は出来ない。 やはり、その言葉を行動でもって示してもらうしかないであろうとサラマンダー は決心する。理由はともあれ端からそのつもりであったが。 「では、証明してもらおうとするか。剣を取れ、俺ともう一度勝負しろ・・。」 再び感情を隠したサラマンダーは静かに決闘を申し込む。 ジタンも断ることの出来ないこの勝負の申し込みには、黙って頷いた。気圧され た訳ではないが、やらなければならないとも自分の中で思っていたからだ。 作者コメント: 皆様、お久しぶりでございます(苦笑)。FINAL FANTASY\英雄王外伝−焔の拳− 謹んでお送りします。 本作品を出すと言ってから、はや三ヶ月。待っていた人(居ないと思うけど)本 当に申し訳ございません〜!(涙涙) まあ、色々理由がありまして・・・、就職やら、FF2やら、ティ○○ングやら (おい) ゲフンゲフン!!ンッン!ま、まあとにかく色々ありまして(汗汗) 話は変わりまして、実はこの話、英雄王(本編)の感想欄である方の『エーコが オトナになったのはサラ×エ−の伏線ですか?』という言葉をヒントに生み出さ れたものです 故にまさしく本作品は、ここに投稿したおかげでこれが生み出されたと言っても 過言ではないでしょうね。本当に読者にはお礼の言葉さえも浮かびません(涙) とりあえずこれは前編です。英雄王と赤髪の戦士サラマンダーとの戦いの行く末 、後編で明らかとなります!果たして結末は!!(笑) |